新型コロナウイルスの感染拡大以降、人々の旅行スタイルは様変わりした。浮上したのは、個の空間のまま移動ができるドライブ旅行。緊急事態宣言が全国的に解除となったいま、自動車での観光客の来訪を期待する観光地も多いだろう。
トラベルボイスでは先ごろ、ナビタイムジャパンと「ドライブツーリズムで地域への誘客と活性化の方法を考える」をテーマにしたトラベルボイスLIVE特別版をオンラインで開催。ナビタイムジャパンのインバウンド事業部部長・藤澤政志氏が、同社サービスの経路検索データなどをもとに、今ドライブ旅行で選ばれている目的地の傾向から、今後の地域誘客が期待できる新たなトレンド、誘客に向けた地域の考え方を解説した。
ドライブ旅行のルートに選ばれるポイント
昨年の緊急事態宣言の解除後、人々が出かけた場所の傾向は、(1)郊外にある大規模商業施設(ショッピングのニーズ)から、徐々に(2)居住地から少し離れた公共交通では行きにくい屋外の観光地、(3)温泉街など散策ができる滞在型エリアへと広がった(2020年のトラベルボイスLIVEより:8月開催レポート、12月開催レポート)。この傾向は、再び感染が拡大し、今年に入って2度目の緊急事態宣言が発出された際も、大きく変わらなかったようだ。
ナビタイムのデータによると、2021年2月最終週の目的地検索ランキングでは、ショッピング(大規模商業施設)をベースにしながらも、「遊ぶ/趣味」や「旅行/観光」カテゴリのスポットが増加。「道の駅」や「空港」もトップ30に入った。藤澤氏は、空港が周辺のショッピング施設や観光スポットと組み合わせ、土産物購入や飲食利用などの立ち寄り先として利用されたとみている。また、地域別では長野県のランキング1位に高原ドライブルート「ビーナスライン」が入るなど、「景観のきれいなルート」もランクインした。
こうした結果から、藤澤氏は今のドライブ旅行の特徴として(1)休憩スポット兼ショッピングとして「道の駅」のニーズが高い、(2)ショッピングを行程に入れた周遊ルートで観光している、(3)ドライブ観光の折り返し地点としてランドマークを設定、(4)景観のきれいなルート、の4点を提示。「これらのニーズに対する取り組みが、今後の誘客のキモになる」と話した。
「道の駅」は旅の目的地から地方創生の拠点に
このトレンドの中で特に藤澤氏が注目したのは「道の駅」と「景観のきれいなルート」の2つ。昨今の国土交通省の取り組みによって、地域への誘客や周遊を促す新たな可能性が広がったという。
その1つが、道の駅を活用した高速道路の施策「賢い料金」。これは、高速道路の休憩施設同士の間隔が25キロ以上離れている場合、全国23か所の道の駅への立ち寄り(休憩)を条件に高速道路からの一時退出を可能とするもの。従来、この一時退出が可能な時間は1時間だったが、2020年3月に3時間に引き上げられ、一時退出中に道の駅以外のスポットを訪れる余裕ができた。
高速道路の出入口の中間にあって、ドライブ旅行でスルーされてきた地域でも消費創出が期待できるため、藤澤氏は「地域がより積極的に関与して誘客に取り組むことが必要かと思う」とアドバイス。実際、対象の道の駅である「もっくる新城」は、愛知県の目的地ランキングの上位に入っており、「新東名高速道路から『もっくる新城』で休憩する人が数字にも表れていた」(藤澤氏)という。
もう1つ、道の駅に関する国交省の取り組みでは「第3ステージへの推進」がある。道の駅はすでに、トイレ休憩など道路利用者へのサービス提供の場(第1ステージ)から、地域産品の購入や付帯設備の利用など旅の目的地(第2ステージ)へと進化しているが、2019年には第3ステージとして「地方創生・観光を加速する拠点の役割」への進化を提言。今後5年間で具体的な取り組みを計画していくとする。
その際のポイントが「個から面(ネットワーク)としての取り組み」と「多様な主体との『新たな連携』の促進」。藤澤氏はこの中で、景観の優れたルートである「風景街道」との連携があげられていることに注目を促した。
風景そのものを観光素材とする可能性
