トラベルボイスLIVE特別版:開催レポート
2019年に、ついに年間2000万人を超えた日本人の海外旅行。旅行形態は個人旅行へ、手配形態は単品販売へと変わり、新たなプレイヤーも登場している。2020年も活況が続くとの期待が高かったが、今、観光・旅行業界は新型コロナウイルス禍に見舞われている。日本人の海外旅行の復活までは、まだ時間がかかるとみられる。しかし、復活の時は必ず来るはずだ。
その時に備え、ポストコロナ時代の変化を見据えつつ、近年起きていた海外旅行者の行動やニーズなどのトレンドを知っておきたい。市場を動かす旅行者は、どのように海外旅行を楽しんでいるのか。デジタル時代の海外旅行のビジネスチャンスはどこにあるのか。
2020年1月に開催した「トラベルボイスLIVE」では、JTB総合研究所と経路検索サービスのナビタイムジャパン、現地ツアー・アクティビティ販売のベルトラの3社が登壇。観光専門シンクタンクの調査や統計、実際の旅行者の動きが推察できる経路検索サービス等のデータ、旅行者が購入している商品傾向から、日本人海外旅行の実態に迫った。
その内容をレポートする。
見るべきは、いまの旅行者の「感性」
まずはJTB総合研究所の執行役員企画調査部長・波潟郁代氏が、同社の調査や統計データから、海外旅行市場が大きく様変わりしていることを指摘。マーケットリーダーが20~24歳のZ世代女性となり、旅行形態は個人旅行へ、方面はアジアへとシフトしており、「従来型のマーケティングでは新しい客層を獲得できなくなる」と注意を呼び掛けた。
特に個人旅行では、航空券とホテルの直接購入が拡大し、特に近年のホテルの伸びが注目される。その背景としてサプライヤーが囲い込み戦略で市場対応を進めている動きを指摘。例えば、世界最大のホテルグループ・マリオットではモバイルアプリ経由の予約獲得を目指し、ソーシャルメディア戦略室を設置した。情報発信を顧客目線に転換し、アプリ上でロイヤリティを高める仕掛けを開始することで、アプリ経由の売上が7割増となったという。
さらに、旅行方面の変化では、主要客層である若年女性の志向の変化を指摘。「ライフスタイルで日本以外に参考にする国」を調査したところ、Z世代の1位は韓国だった。波潟氏は「いまは韓国への旅行が減っているが、ライフスタイルとの接点を考えると上の世代が考える以上に、若年層には身近な存在」と強調。
さらに、Z世代の親世代がバブル世代であることにも触れ、「親子関係は昔に比べて友だち感覚になっており、波及効果が相互に得やすい」と話し、彼らの価値観や行動が与える影響力が大きく、無視できない存在になると指摘した。
ナビタイムジャパンのインバウンド事業部部長・藤澤政志氏は、同社の海外乗換サービス「NAVITIME Transit」ユーザーの検索結果やGPS測位データから、海外旅行者の移動の傾向を解説。同社のユーザーは女性が6割、年代別では18~38歳が5割を占め、市場の牽引層の動きが反映されたデータになっているという。
今回は、台湾とタイでの経路検索とGPS測位のデータを披露。双方とも圧倒的に鉄道沿線での測位が多く、「若い世代にとって鉄道移動は当たり前になっている」という。
また、例えばバンコクの駅以外で最も多く測位された場所は、ターティアン船着き場とワット・ポー。船着き場別の発着ランキングでは、BTS駅に近いサトーン船着き場からターティアン船着き場への検索が1番多く、この経路でワット・ポーへ行っていることが推察できる。
藤澤氏は、検索結果や測位データの相関によって、旅行者の観光パターンを属性別や時間別など細かに見出すことができるようになったと説明。海外旅行での積極的なデータ活用を推奨した。
ベルトラ代表取締役社長兼CEOの二木渉氏は、同社の商品開発とサービス提供の特徴とその理由とともに、旅行者が好む現地での旅行体験を説明した。
二木氏によると、同社は2004年の事業開始以降、常に2ケタ成長を続けている。商品数の増加による販売増ではなく、NPS(ネットプロモーターズスコア:顧客推奨度)を重視しており、二木氏は「注力しているのは、カスタマーエクスペリエンスの向上。タビマエの予約から、タビナカでの旅行体験、タビアトまで、当社のサービスすべてに責任を持つこと」と、顧客の評価を成長に繋げていることを説明。商品開発では付加価値の創出を意識し、企画段階から現地催行会社と協力して、競合との差別化に取り組んでいるという。
