ホテル・ブランド料、ロイヤルティ料の値上げ傾向について、ここ半年、私の考えを書いてきた。そして読者からは、ホテルのオンライン流通をより能動的にマネジメントする手法の在り方に関する非常に興味深い指摘もあり、活発な議論をいただいた。(参考 「ロイヤルティ料金の分析」、「ロイヤルティ料についての大論争」 )。
※ 著者ピーター・オコナー氏はパリのエセック・ビジネススクール教授で専門は情報システム。フォーカスライトの欧州オンライン・アナリストでもある。
オンライン旅行会社(OTA)に対する否定的な感情は海よりも深い。しかし私はあえてそこに飛び込み、ホテルのオンライン流通における問題について、これまで見過ごされることが多かった点、あるいは正しく理解されていない事実、例えば「直接予約する方が安い」などの思い込みについて考えてみた。
OTAを軽視する風潮は、だいぶ弱まりつつある。おそらくあと2~3年で消えゆくだろう。私がこう考える理由はいくつかある。
ホテル業界とOTAを取り巻く状況の変化とは?
第一に、Airbnb(エアビーアンドビー)という、ホテル業界を揺るがす新勢力の台頭がある。今や宿泊業界が共有する悩みの種で、消費者にはあっという間に浸透した。こうしたP2Pサイトに関するグローバルな調査によると、世界の旅行者5人に1人が出張で利用している。また回答者の半分近くが、以前ならホテルを利用したであろう状況で、ホテルではなく個人宅での滞在を選んだことがあると答えている。
このような大きな脅威が立ちはだかり、厳しい競争も見込まれるなかで、OTAとの不公平な競争に対するホテル側の不満は相対的に、鳴りを潜めつつある。新しい共通の敵を目の前にして、OTAとホテル・ブランド各社は以前より歩み寄るようになった。潜在需要がある分野については積極的に取り組み、ホテル業界が新しい形態の宿泊サービスに負けない競争力を保てるよう、動き出している。
OTA側も、検索エンジン、メタ・サイト、あるいはホテルチェーン・ブランドなどとは別の興味深いサービスを提供するようになっている。例えばブッキング・ドットコムの商品、「ブッキング・スイート」は、ホテル・ブランドの直営予約サイトを支援するサービスで、事実上、ブッキング・ドットコム自身のサイトとの競争を促すとも言える。
エクスペディアの「Rev+」は、分かりやすく加工したビッグデータをホテルに提供、よりスマートで効率的な収益マネジメントを支援するサービスだ。ホテルにとって、マーケット状況に応じて宿泊料金を値上げしたり、稼働率を見ながら必要なプロモーションや割引を投入したりするのに役立つ。さらにエクスペディアでは、アクセスしてきた利用客をホテルチェーンのロイヤルティ・プログラムに登録したり、一定の条件を満たした利用客をホテルの直接予約チャネルへ誘導したりするサービスも行っている。忘れてはいけない注目すべき動きといえば、これまで「アンチOTA」の代表格であり、ホテル直接予約を訴え続けてきたマリオット・インターナショナルが、エクスペディアのパッケージング技術を導入したことだ。これは新機能を拡充し、従来とは異なる新しい顧客を自社ブランド・サイトへ呼び込むためだ。抜き差しならない状況下で、敵の敵は味方ということか。
どんどん顧客が増えていく?
OTAが誇る送客力も、こうした動きに拍車をかけている。エクスペディアによると、ホテル検索をかける際、特定のブランドを指定する人は全体の0.5%以下に過ぎない。
また調査会社BDRCが米国で実施した最近の調査結果によると、OTAとホテルチェーンのロイヤルティ・プログラム会員を比べた場合、ミレニアル世代の比率は、レジャー・トラベラーで71%、出張者でも44%ほどOTAの方が高かった。さらに海外旅行およびフリークエント・トラベラー(年間宿泊が11泊以上)の比率でも、ホテルよりOTAの会員に軍配が上がった。ホテルチェーンの努力もむなしく、こうした客層は、ホテル・ブランドよりもOTAを頼りにしている。
OTAは、ホテルにとってシナジー効果をもたらすパートナーであると理解し、上手に付き合うのが得策だ。「ホテルが一生懸命、働いている影で、OTAは客室を売るだけで膨大な利益を得ている」という認識は、いまや時代錯誤といえよう。
OTAコミッションの規模は?
以下の表で、エクスペディアの最近の歳入状況を見てみよう。
エクスペディアは昨年、87億7000万ドルを売り上げた。同社の年次レポートによると、収入源は主に3つ。(1)旅行プロダクトの元値と売値の差によって生まれる利益、(2)様々な旅行業界パートナーから得るコミッション、(3)広告収入。
諸コストや経費を指しい引いた後、エクスペディアが手にした利益は4億6170万ドル、売上の約5.3%だ。同社の予約取扱高(GBV)、つまり利用客から受け取った金額の合計は、2016年実績で724億ドル。これに対する営業利益の比率はわずか0.64%だ。つまりエクスペディアが100ドルの旅行商品を売って獲得した利益は64セントとなる(ちなみに2015年は68セント)。
同様に、プライスラインの利益は、GBV比でわずか4.33%だった。OTAがホテルを搾取し、法外な利益を得ているような印象は根強いが、実際には、売上の大部分がセールス拡大に向けた再投資に回されていることが分かる。
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コミッション利益は何に使われているのか?
