JTBの2021年3月期(2020年4月~2021年3月)の連結決算は、売上高が前年比28.9%(71.1%減)の3721億円と大幅に落ち込み、営業損失が976億円(前期:14億円の黒字)、経常損失が743億円(同:25億円の黒字)、当期純損失が1052億円(同:16億円の黒字)となった。最終赤字は2期ぶりで、赤字額は過去最大。自己資本比率は前期の24.3%から6.9%に低下した。
代表取締役社長の山北栄二郎氏は、「期首当初から、年間を通じてコロナ禍の甚大な影響を受けた」と説明。この状況下で、2020年7月に開始した新中期計画での構造改革の推進による経費削減と旅行以外のソリューション事業が、収益に貢献したという。
旅行事業の売上高は、国内・海外・訪日・グローバルの合算で前年比17.8%(82.2%減)の1907億円。国内旅行は、GoToなど需要喚起策で第3四半期に一時的な効果が得られたが、旅行売上の約半分を占めていた海外旅行と訪日旅行は、前年実績の5%程度にとどまった。
旅行以外のソリューション事業は前年比84.4%(15.6%減)の1814億円。同事業で牽引したのは、デジタル分野の出版事業やふるさと納税事業、地産地消をはじめとする物販などの商事事業といった、地域や事業者の課題解決に沿ったもの。また、コロナ禍でMICEのハイブリット型のイベントなどの引き合いも強く、今後も注力していく方針だ。
一方、構造改革も順調に推進。計画通りに遂行できる見通し。国内店舗数は2019年度末から2021年度末までに 115店舗を削減、要員数は6500名の削減を掲げていたが、店舗数は2021年度期首時点で73店舗を削減。要員数は、早期退職制度やグループ会社の再編などによって、約7200名の削減へと上積みした。すでに2021年度期首時点で5705名減となっている。さらに一時的人件費の削減として、年収ベースで社員は平均30%程度、役員は35%超を削減している。
2021年度(2022年3月期)は保守的に見ても黒字化へ
2021年度の見通しについては、売上総利益で2020年度比130%程度(19年度比55%)とし、最終利益での黒字化を見込む。その根拠は、2020年度と比較して一定程度市況が回復するとの予想と、旅行外需要の獲得の手ごたえ、コスト構造改革の推進を踏まえたもの。先行きの不透明さを踏まえ「保守的な想定」であることも強調した。
このうち、市況の回復については(1)国内ワクチンの普及、(2)国内移動制限、(3)海外渡航制限の3点を重視。(1)国内ワクチンは2021年12月をめどに普及、(2)国内移動制限は2021年7月以降に徐々に緩和、(3)海外渡航制限は下半期に一部地域から段階的に解除されると予想する。
特に海外旅行については、「旅行会社による安心安全に配慮したツアー催行を中心に再開される」(山北氏)とし、先陣を切る方面としては「環境整備が必要」との前提のもと、ハワイやアジア、欧州などの海外旅行の受入れを進めている国地域と考えているという。海外旅行が2019年度程度まで本格的に回復するのは、2023年度以降になるとみている。
また、2021年度の業績に対する東京オリンピックの影響についても「できるだけ保守的に見込んでいる。影響が大幅に出るとは考えていない」(山北氏)と説明。「東京2020大会オフィシャル旅行サービスパートナー」であるJTBはこのほど、観戦ツアーやチケット販売を再開したが、「当社としては安心安全の開催が大前提。オフィシャルパートナーとして、組織委員会の決定に従ってしっかり対応していく。公式ツアーは開催状況の決定に合わせて運営していくという考え方」と話した。
このほか、旅行以外の収益の柱とするソリューション事業も強化する。強力なコスト削減策を遂行する中でも「デジタルソリューションには必要な投資をしていく」と説明。ソリューションができるプロデューサー型人材の教育など、人材への投資も「重要なポイント」と話した。
なお、JTBでは2021年3月31日付で、資本金を1億円に減資していたが、山北氏は資本増強の検討を進める考えも示した。「今後の財務基盤の安定化と需要回復期に向けた成長戦略のため」と説明した。
事業別の決算概要は以下の通り。
2020年度・事業別売上
- 旅行事業:1907億円、前期比17.8%(82.2%減)
-国内旅行:1528億円、同33.6%(66.4%減)
-海外旅行:225億円、同5.1%(94.9%減)
-訪日旅行:38億円、同5.6%(94.4%減)
-グローバル旅行:117億円、同10.6%(89.4%減)
- 旅行以外のソリューション事業:1814億円、同84.4%(15.6%減)
2021年度・業績見通し(売上総利益比)
- 旅行事業:2020年度比150%~155%、2019年度比35%~40%
-国内旅行:2020年度比160%~165%、2019年度比75%~80%
-海外旅行:2020年度比-、2019年度比5%~10%
- 旅行以外のソリューション事業:2020年度比130%前後、2019年度比55%前後
- 合計:2020年度比130%前後、2019年度比55%前後