日本の観光振興における総本山ともいえる日本観光振興協会(日観振)は、2021年3月1日に記者会見を開催し、「日本の観光再生宣言」を発表した。コロナ禍において、日本経済、特に地域経済に重要な役割を果たす観光の重要性を再認識し、観光再生を通じて地域と一体で持続可能な社会の実現を目指すことを表明するもの。
日観振は、観光事業者や関連企業、自治体や観光協会など全国約700の観光関係者で構成され、地域と民間が一体となって観光振興に取り組む団体。会見で同協会会長の山西健一郎氏(三菱電機・特別顧問)は、昨年初来の感染拡大の影響で観光需要が消滅し、地域経済の下支えをする観光産業に厳しい状況が続いている状況を説明。「観光産業が地域と一丸となってこの危機を乗り越え、ニューノーマル時代に相応しい観光再生によって、持続可能な地域社会を実現する役割を果たす」と述べ、宣言の趣旨と意義を強調した。
同宣言では、日本の観光が国内消費額(2019年)が他産業への波及効果を含めて55兆円を超える日本の基幹産業であり、日本経済をけん引する成長分野であることを説明。コロナ禍によって、それが2020年5月には前年比約9割減、国内宿泊者数は前年比84.9%減にまで落ち込んだ。GoToトラベル等の支援で同11月には宿泊者数が前年比30.5%減まで回復したが、その後の感染拡大、緊急事態宣言の発出で再び減少し、さらに厳しい状況にある現状を説明した。
同時に、宣言内で「これまで以上に感染防止対策に力を入れる覚悟」も強調。「緊急事態宣言が解除され、感染状況が一定程度収まった後には、可能な県内からでもGoToトラベルの再開を期待する」としている。(宣言の内容は日観振のホームページ参照)
同協会副会長の髙橋広行氏(JTB取締役会長)は、国内旅行、海外旅行、訪日旅行が閉ざされている現在の観光業界について、「まさに存亡の危機に瀕している」と危機感を表明。交通機関では便や路線の縮小や廃止、旅行業や宿泊業、飲食業では急速な廃業が進み、これら従事者の転職が発生している状況に、「(国や地域経済を下支えする)観光のインフラが失われ、市場回復期に観光が成り立たなくなる恐れがある」と危惧を示し、「感染拡大と経済活動を二者択一の対立軸ではなく、折り合いをつけながら両立させることが大切」と訴えた。
観光再生の道筋は? 国内旅行のカギは「MaaS」と「ワーケーション」
会見で示された、観光産業の当面の課題は2点。1つは、観光の多勢を占める「国内旅行の再生」、2つ目は「国際交流の再開」。
1つ目の国内旅行の再生については、コロナ発生後の1年間で得た感染防止対策の知見を今後の旅行に生かし、ニューノーマル(新時代)に対応した国内旅行の形を早急に構築する。この1年間の各種データを活用し、GoToが感染状況に与える影響など、科学的な分析結果に基づいた対策を実施することを検討しているという。
同協会副会長の冨田哲郎氏(東日本旅客鉄道取締役会長)は、「日本経済の再生の柱は地方創生、地域活性化と述べ、そこに観光産業が貢献できるポイントとして、(1)ワーケーションや分散型旅行などのニューノーマルへの対応、(2)MaaS、DXなどによるデジタル化の推進、(3)人材確保・育成など観光事業の継承の3つを述べた。
特にMaaSに関しては、単なる移動の連携だけではなく、「観光産業のサプライヤーを1つのプラットフォームにまとめ、予約・決済、情報検索ができるサービスを構築する観光型MaaSに取り組む」と表明。新潟や群馬、伊豆、東北などで始まった地域とのMaaS展開を紹介した。
また、同協会副会長の後藤高志氏(西武ホールディングス代表取締役社長)は、ワーケーションについて「コロナ禍の価値変容伴って急速に注目されているが、観光事業者が十分なサービスを提供できているとは言えない。企業側の関心も低い面がある」と問題点を指摘。「働き方、ライフスタイル、企業の姿勢、首都圏と地方の位置づけが日々変化している。ワークとバケーションをつなぐことが観光産業復活のキーワード。地域や社会の困りごとを解決するような新しい形を提案していく」と話した。
同協会では、経済界に対してワーケーション活用への働きかけや理解促進の活動を進めており、国内の感染状況を見ながらさらに推し進める方針だ。
2つ目の国際交流の再開については髙橋氏が、「今後、2国間の事情を見極めながら、部分的、段階的にも再開させることがポイント」との考えを表明。現在、ハワイでは日本人観光客に対し、一定の条件を満たした場合に2週間隔離を免除していることをあげつつ、「PCR検査を充実させ、陰性証明書をスタンダート化し、旅行者の行動を常時把握できるようにした小規模管理型旅行から再開することも有効ではないか」と、現在の検討内容を明かした。