エクスペディアの決算資料を見ると、収入の大部分は、マーケティング費用に投入され、結論からいうと、パートナーであるホテル各社への需要創出に役立っている。年間の営業マーケティング費は44億ドル。販売したホテル客室1泊分当たりにすると17.75ドル、あるいは利用客の平均宿泊数を2泊とした場合、予約1件当たり35.50ドルを投資した計算だ。
ちなみにこの試算では、営業マーケティング費はすべて宿泊施設の販売に充てられたことになるが、もちろん実際には、航空券やレンタカー、デスティネーションの各種プロダクトも対象だ。ただ、私がここで指摘したい最も重要なポイントには、それほど影響しない部分かと思う。
一方、プライスラインは、パフォーマンス広告とブランド広告を含む営業・マーケティング活動に年間40億ドル以上を投じた。金額の大きさばかり注目されるが、成約率を向上させるノウハウやスケール・メリットなど、OTAの強みを活かしたマーケティング能力も見逃してはならない。
もしホテルがこれを真似しても、あるいは金額を縮小してやるにしても、あっという間に利益を圧迫されてしまう。特にオンライン・マーケティングでは、予約成立に関係なく、ホテル側に間接的なコスト負担が発生する場合が多い。
エクスペディアの決算書からは、テクノロジーへの投資規模がいかに大きいかも分かる。2016年だけで、技術開発への投資は10億ドル以上。対照的に、ホテルチェーンの決算では、大手ですらテクノロジー関連の投資という内訳項目すら立てていない。
ホテルチェーンが技術投資で追いつくためには、さらなる合併を繰り返して巨大化するか、フランチャイズ料金を値上げして新しい投資資金をねん出するしかない。実際、パフォーマンス・マーケティングの分野では、新しい手数料を徴収する動きが始まっている。
もしもOTAがなかったら?
繰り返しになるが、OTAの強みはスケールの大きさだ。何百万人もの利用客を集め、一人ひとりのクリックから価値あるデータを獲得し、これを活用することで、さらなる顧客獲得やコンバージョン最適化へとつなげている。
こうしたイノベーションへの投資が奏功し、遠い異国に住み、言葉も通貨も違い、なじみのない支払い方法をするゲストをホテルに届けることができるのだ。ご承知の通り、こうした顧客は、滞在が長く、消費額も大きいが、なかなかリーチできない相手でもある。
法外に高いイメージを持たれているOTAへのコミッションだが、こうして考えてみると、充分に価値がある。ホテルやホテルチェーンが、グローバル規模で同様の販売業務を効率的に展開するのは難しいという理由に加え、そもそもコミッション自体が値下がり傾向にあり、もはや利益もギリギリの状況にあるからだ。
もしエクスペディアやブッキング・ドットコムが存在しなければ、他の誰かが同じことをやっていただろう。旅行の手配業務はいつの時代も競合他社が多く、将来的にも状況は変わらない。
OTAという業態が存在しなければ、ホテルは昔ながらのマーケティングや流通チャネルに頼るしかなかった。現在、OTAが提供しているような効率的なマーケティング手法はなく、一般利用客を獲得するためのコストは非常に高く、もっと収益性を圧迫していたのではないか。
OTAのビジネスモデルは利益率が非常に低い。スケール・メリットがあるからこそ成り立っている。過去十年ほどの間、世界中にいくつものOTAが現れたが、厳しい競争の中、事業継続に必要な収益を確保できる規模に達することができず、単体では生き残れなかった会社はいくつもある。
巨人トリップアドバイザーが最近、低いコミッションで予約仲介業務に乗り出し、OTAへと方向転換したが、これも投資家には不評で、株式の評価額は最高時に比べて60%ほど下落した。
他にも多くの企業がこの分野に挑み、イノベーションによる低コストや「ホテルにやさしい」ビジネスモデルを掲げ、華やかにデビューしたが、初期に獲得した投資分を使い果たして消えていった。
OTAに支払うコストを高いと感じるかもしれないが、ホテル流通の現実、オンライン・マーケティングというゲームをよく理解し、あれこれ比較してみると、かなりお買い得な価格設定だと気づくはずだ。
OTAは、規模の経済とグローバル展開力を活かすことでコスト効率の良い手法を作り出し、ホテルにどんどん送客してくれる。しかも対価が得られるのは結果が出た分だけ、という非常に激しい競争の渦中にいるのだ。
直接予約にフォーカスするのがホテルにとって正しい戦略、という間違った考えに振り回されるのは、そろそろやめにしてはどうだろうか?
※編集部注:この記事は、世界的な観光産業ニュースメディア「トヌーズ(tnooz)」に掲載された英文記事を、同編集部から許諾を得て、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集しました。
※オリジナル記事:Why OTA commissions are actually a steal of a deal