在日フランス商工会議所は、「ビジネスリーダーズフォーラム2021」の一環として、宇宙産業関連のパネルディスカッションを開催した。これは、新型コロナウイルスの影響で中止となった「パリ航空ショー」の東京でのイベントに位置づけられ、航空産業で重要な課題として認識されている二酸化炭素排出量削減への取り組みについて、航空会社やサプライヤー、行政担当者などが議論を展開した。
基調講演でパリ航空ショー会長のパトリック・ダエール氏は、航空宇宙産業における日仏の関係が深まっていることに触れたうえで、「これからはOEM (Original Equipment Manufacturer)だけでなく、サプライチェーンでも新たな関係を築いていくことが必要」と主張。パンデミック後には、環境に配慮したよりグリーンな製品のサプライチェーンの発展が見込まれると見通した。
また、フランス民間航空総局(DGAC) 民間航空局長のダミアン・カゼ氏は、2018年にスウェーデンで始まった、いわゆる「飛び恥 (フライト・シェイム)」について触れ、「これを新しい機会と捉えて、航空業界でも環境の負荷を減らしていく取り組みを進め、カーボンニュートラルな航空産業や空港運営の成長を促していく必要がある」と強調。そのうえで、航空エンジンの技術開発や航空機の軽量化による二酸化炭素排出削減のほか、持続可能な航空燃料(SAF)の開発と運用の加速化を提言した。
航空機産業ではSAFの導入に向けて取り組み活発化
航空局航空安全課航空機技術基準企画室長の吉村源氏は、日本政府の取り組みについて説明。菅首相が2050年までにカーボンニュートラル実現の目標を発表したことを紹介し、航空機産業でも各施策を進めていると説明した。そのなかで、航空局は国際民間航空機関(ICAO)の航空環境保全委員会(CAEP)の取り組みを進めていくとした。
また、航空局は今年3月に「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」を設置。機材・装備品などの新技術導入、管制の高度化による運航方式の改善、SAFの導入促進などを通じて、CO2を削減。日系航空会社の国際線では年1500万トン、国内線では年1000万トン、地上施設では年90万トンの削減を目指す。
航空機メーカーからはエアバスが参加。エアバスは昨年9月、3種類のゼロエミッション旅客機のコンセプトを発表した。従来のエンジンを液体水素燃料に代替するターボファンとターボプロップ。加えて全く新しい設計の全翼のブレンデッド・ウイング・ボディ。ターボファンとターボプロップは水素燃料を貯蓄するため、既存機よりも後部胴体が長くなっている。
同社ゼロ・エミッション航空機担当副社長のグレン・ルエリン氏は「SAFとして水素燃料は航空機産業にとって大切なもの」としたうえで、課題として水素燃料製造の地上インフラの整備を挙げた。エアバスでは、ブレンデッド・ウイング・ボディは2035年まで、水素を燃料とするターボファンとターボプロップは2050年までの実用化を目指しているという。
航空会社もCO2排出ゼロに向けて本腰
航空会社からはJALとエールフランス/KLMオランダ航空が参加した。
JALの総務本部ESG推進部環境推進グループ・グループ長の小川宜子氏は、今年5月に発表した新中期経営計画について説明。2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする取り組みを進めていくとした。その施策として、保有機材の50%を燃費効率の高い機材に更新し、日々の運航効率を5%改善。さらに45%をSAFの活用に置き換える。これにより、2025年度までに総排出量を909万トン未満、2030年度までに818万トン未満(2019年度の90%レベル)に削減する。
また、SAFへの投資も加速し、国内生産に向けたサプライチェーンの構築にも取り組んでいると説明した。JALは6月、藻類と木質バイオマスを原料とするSAFを混合し、定期便を運航した。
エールフランス/KLMオランダ航空日本・韓国・ニューカレドニア支社長のギヨーム・グラス氏は、CO2削減に向けた4つの柱を説明。最新機材や技術の導入、運航効率の改善と機体の軽量化、SAFの活用頻度の増加、カーボン・オフセット施策を通じて、EU発のフライトすべてで2050年までに排出量の実質ゼロを目指しているとした。その前段階として、2024年までに仏国内線で50%減、2030年までに全路線で1kmあたり50%の削減目標を掲げているという。
「パンデミックのなかでも、SAF産業への開発支援はトッププライオリティ」とグラス氏。KLMはアムステルダム港でのSAFプラント構築を支援しているほか、両航空は企業向けのSAFプログラムを立ち上げることで、「企業の理解を促進し、SAF活用を加速させていく」と説明した。