飛行機に乗るべきか、乗らざるべきか? コロナ危機で変わる世界の価値観、新たに生まれる優先順位を考える【外電】

新型コロナウイルスがもたらした不安な情勢が続く日々のなかで、暮らしも、仕事の進め方も、大きな変化を強いられている。

この状況下で私たちは否応なく、様々な試行錯誤を繰り返すことになり、長期的にも多くのインパクトが出てくるだろう。なかでも、最も深刻な影響を受けることになりそうな業種が「旅行」だ。

世界のあちこちで、人と会うことができなくなり、一体どうやって今まで通りに仕事を進めればよいのか、企業も個人も苦慮している。だが企業活動、自動車の排気ガス、フライトやツーリズムが大幅に制限されたことが、各国や都市の空気改善に効果を発揮したことも明らかになった。企業各社は、売上の見込みが消えてゆくなか、コスト削減に四苦八苦している。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

飛行機に乗る必然性とは?

こうしたなかで先日、航空マーケティング・コンサルティングを手掛けるシンプリーフライイング(SimpliFlying)の創業者兼CEO、シャシャンク・ニーガム氏から、リンクトインに短い質問が投稿された。「飛行機であれほど飛び回る必要はあったのだろうか?」

ニーガム氏は現在、都市封鎖されたムンバイの自宅で家族と過ごしながら、状況が改善し、トロントに戻れるようになるのを待っている。そんな毎日のなかで、この疑問が浮かんだという。同氏は過去10年間、年に55~75回は飛行機を利用しており、年間の移動距離は20万~30万キロに達していた。

「先進諸国に暮らす我々の多くは、何かあればすぐに飛行機に乗って出かけていた。理由はクライアントからの要請だったり、休暇だったり。航空券の値段も手の届くものになり、空の移動は日常の一部。何の疑問も感じていなかった」と同氏。

ところがコロナ危機を経験するなかで、ニーガム氏は疑問を感じるようになった。

「私の直近の出張は2020年2月末、ちょうどロックダウン直前のロンドンでのワークショップだった。この時と同じ航空会社クライアントと、またワークショップを予定しているのだが、次回はバーチャルなワークショップしかできない。で、どうしたかというと、バーチャルで構わないという話になりつつある」(同氏)。

「もちろん、(バーチャル・ワークショップでは)同じ部屋で顔を見ている時ほどの親近感は期待できないだろう。だがコンテンツの90%は提供できて、残りの10%については、年に一回開催する場で共有できるなら、年に4回も出張する必要があるのだろうか?」

出張や旅行の価値について考える一方で、ニーガム氏は今年1月、自分の移動による排ガス量を初めて試算。その結果はショッキングなものだった。排出量は年間で90トン、一人当たりの排出量が世界最大の国(カタールの44トン)の倍。その95%は飛行機での移動によるものだった。

「急進的な環境保護活動にはまったく興味がない私でも、これはショックだった。環境に配慮するなら、何よりも、長距離フライトを毎年一回減らすことが必要だったなんて。これがきっかけとなり、本当に飛ぶ必要があるのか考えるべきだと思った」

人類にとって貴重な経験かもしれない

サステナビリティのコンサルティング・ファーム、グリーンビュー(Greenview)創業者兼CEOのエリック・リカウルテ氏は、マリオット・インターナショナルやインターコンチネンタルホテルズ・グループ、ヒルトンなど、ホスピタリティ産業のグローバルチェーンから中小ホテルブランド、クルーズ、観光局などと仕事をしている。

リカウルテ氏は、今回のパンデミックについて、企業にとってよい機会でもあると考えている。世間からも投資家からも、気候変動問題にもっと真摯に取り組むようプレッシャーを受けている各社にとって、リセットするチャンスだからだ。

「予算はどうなる? どこで節約する? と悩んだ挙句、『出張をやめてリモートで会議を開くのはどうかな。何も問題なさそうだけど』と考える人が多くなるだろう」と同氏は話す。