日本風景街道は、地域活性化や観光振興に寄与し、国土文化の再興の一助になることを目的に、国交省が整備を推進しているルート。地域と行政が連携し、景観や自然環境に配慮して地域の魅力を道でつなぎながら、個性的な地域と美しい環境づくりを目指す施策で、日本全国で142エリアが登録されている。
藤澤氏はここで、風景街道がルートではなく「エリア(面)」であることについて「風景街道は地域の取り組み。登録には協議会の仕組みが必要で、地域としてどのように風景街道で面に誘客をするかを考える集まりになっている」と説明。そして「面で活用するには、道の駅との相関関係が非常に大切」と指摘する。
藤澤氏によると、全国の約87%(123エリア)の風景街道にはそのルートの10キロ圏内に道の駅があり、全国の約半数強(578駅)の道の駅にはその10キロ圏内に風景街道がある。これらを踏まえ「道の駅と風景街道の連携は必然性がある。『美しい景観づくり』と『活力ある地域づくり』、『魅力ある観光空間づくり』を面で考えること。これが地域誘客における次の取り組みになる」と進言した。
さらに、藤澤氏は風景街道について「将来的にはインバウンド誘致に非常に役立つ」とも言及。「コロナ期に海外でもドライブ旅行が増えていたとすると、コロナ終息後の訪日旅行でもこの経験を求めることが考えられる」と見る。
実は風景街道は、海外から持ち込まれた「シーニックバイウェイ」(「景観」の形容詞Scenicと、わき道・より道を意味するBywayを組み合わせた言葉)の考え方をもとに取り組みが始まったもの。海外では、ドイツやフランス、英国など各国政府観光局が主体的に取り組んでおり、景色そのものが観光素材であるドライブルートを楽しむ文化が進んでいるという。
エリアへの誘客の取組事例
では、ドライブ旅行でエリアに誘客にはどのような方法があるか。
ナビタイムでは、シーニックバイウェイに早くから取り組んでいた北海道開発局とドライブルートの促進事業に参加し、風景街道を含むドライブルートマップの制作のほか、分析データなどを国やエリアに共有している。この経験から藤澤氏は「ドライブ観光の面的な誘客で必要なのは、現地での食事や体験、商品券などのパッケージ」との考えだ。
また、目的のエリアまでは車で移動し、地域では公共交通の1日パスで観光する可能性も提示した。藤澤氏によると、「今のデータを見る限り、公共交通で地域に行くハードルは高くても、地域で公共交通を利用することにリスクを感じている人は少ないのではないか。地域で公共交通を入れる施策はありだと思う」という。
すでに、地域での取組事例もあり、名鉄ではGoToトラベルを絡めた同社の1日きっぷとフライトパークのチケット、セントレアでのランチ、飲食や買い物で使える地域共通クーポンを含む「GoToセントレアきっぷ」を設定。富士急行では、富士急ハイランドのフリーパスと高速道路料金をセットにした「GoGoドライブプラン」を販売した。藤澤氏は、「こうした取り組みが増えるとドライブ旅行が変わっていく。これを地域で考えることが大切」と話した。
藤澤氏の講演を踏まえ、進行を務めたトラベルボイス鶴本は、地域に足を延ばしてもらう一手として「海外のように、不便なエリアに、宿泊施設が付いた一流のレストラン「オーベルジュ」を作る。わざわざ出かける価値のある仕掛けと、そこまでの過程を楽しめる付加価値があれば、旅行者は行くのではないか」、「風景街道のエリアに行くまでのフライ&ドライブは、旅行会社の得意とするところ。ただ、シーニックバイウェイを売りにしていないから、単品手配に留まってしまうのではないか」などの考えを述べた。
なお、講演では藤澤氏が、日産自動車が福島県でドライブコース「THE FULL COURSE 全長100kmのレストラン」を設定したことを紹介。 SUV車「X-TRAIL」による地域活性化の取り組みとして、山や川、草原などを巡るドライブコースを楽しみながら、各地の食材を生かしたフルコースを一皿ずつ味わっていくもので、コンセプトムービーとともに体験機会も用意していた(コロナの影響で2021年3月開催は延期)。
これを踏まえ藤澤氏は、「以前の地域活性化は、地方空港の利用促進を目的に航空会社が地域と組む例が多かった。今後は、自動車メーカーも車の利用促進を目的に、地方創生と絡めた取り組みが出てくると思う」と展望した。