商品カテゴリ別の参加比率を見ると、「ツアー&アクティビティ」が7割超で「人が付加価値を加えるものが構成比を占めている」と二木氏。「参加者の感想は、景色の美しさより、人との交流の思い出」といい、体験のストーリーを重視し、文化や人にフォーカスしてサービスと質を組み合わせた商品に力を入れた結果、この4年間の客単価は上昇し続けているという。
デジタル×海外旅行市場の捉え方
トークショーでは、冒頭に波潟氏がシェアした直近のイタリア・トスカーナ旅行でのタビナカ体験と3氏の事前プレゼンの中から、モデレーターのトラベルボイス代表取締役社長CEOの鶴本浩司が注目した、今の海外旅行市場のポイントを取り上げ、各者とのトークで掘り下げていった。
マーケットリーダーZ世代とバブル世代の関係
これについては波潟氏が、「バブル世代は、同世代よりもZ世代との親子関係の方が近く、消費にも影響している」と説明。わかりやすい例として、海外旅行で20代はWi-Fiを携行する人が多いが、それを子から聞いた親が使うケースもあると話し、「Z世代は上の世代に波及する力がある。ワンポイントではなく関係性を捉えた販促が、デジタル時代では大事になる」と語った。
サービスと品質の組み合わせで単価が上昇
これについては、二木氏がその一例として、観光地や体験内容ではなく、人を主体に制作した“人オリエンテッド”の商品サービス「コロリエ」を紹介。
例えばリピーターの多いハワイでは同じ現地ツアーに何度も参加する旅行者がいるが、その人の目的はお気に入りのガイドのガイディングと会話を楽しむこと。二木氏は「そういう意味で、人は差別化要因として絶対的な存在」と主張し、「指名制度を導入したところ、一番高い商品で単価が1.5倍の差になった。それでも予約はそこから埋まっていく」という。
タビナカと移動(トランスポーテーション)の関わり
これについては藤澤氏が、波潟氏の旅行体験でも話された旅行サービス「Omio(オミオ)」に言及。経路検索にその交通手段はもちろん、ホテルやチケットの予約を加えたサービスで、「欧州内の旅行はほぼすべて完結するサービスを、移動を主体に作っている」と紹介した。
藤澤氏はさらに、「Rome to Rio」など名称通りワールドワイドで展開する同様のサービスの存在も提示し、「移動を軸に、旅の入口からタビナカ、出口まですべてを扱おうとするトレンドが起きている」と指摘した。ナビタイムも、日本人向けに移動を主体にした同様のサービス提供を目指しているところだという。
「ゲートキーパー」グーグルへの対抗は?
最後に鶴本は「ゲートキーパー」について取り上げた。ゲートキーパーとは文字通り、検索をした人をサイトに連れて行くデジタル世界の「門番」で、その最大の存在はGoogle(グーグル)」だ。
このグーグルが、7年前に買収した米のツアー&アクティビティ会社ピークに対して昨年に資本参加をしたことから、鶴本は「グーグルがタビナカ分野に入ってこようとしているのではないか。すると、グーグルで旅行予約等が完結することになる」と、旅行事業者にとってゲートキーパーの役割が変わりつつあることを指摘し、二木氏と藤澤氏に意見を求めた。
これに対し、二木氏は「それは想定内」と回答。だからこそ、「アルゴリズムやテクノロジーで作られたサービスではなく、人にしかできないストーリーを重視して、商品やサービス開発を行なっている」と、人の重要性を強調。
藤澤氏はローカライズをポイントにあげた。「グーグルは、グーグルマップを入り口に、行き先を検索した人に何かをさせようとしていると思う」とした上で、「その時にユーザーが満足するデータをどれだけ集めることができるか。例えば、日本全国のバス路線への対応は難しく、自らがローカルでデータを集める必要があるため難しい」と述べ、グローバルの巨人だからこその弱点があると指摘した。
ちなみにナビタイムは、日本全国すべて路線バスのナビゲーション対応を実現。バス停の時刻表からバス停の位置まで、必要に応じて担当者が現地に出向いて確認したデータがあるからこそ、正確で利便の高いIT活用のサービスが提供できると自負している。