旅行関連の企業や組織など50以上が集まり、それぞれの立場から、気候変動への緊急対策として取り組むことを“宣言”するネットワークを結成した。
この「ツーリズム宣言(Tourism Declares=TD)」を発足したのは、アドベンチャー旅行を手掛けるマッチベター・アドベンチャーズ(MBA)社と、サステナブル・ツーリズムを専門とするライター兼コンサルタントのジェレミー・スミス氏。参画する各社には、国連のIPCC(気候変動政府間パネル)の提言に沿って、排ガス削減策に責任をもって取り組むよう求めている。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
IPCCによると、世界全体で2030年までに、排ガス量を2017年比で55%削減する必要に迫られている。
MBAの共同創業者兼CEOのアレックス・ラナコット氏は、もともと他の産業界でこうした取り組みが発表されていた2019年中に、同組織を立ち上げる予定だったが、ツーリズム宣言の戦略を考える作業に、より多くの人から参画してもらうことを優先した。
「今じゃなくて、いつやる? アマゾンやオーストラリアで発生している森林火災など、最近の状況からも分かる通り、我々が直面している問題は、待ったなしだ」と同氏は話す。
「必要なのは、大胆かつ一致団結した取り組みに、今すぐ着手すること。内外に対し、現状のままでは問題があり、解決が必要だと認めることが第一歩だ。ツーリズム業界の反応は、これまで非常に緩慢としていたが、議論をスピードアップする契機になってほしい」(ナラコット氏)。
ツーリズム宣言の参画企業は、サステナブル・ツーリズムのみを扱うレスポンシブル・トラベル社、アドベンチャー旅行会社のエクソドス・トラベル社、ベンチャーキャピタルのRippl社など。各社とも、TDが掲げる5つの行動目標に賛同し、気候変動への緊急対策プランや排ガス削減策作りに取り組む。
ナラコット氏は「実現したいのは、世の中に対して、透明性をもって誰でも分かるような形で企業が説明責任を果たすこと。それが重要なポイントになる。自社の取り組み目標を宣言した企業には、今後12か月間、どのような気候変動への緊急対策プランを実施しているか、他の参加者と共有するようお願いしている」と説明。
「目標と、その目標に対する進捗状況をオープンにすることも、参加各社にお願いしている。こうした枠組みにより、高いレベルで、自分で自分を律するような流れが出来上がることが狙い。グリーンウォッシング(グリーンな企業であると表面だけ取繕う)でごまかせば、非難されるリスクもある」。
こうした戦略と同時に、レスポンシブル・トラベルを率いるジャスティン・フランシス氏は「排ガスの内容表示」も不可欠だと訴えている。
旅行サービスを選ぶ消費者の判断材料になるように、データで情報を表示する仕組みが必要であり、産業界全体で、排ガス表示に関する共通スタンダードを作るのが、効果的な手法だと考えている。
レスポンシブル・トラベルでは、スウェーデンンのルンド大学教授のステファン・ゴスリング氏と、豪州クイーンズランド大学のヤーイエン・サン博士に調査を依頼。休暇旅行に伴う排ガス量について、食事、宿泊、交通機関などすべてを含めると、どのぐらいの規模になるかを調査レポートにまとめた。
フランシス氏は「もちろん飛行機の利用は少ないほうがよいのだが、排ガス量を増やしている要因は他にもあった。特に食べ物はインパクトが大きく、休暇旅行で排出される二酸化炭素の量が最も大きい要因となるケースもあった」。
「実質ゼロの排ガス量を2050年までに達成するためには、飛行機の利用を減らし、食べる物も見直す必要がある。今回の調査は、小規模なパイロット版だったが、議論をスタートするのに役立っている」(同氏)。
旅行観光産業における過去の取り組みに対し、バラバラだとの批判もある。だがMBAのナラコット氏は、一つの戦略にまとめることが、最良の解決方法だとは考えていない。
「我々が奨励している宣言は、それぞれの企業や組織が、活動内容がもたらす結果に対する責任を自覚し、それぞれの立場に即したプランを策定するというもの。これをすべての企業や団体が実践し、お互いのベストプラクティスを共有し、協力し合うことができれば、大きな前進につながるはずだ」(ナラコット氏)。
それでも一つ疑問が残る。実効性のある形で、戦略方針を継続できるだろうか。
2007~2008年に金融危機が起きる前は、気候変動や旅行による環境への負荷の問題は、頻繁に議論されており、多くの企業が様々な戦略を策定していた。しかしその後、すっかり放棄されてしまった。
だがナラコット氏は「事態は急を要するとの認識は、今の方が当時よりずっと大きく、社会にも経済界にも、広く深く浸透している」と見ている。
「こうした意識の変化は、言葉にも表れていると思う。10年前だったら、政府が“緊急事態”を宣言することはなかった。IPCCは、2030年までに2017年比55%削減を目標に掲げているが、より短期の目標を設定したことで、人々の注意が集まりやすい効果もある」。
「締め切りまでの時間が限られている方が、大きな成果が出やすい。5~10年という期限の設定は、政治や資本市場でも効果が高い」(ナラコット氏)。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Travel and tourism organizations push for action on climate emergency
著者:リンダ・フォックス氏