日本人の海外旅行を促進するために必要なことは? ツーウェイツーリズム戦略から需要開拓の目玉企画まで聞いてきた

2019年の海外旅行者数が、長く目標だった2000万人を達成した。その達成が目前だった2019年10月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン2019」の海外旅行シンポジウムでは、関空のポテンシャルからツーウェイツーリズムの重要性、ロングホールへの対策まで、日本が今まさに直面する課題が議論された。

パネリストにはJTB執行役員個人事業本部海外仕入商品事業部長の遠藤修一氏、フィンエアー日本支社長の永原範昭氏、関西経済連合会理事国際部長アジア・ビジネス創出プラットフォーム管轄の井上剛志氏が登壇。モデレーターはJTB総合研究所研究理事の黒須宏志氏が務めた。基調講演では、関西エアポート代表取締役CEOの山谷佳之氏から関西国際空港(関空)の現状や将来戦略が語られた。

開港時とインアウトが逆転した関空、ロングホールのツーウェイも重要視

基調講演に登壇した関西エアポートの山谷氏は、まず、世界に名を連ねる空港の条件として年間送客数の目安が年間5000万人であると指摘。関空、大阪国際空港(伊丹)、神戸空港(神戸)の3空港合計で2019年上半期(1~6月)は2644万人になったとして、「念願の5000万人がみえてきた」との見通しを語った。(その後、2019年1月~12月の3 空港の総旅客数は、暦年で過去最高となる 5178 万人(前年比+7%)を記録。5000万人を突破したことが発表された。)

1994年に国際線を発展させる主旨で開港した関空は、当時、国際線日本人と国際線外国人・通過客の比率が77:23で日本人が圧倒的に多かったが、2018年度は31:69とほぼ逆転。しかも、通過客はわずか0.9%で、「もはやハブ空港のビジネスモデルではない。関空はインバウンドを受け入れる視点で、堂々とした国際空港になりつつある」と自信を示した。

関空の発展のなかで特徴的なのが、国際線LCCの就航だ。2019年度夏期スケジュールでは、28都市、週536便が就航し、全体に対するLCC比率が33%だったと明らかにし、「最近、韓国路線は不調だが、近距離アジア路線を中心にLCCの存在感が高まっている」と語った。もっとも、その一方で、ヨーロッパ・中東路線でも海外発券が増えており、「ツーウェイツーリズムが近隣アジアだけでなく、ロングホールにも広がりつつある兆しではないか。こうしたデータは路線誘致でも参考になってくる」との見解を示した。

山谷氏はこうした現状分析に基づき、関空の将来戦略で重要なポイントは、「安全性」、「デモグラフィックスの変化」、「スマホやAIなどの技術革新」、「旅行スタイルの変化」の4点だとの考え。

具体的な関空の動きでは、まず、大きな被害を受けた2018年の台風21号で、「特に、外国人旅客へのケアは、避難先、宿泊先、言葉の壁、医療といったトータルなケアで、空港だけでなく日本のどこにいても安全というネットワークが重要と痛感した」と話し、あらゆる企業・団体のBCPがつながって対応する体制づくりを進めているとした。

技術革新と旅行スタイルについては、「スマホがコモディティ化し、宿泊から飲食、翻訳、買い物、移動、支払までを網羅する旅のコンテンツのハブになっている」と言及しつつも、旅行スタイルの変化で求めるものが個人ごとに変わり、「ワントゥワンの旅行会社、コンシェルジュの利便性、情報収集力、安心感は非常に重要な役目を果たす」との持論を語った。関空という市場をみた観点では、大阪のなんばが観光ハブとしてさらに発展すれば、新しい商機が生まれる可能性が高いと示唆した。

関西エアポート代表取締役CEOの山谷佳之氏

海外旅行者数が過去最高、売る座席があるから実現できた2000万人

関空の将来には、LCCの存在感、ロングホールも含んだツーウェイツーリズムがカギになる――。山谷氏による提言を受けて行われたのが「インバウンド4000万人時代の海外旅行市場はどうなる」をテーマとしたパネルディスカッションである。

冒頭でJTB総合研究所の黒須氏が、2019年の海外旅行者数が長く目標値だった2000万人を上回る要因のひとつとしてインバウンド好調による国際線定期便座席数の増加を挙げ、「アウトバウンドビジネスにもインバウンドの将来需要への目配りが欠かせない」との問題意識を提示した。