「今年以降、排ガス量は間違いなく減るだろう。もともと気候問題に取り組む必要に迫られていた企業各社は、これを自らの業績にしたいと考える」。

業務渡航を見直す戦略がどのようなものになるのか、現段階では分からないし、企業によっても異なるだろう。例えば、今まで通り産業界全体が集まる大規模な会合には参加する一方、他の出張の回数は減らし、一度の出張で多くの業務をこなせるよう集約するのも一案だとリカウルテ氏と話す。

これに対し、南オーストラリア大学で観光マネジメント担当シニア講師を務めるフレヤ・ヒギンズ‐デスビオール氏は、もっと急激な変化を期待している。

「今までと同じ“通常営業”に戻るのはもうやめよう」と同氏は提言する。

ヒギンズ‐デスビオール氏は「尽きることのない消費と成長拡大によって、回り続ける経済」こそが問題であると指摘、そうしたなかで観光旅行も出張も過剰になっていたと話す。だが突然、世界を襲ったコロナ危機のすさまじいインパクトによって、人も企業も、別の選択肢に目を向けるようになっている。

「コロナウイルスは、ある意味、我々が当たり前だと思っていた生活に、疑問を突きつけている。それが一筋の希望の光だなどと思っている訳ではなくて、私自身も今回のことで大変な目にあっている」と同氏。

「ただ、こうした危機における経験を活かして、大事なことに気付くべきだ。これまで当然だと思っていた日常を突然、失った。この先、経済の立て直しが始まり、旅行や観光に出かける動きが再会する時には、生態系や環境を破壊しないよう、もっと慎重に配慮しながら、再出発することが必要だ。なぜなら今回のパンデミックと同じようなことは、これからも起きるからだ」。

ヒギンズ‐デスビオール氏が最も恐れていることは何か。渡航制限が緩和された後、パンデミックによる経済的な困難を乗り越えるために、これまで「オーバーツーリズムを批判していた人までが、成長レトリックに乗り換えてしまうこと」たという。

新しい優先順位が生まれる?

危機が収束した後、人々が再び気分よく空の旅に出かけるよう背中を押すために、航空会社と空港が力を入れるべきことは「3つのS」対策が必要だとニーガム氏は指摘する。

一つ目のSはSafety(安全)、そしてSanitization(衛生)。「9/11テロ事件の後、航空会社はコックピットのドアを防弾仕様に強化した。同じように、人々の不安を払拭し、飛行機を利用してもらうためには、“健康を守る”ための防疫強化が必要」と同氏は話す。

3つ目のSはSustainability(サステナビリティ)。「航空会社や空港にとってはチャンスだ。気候変動に与える影響を、以前の半分程度に抑えることができるとアピールすることも可能だ。フライト数を減らしたり、運航ルートを効率化したり、燃費効率の改善などに取り組んでほしい」。

またニーガム氏は、コロナ危機下で注目されるようになった “エッセンシャル(必要不可欠)”というコンセプトが、今後の旅行の在り方に一石を投じるのではないかと考えている。

「事態の収束後、『エッセンシャル・ワーカー』という新しいカテゴリーができて、該当する人には、企業や州政府など当局から“必要不可欠”な移動の認定証などを発行する。例えば医者や看護婦、配管工事の人、あるいはキャッシャ―など、出かける必要がある人たち。軍関係者を対象としたカテゴリーがあるが、これと同じようなものだ。特別な運賃を設定し、優先搭乗などのサービスがあってもよい」(同氏)。

「必要不可欠な移動、あるいは必要不可欠な働き手の人々。コロナ危機が落ち着いたら、このカテゴリーを新たに設定し、航空会社には、優先的に座席を用意してもらい、運賃も利用しやすい価格帯に抑える。一方、必要性が低い人には、旅行するべきかどうか、それぞれの判断にゆだねることになる」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」に掲載された英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:To fly or not to fly? Why sustainability matters in a post-COVID world

著者:ミトラ・ソレルズ氏

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