エクスペディア・グループは2020年12月9~10日、毎年ラスベガスで開催していたパートナー・カンファレンス「Expedia Explore‘20」を初のオンライン形式で開催した。22回目を迎える恒例イベントには、世界171カ国から3380人が参加し、エクスペディア各部門や旅行業界のキーパーソンが出演する計15のセッションを行った。
冒頭に挨拶した副会長兼CEO(最高経営責任者)のピーター・カーン氏は、CEO就任以来、コロナ禍でコスト削減やリストラに奔走してきたイメージだが「私はいつも成長を前提に考えているし、エクスペディアの成長も確信している」と話し、来年2021年を表す言葉として「Rebirth(復活)」を選んだ。
パンデミックだけの1年ではない、バケーションレンタルで新たな需要
同氏は2020年を「パンデミックだけの1年ではなかった。エクスペディアとして雇用や顧客サービスにおけるインクルージョンとダイバーシティへの取り組みを進めている。まだ長い道のりだが、その一つとして、LGBTQIや女性の一人旅など、これまで十分に対応できていなかった様々な客層向けのサービスを強化中だ」と振り返った。展開するOTAブランドの一つ、オービッツをLGBTQIフレンドリーなプラットフォームとして打ち出し、同セグメント向けに、安全で快適な旅に必要なコンテンツやヘルプを拡充している。
エクスペディアが展開する様々な旅行ブランドでも業績は低迷したが、明るい材料となったバケーションレンタルのバーボ(Vrbo)については「家族客、特に祖父母も含めた3世代や兄弟姉妹が子供連れで一緒に過ごすなど、大人数の家族グループの利用を想定している。リモートワークやオンライン授業が広まったコロナ危機下で、特に需要が増えた」。
一方、これまで様々な旅行関連の事業を買収してきた同社では、コロナ危機に見舞われる以前から、多ブランド戦略の整理に着手しており、これは現在も継続中だ。「我々は世界最強の旅行テック企業。それゆえに誰よりも得意なことがいくつかあるが、一方で、それほど得意ではないことも実はたくさんある。大胆に恐れることなく進むべきだが、うまく機能していない部分は見直しを進めている」(カーン氏)という。
改革を進めるうえでパンデミックは追い風に
カーン氏がエクスペディアCEOとして経営の指揮をとるようになって、まだ1年たたない。「新鮮な目」で社内を見渡すことができたこと、さらにパンデミックという異常事態が加わり、これまでの通常業務がストップしてしまったことで、「むしろ今までよりも柔軟に自由に考えられるようになり、以前は難しかったことも考えられるようになった」と話す。エクスペディアが本当に得意なことは何かを見極め、自社の棚卸を行い、改革を進める上で「パンデミックは追い風にもなった」と自信を示した。
エクスペディアの最大の強みは「テクノロジーとマーケットプレイス、以上だ。ここに注力することが、当社の利用客やパートナー企業への最も強いサポートにつながる」(カーン氏)。それ以外の部分については、「他社に任せてしまう勇気も必要だ。パンデミックは、我々が一番得意なことにフォーカスするきっかけになったことは間違いない」(同氏)。
また、今後、同社は巨大なマーケットプレイスから得られる旅行データを最大限に生かしていく考え。同社では多ブランド展開する巨大OTAならではの問題として事業ごとにバラバラなサイロ型のシステムがあったが、データの連携を進めることで、より有意なデータベース構築を進めてきた。
サプライヤー各社には、こうしたデータや分析結果、エクスペディアが開発したツールなどを活用してもらい、双方にメリットがある長期的な関係を築いていく。
さらに、カーン氏はマリオットとの包括的な流通提携に言及し、さらにより多くのホテルとの間で同様な流通提携を増やすことに意欲を示した。「ホテルがエクスペディアを介して、流通をシンプルにし、無駄なコストを省き、マーケットプレイスを管理しやすくなることで、WINWINの関係につなげたい」考えだ。
健康ケアや柔軟なキャンセルポリシーが予約を左右する
続いて出演したエリック・ハートCFO(最高財務責任者)は、パンデミックからの回復期に予約動向を左右するカギとして、(1)健康・衛生対策、(2)払い戻しや変更など、予約ポリシーの柔軟性が、目下、ユーザーから重視されていると話し、導入するだけでなく、それを予約サイトなどで周知徹底し、最新状況に合わせて更新することが重要だと訴えた。
同社が実施した調査では、3人に2人がこの2点を「今、最も優先順位が高いこと」に挙げた。利用が増えているバケーションレンタルでも、こうした対応策を実施し、予約サイト上で十分に説明している施設は、そうでない施設と比べてシェアが10%増となった。同様の傾向は、ホテル、航空会社、空港でも見られるという。
こうした利用者のニーズに対応するために、エクスペディアでは、予約可能な航空会社や宿泊施設のリストに「変更手数料なし」「キャンセル無料」の表示を追加したほか、レンタカーやホテルで導入している非接触型の「オンライン・チェックイン」や「カウンター手続き不要」、航空各社が実施している安全やクリーン対策の表示なども拡充。実際によく検索されているという。
訪問先デスティネーションで導入されている自主隔離やマスク着用、事前検査の必要性などの情報は、旅行者が出発地と到着地、パスポート発行国、日程などを入力すると、関連する地域の最新情報が自動的に表示している。
また万一の時に、手続きが簡単で分かりやすいように、エクスペディアではAIバーチャル・エージェントによるワンクリックの対応サービスを導入。1日24時間、年中無休でキャンセル、旅程変更、払い戻し請求、バウチャーの引き換え、安全対策についての質問などに対応する体制を整えた。問い合わせが複雑な内容である場合は、人間のエージェントに切り替わる仕組みだ。
予約時期のトレンドは間際と早期の二極化
一方、予約時期については、前日や当日の予約など間際化が進むと同時に、2年後のクルーズを予約する「ドリーム」需要の二極化が起きている。同社が展開するブランドの中でも、間際対応に特化しているホットワイヤでは、「出発間際に、自宅から50マイル圏内で、割引料金の宿泊施設とレンタカーを見つけて出かける層はむしろ増えている。またエクスペディア・グループ全体でも当日分の予約は倍増している」(ハート氏)。
一方で、「理想の旅行」の実現に向けて、来年、再来年の予約を入れる動きも見られる。2020年9月、エクスペディアが実施したクルーズのキャンペーンでは、2021~2022年に催行予定のクルーズで9000人の予約を受けた。
旅行需要の回復状況については、ハワイの事例を提示。10月15日から海外旅行客の受け入れを開始したハワイの予約は、バケーションレンタルもホテルも右肩上がりに伸びているという。ハート氏は「当社のデータから明白なのは、旅行できるようになるのを待っている人が大勢いるということ。各地の受け入れ体制が整い次第、予約は確実に動き出す。凸凹の多い道のりにはなるが、みなさんと力を合わせることで、2021年を回復の年にできると信じている」と話した。