JTB総合研究所研究理事の黒須宏志氏

アジア7カ国と連携する関経連、JATAとタッグでツーウェイ創出

まず、東南アジアとの事例を挙げたのは、関西経済連合会(関経連)の井上氏である。関経連は2019年4月から、東南アジア7カ国の経済団体と協力し、ビジネス創出、経済活性化を図るアジア・ビジネス創出プラットフォーム(ABCプラットフォーム)を開始した。この活動テーマのひとつが観光で、日本旅行業界(JATA)がプロジェクトマネージャーとして連携する。井上氏は、「業界団体と協力し合ってお互いの知見を活かしながら、双方向のツーウェイツーリズムを実践していく」と力を込めた。

具体的には、アウトバウンドではミャンマーに着目する。「2019年10月以降もさらに1年間、観光ビザ免除措置が継続することが決定したほか、日本の進出企業も2018年5月時点で376社に上り、観光、ビジネスともに増加が期待できる」(井上氏)。インバウンドはムスリムに着目し、「多様な人にストレスなく旅行してもらえる環境づくりが重要」と言及。マレーシア商工会議所と共同でハラルビジネスセミナーを開催することなども紹介した。

関西経済連合会理事国際部長の井上剛志氏

ヘルシンキがヨーロッパ第2のハブに、独自戦略で持続的成長するフィンエアー

一方、独自の戦略で日本からヨーロッパへのアウトバウンド需要を伸ばしているのがフィンエアーである。同社はヘルシンキの地理的優位性を活かし、アジア/ヨーロッパの輸送に特化している。フィンエアーの永原氏は、「フィンランドの国のサイズ、人口を考えると、欧州大手と同じ戦略で世界展開しても勝ち目がない。ヘルシンキをアジアからみてヨーロッパのハブ、ゲートウェイにすることが唯一の道と決断した」と語った。

なかでも日本はフィンランドに次ぐ送客数を維持している。2019年夏期スケジュールは最大週34便で運航しており、日本航空の7便を加えると41便で、ヘルシンキはパリの42便に次ぐ第2のゲートウェイだ。強みは、アジア/ヘルシンキ間を往復22時間以内で運航できること。今後、さらに送客数を伸ばすためには、日中に集中する発着時間の早朝深夜への分散を挙げた。実際、関西/ヘルシンキ線も2019年から双方の深夜発便を設定している。

フィンエアーの目線はアウトバウンドにとどまらない。2019年12月から週2便で開設する札幌/ヘルシンキ線は、初めてヨーロッパからのインバウンドを中心に考えた路線。永原氏は、「冬場の北海道へヨーロッパから想像以上の需要があると本社を4年近くかけて説得した。一方、札幌をハブにヨーロッパに旅してもらうことも可能になる」と意気込んだ。

フィンエアー日本支社長の永原範昭氏

2020年度ヨーロッパに着目するJTB、魅力を次世代につなぐためには?

JTBもヨーロッパへのアウトバウンド喚起に力を入れている。2017年度から取り組んでいるグローバル・デスティネーション・キャンペーンの行先を2020年度はヨーロッパに設定。JTBの遠藤氏は、「クオニイ・グローバル・トラベルサービスが17年からJTBの一員になった強みを活かしたい」と語る。

実は、黒須氏によると、日本の海外旅行者数が増加するなかで、伸びをリードしているのは20代女性。ただ、この層は韓国、ハワイへの好感度が高いのに対し、ヨーロッパはシニア層に比べ圧倒的に低いのが現状だという。

そうしたなか、遠藤氏が需要開拓の目玉企画として挙げたのは、ヨーロッパ内をバスでめぐる「ランドクルーズ」。82ルートを設定し、多彩な区間を好みで組み合わせ自由に旅をデザインしてもらうもので、1人から出発可能、日本語係員が同行する。「ヨーロッパ旅行の申し込みパターンとして、旅慣れたシニアはネット、若者は店舗という意外な傾向もある。テロが発生したこともあり、リアル店舗にヒューマンタッチなサービスと安心できるコンサルティングが求められているのではないか。安心を担保しながらFITニーズに対応し、若い世代も開拓していきたい」と話した。

関空のポテンシャルからツーウェイツーリズムの重要性、ロングホールへの対策など、話題が多岐に及んだ今回の海外旅行シンポジウム。黒須氏は「東南アジアのツーウェイをしっかりつかみつつ、やはり重要なのはロングホール。ヨーロッパの魅力を次世代につないでいくためには、造成だけでなく、リテール事業者のみなさんも含めて、関空の拡充チャンスをとらえながら、需要創出を探っていくべき」とまとめた。

JTB執行役員個人事業本部海外仕入商品事業部長の遠藤修一氏

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