積水ハウスがマリオットと協業で推進する「道の駅」拠点の地方創生、ホテル展開の現在と未来を聞いてきた

フェアフィールド・バイ・マリオット・岐阜清流里山公園

積水ハウスとマリオット・インターナショナルが「道の駅」をハブとして新しい旅のカタチを提案する「Trip Base道の駅プロジェクト」。道の駅に近接したロードサイド型ホテル「フェアフィールド・バイ・マリオット」を全国各地でオープンしている。最大の特徴は、単なる観光拠点としての宿泊事業だけではなく、周辺の事業者を巻き込んだ地方創生事業として展開しているところだ。住宅メーカーである積水ハウスがホテルを拠点とした地方創生に乗り出す意図とは。Trip Baseで目指す未来とは。同社開発事業部道の駅プロジェクト運営統括室室長の渡部賢氏に聞いてみた。

フェアフィールド・バイ・マリオットを周遊の拠点に

Trip Base道の駅プロジェクトが動き始めたのは2017年。翌年11月に正式に事業開始が発表された。積水ハウスは、それまで「セントレジス大阪」「W大阪」「モクシー大阪」「ザ・リッツ・カールトン京都」など主に都市部でマリオットとの協業を進めてきたが、インバウンド市場が急速に拡大し、旅先も都市や定番コースから地方へ移っていくなかで、渡部氏は「(コロナ禍前には)地方での受け入れの課題も見えてきた」と明かす。

一方、本業の住宅メーカーとしても地方の開拓が課題。「その二つのベクトルが重なり、ホテルを中心とした観光で地方に貢献できないか」と考えたのがプロジェクトの始まりだという。そこで着目したのが地域のシンボルでもあり、コミュニティの場でもある道の駅。渡部氏は「道の駅の魅力を生かしながら、その地域に人を呼び込む仕掛けをつくることで、地域創生に貢献していく」とプロジェクトの意図を説明した。

渡部氏は星野リゾートから積水ハウスに転職した。「Trip Base」と謳っているように、ホテルは主役ではなく、周辺への旅の拠点と位置づける。 マリオットともその考えは共有しているという。宿泊特化型のホテルとして、レストランは併設せず、周辺の飲食店を案内する。朝食も、地域の特産品や名物料理を詰めたモーニングボックスとして提供している。「地域にお金を落とすことが狙い(渡部氏)」だ。

「フェアフィールド・バイ・マリオット 三重御浜」の朝食box

コロナ禍による事業計画に変更なし、むしろ加速

プロジェクトでは、ファーストステージとして6府県で15ヶ所でフェアフィールド・バイ・マリオットを開業する。昨年10月に、栃木県宇都宮、岐阜県郡上、岐阜県清流里山公園、岐阜県美濃、京都県京丹波、三重県御浜の6ヶ所で先行オープンした。2021年5月までに開業したのは12ヶ所。セカンドステージでは、さらに5道県に拡大する予定だ。

プロジェクト始動当初は、インバウンドと国内半々の集客を想定しいたが、コロナ禍でインバウンドは消滅。国内旅行の需要は予想以上に増えたものの、緊急事態宣言が発出されると、集客は厳しくなるという。

それでも、積水ハウスは、道の駅の活用で自治体に積極的に声をかけており、コロナ禍でプロジェクトへの関心も高まっているという。ニューノーマルでの国内旅行で車旅やマイクロツーリズムの需要が高まっていることが背景にあるようだ。

「(コロナ禍は)足元を見直すいい機会になった。地域の魅力を根本的に考え直し、掘り起こし、新しいコンテンツをつくるチャンスになっている」と渡部氏。その姿勢は、将来のインバウンド市場でも国内市場でも変わらない。「(コロナの影響による)事業計画の変更はない。むしろ、事業を加速していこうという勢い」と明かす。

アライアンスパートナーとの協業で課題解決

アフターコロナでの本格的な需要回復を見据えて、さまざまな課題の解決に向けた取り組みも進めている。地域での食体験への期待が高いため、そのニーズに応えるために食のバリエーションを増やしていく。また、ホテルへは車でのアクセスが多いため、地域の飲食店での飲酒に課題がある。こうしたことから、飲食店とホテルとを結ぶ二次交通の整備もアライアンスパートナーと進めていく計画だ。

道の駅と周辺観光スポットを結ぶ二次交通についても、宇都宮の「うつのみや ろまんちっく村」では、定額制AIタクシーの実証実験をJTBと進めている。さらに、「美濃にわか茶屋」では代行タクシーの活用、岐阜清流里山公園の「みのかも」では近隣のキャンプ場を結ぶバス停の設置を模索しているという。

「京丹波 味夢の里」では、自治体や地元DMOなどがサイクルツーリズムに積極的に取り組んでいることから、自転車販売の「あさひ」と協業し、地域でのサイクリング文化の発展にも協力していく計画だ。

このほか、地域での交流人口あるいは関係人口の創出に向けて、人材派遣のパソナとホテルを拠点とするワーケーションプログラムを企画。地域住民と交流しながら、地域課題の解決、ものづくり、食、農業林業などをテーマとした事業創造プログラムを進めている。

渡部氏は「都市のホテルとは異なり、道の駅のフェアフィールド・バイ・マリオットについては開業時はほぼゼロベース。時間の経過とともに周辺が関わることで、いろいろなものが加わっていく。今後は、課題を解決していくとともに、アクティビティなども紹介することで、いろいろなものを肉付けしていきたい」と将来を見据える。

プロジェクトでは、現在のところアライアンスパートナーとして40社と連携している。

さらに、一般向けに地域と一緒に地方創生を進める「TRIP BASE STYLE アンバサダー」も募集。アンバサダーには、「フェアフィールド・バイ・マリオット」を拠点としながら地域のさまざまな資源を活用して新しい旅スタイルを体現し、ウェブ、SNSなどを通じて発信してもらう考えだ。

フェアフィールド・バイ・マリオット 三重御浜

インバウンドと国内で地域を元気に

プロジェクトの大義は地方を元気にしていくことだが、「黒字化には時間がかかるだろう」と渡部氏。しかし、地域が元気になれば、観光による広域的な波及効果は大きく、交流人口が増えれば、ホテルの稼働率も上がると見ている。さらにその先、交流人口や関係人口が移住・定住につながり、住宅需要が生まれれば、積水ハウスの本業にも効果は広がるとの期待もあるという。

プロジェクトでは2025年までに25道府県で約3000室規模に拡大する目標を掲げている。「道の駅」を拠点としたプロジェクトの特徴が車を利用した移動にあることから、「転泊」を促すために、結びつけやすい「道の駅」でフェアフィールド・バイ・マリオットの開業を進めているという。ファーストテステージでは西は岐阜、三重、京都など、東は栃木を中心にオープンした。

「インバウンドは回復するだろうが、旅行市場全体を見るとき、国内旅行市場での仕掛けも必要ではないか」。積水ハウスとマリオットは、インバウンド市場では米国で見られるようなロードサイドトリップとして、国内向けには旅の頻度を高める新しい旅のスタイルとして、「Trip Base道の駅プロジェクト」を加速させていく。

聞き手: トラベルボイス編集長 山岡薫

記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹

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