アマゾンはホテル予約に参入するのか? 実現時にオンライン旅行市場に与える影響を予測した【外電】

アマゾンがオンライン旅行業に参入すれば、大きな勢力を持つ既存OTA(オンライン旅行代理店)に広範な影響をもたらす可能性がある。それは間違いない――。

ついにアマゾンがインドで航空券予約を開始。すでに推定3億人の固定客を持つアマゾンは、これから旅行分野で、どんな戦術を展開するのか?その影響は?

大手金融会社であるモルガン・スタンレーが、2019年3月の投資家向けレポートで示した見解の一部を紹介する。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

株式アナリストのブライアン・ノワク氏は、旅行業界はアマゾンから「影響を受けない可能性も十分ありうる」と言う。しかし同様に、アマゾンには新規事業を立ち上げるにあたって、行うべきことをしっかりテストしたり、全力で試行錯誤をおこなうなど、過去から学んできた実績があるとも述べる。例えば、アマゾンは食品小売市場を狙うため、ついにはホールフーズ社を買収した経緯もある。

旅行ビジネスに関する最近の試みは、2015年に5ヶ月だけ実施した「アマゾン・デスティネーションズ」サービスだ。

モルガン・スタンレーは、大規模な顧客データと、オンライン旅行業のエコノミクスを破壊する能力の組み合わせが、アマゾンに「オンライン旅行市場で競争するための基盤」を与えると確信する。

さらに同レポートは、広告による効果がアマゾンにあまりに有利であると見積もる。その支払・取引レートはおよそ0.75ドルと、エクスペディア・グループやブッキング・ホールディングスが支払う額と比較すると「ほんのわずか」に過ぎない。

この2大オンライン旅行代理店グループが2018年にマーケティングと販売に使った金額は、合わせて106億ドル(1兆1660億円)に及んでいるのだ。

業界固有の問題も

ただし、アマゾンならではの「コンバージョンとより強力なユーザー・エコノミクスを推進する商品ラインナップ、サービス、価格設定、スムーズな決済の重視」を総動員したとしても、そう簡単に「旅行市場の破壊」に成功するとは思えない。

必要な初期投資は、アマゾンの娯楽動画配信事業(約64億ドル、約7040億円)など、これまでの投資額のような規模ではきかないだろうと同投資家向けレポートは述べる。

また、ブッキング・ホールディングスやエクスペディアがこれまでおこなってきたような、「販売およびマーケティングチームの確立、そして提携ホテルとの契約」の問題もあると続ける。

旅行商品は、アマゾンが普段扱う一般消費者向け商品に比べて購入頻度が低く、取引額が高い。そのため、ロイヤリティやリピート客を当てにしたビジネスが難しい側面がある。

それが要因となって、グーグルなどの企業が資本投下を検討している「旅行比較市場」が活性化するとの見方もある。

アマゾンの新しいオンライン旅行事業部門が手強い競争相手のレベルになるまでには、時間がかかるだろう。特に、ホテルの在庫量を既存OTAと競争可能なレベルに増やすまでには時間がかかる。しかし、業務提携やアフィリエイト契約、または買収により、プロセスがスピードアップする可能性もある。

実現した場合の市場への影響は?

ノワク氏は、アマゾンがホテル予約事業を始めれば、6億ドル(約660億円)の年間利益が推定されると分析する。その額は、エクスペディア・グループの約50%に至る規模だ。

さらにマーケティング効率を高めることで、利益レベルは15億ドル(約1650億円)程度まで大幅に高まる可能性があると、レポートは主張する。

アマゾンがその力を発揮してホテル手数料を引き下げ、プライム会員を最大活用した場合、一番の「負け組」となる可能性が高いのは、エクスペディア・グループとブッキング・ホールディングスだろう。

ノワク氏は、グーグルはアマゾンのおかげである程度の恩恵を得る可能性もあると指摘する。なぜなら、グーグルがすでに優位性を持ち、既存OTAが数十億ドルも支払っているデジタル広告事業の顧客のひとつに、アマゾンが加わるためだ。

「小売市場で見てきたように、アマゾンには旅行消費者の利用を誘導し、リピートを促進する能力がある。長期的に見れば、グーグルの旅行検索事業にとって脅威となり得る」。

「私たちの見解では、この脅威は高まる可能性が高い。音声検索の能力が拡大しており、消費者の自宅やテレビでアレクサの存在感が増すためだ」。ノワク氏はこのように付け加えている。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

※オリジナル記事:Amazon may not be able to resist the lure of online travel


※著者:ケビン・メイ(Kevin May)


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