旅行業界ではコロナ禍による大きな影響が続いているが、ワクチン接種の拡大とともに、コロナ後の需要回復期に向けた準備が始まっている。新聞広告を活用したメディア旅行販売の雄として知られる阪急交通社でも、オンライン販売の拡大に向けた準備に余念がない。
その一環として、同社は今年2月、社内スタッフ向けにウェブ広告の入門ウェビナーを実施。広告分野でのパートナーであるヤフーの社員を講師に招き、ウェブ広告の基礎から実践までを学んだ。その結果、社内でオンライン販売への理解と広告が果たす役割に対して関心が一気に高まったという。さらに、オンライン販売への手法や考え方などで社内に変化も見られた。
ヤフーとともに行ったウェビナーとウェブ広告の分析結果が阪急交通社に与えた変化とは? 両社の担当者に聞いてきた。
メディア旅行販売の雄として知られる阪急交通社。新聞広告出稿量は全業種の企業の中でもトップクラスで、コロナ禍で旅行市場が縮小した2020年も上位にランクインするほどだった。一方で、旅行者のニーズに合った販路拡大を目指して、オンライン販売の拡大にも注力している。まずは、阪急交通社のオンライン販売状況をまとめておこう。
これまで阪急交通社の旅行事業は新聞広告や会員誌、ダイレクトメールなど紙媒体が主体だったが、近年、オンライン販売を着実に増加させているところだ。強化商品であるダイナミックパッケージで海外・国内の商品が2018年に出そろい、広告全般のウェブシフトの連動にあわせて、オンライン上で販売が可能な商品は全体のほぼ100%に達している。さらに、ウェブ広告とオフライン媒体からのウェブ受付を合わせたオンライン販売比率は、全体の60%以上まで伸びてきている。
「今後は販売のデジタルシフトを進めるのが会社の方針です。しかし社内では、ウェブに対する理解が不十分で、ウェブ販売やマーケティングの業務に対する誤解も少なくありませんでした」と話すのは、阪急交通社営業統括本部ウェブ推進部の青山幸嗣さん。
「売り上げ全体の底上げを図りながら、オンライン販売の比率をさらに高めていくためには、阪急交通社が得意とする新聞購読が多いシニア層だけでなく、新聞読者が少ない20~40代の取り込みを図る必要があり、彼らに訴求する手段としてウェブ広告は欠かせません。一方、新聞広告の出稿が多いこともあり、進化し続けるウェブ広告を効果的に活用するには全社的な取り組みが求められ、その前提として、まずは社員にウェブ広告を理解してもらう必要があると考えました」(青山さん)。
阪急交通社の営業部門は、商品造成企画を担当し、各媒体に出稿・販売計画を練る役割を担っている。社内で共有する旅行商材を、より効率的、効果的に活用するためにも、営業部門にウェブ広告やウェブ推進部の仕事内容について理解してもらうことが重要だった。「そこで広告パートナーとして頼りにしてきたヤフーの担当者に相談したのが始まりでした」(青山さん)。
ヤフーで阪急交通社を担当し、相談を持ち掛けられたのはマーケティングソリューションズ統括本部第二営業本部の大八木雅子さん。すぐに社内調整したうえで実施の準備に取り掛かった。「もし、これがコロナ禍でなければ阪急交通社様も忙しく、ウェビナーができたか分かりません。ヤフーにとっても良い機会が頂けました」(大八木さん)。
こうして実現したヤフーと阪急交通社のウェブ広告入門セミナーは、オンラインのウェビナー形式で行われ、広告の種類や仕組み、ウェブ広告の強みであるターゲティングなどの基礎的内容を中心に説明。最後には、旅行商品を販売するためのターゲティングを発案するワークショップも実施した。
当日参加した社員は約550人。エントリーは自由としていたため、ほとんどが自らの意思で参加した。「コロナ禍による計画休業中で全社員が就業中ではなかったのに、これだけの人数が参加したことに驚きました。通常、社内で実施するウェビナーでは100~200人の参加なので。ヤフーの影響力と、社内のウェブ広告への関心の高さの表れでした」(青山さん)。
阪急交通社がさらに驚いたのがウェビナーの成果と影響の大きさだった。最後のワークショップも異例の反応。この手のウェビナーでは参加者からの反応が得づらいのが一般的だが、550人の参加者数に対して、その半数以上の回答があった。事後アンケートでは満足と答えた人が99%。文字通り、大成功のウェビナーとなった。
「ウェブ広告が世に出るまでの仕組みや、当社と広告代理店、ヤフーの3者の関係性とそれぞれの役割についての理解が進みました。結果的にウェブ推進部の仕事がやりやすくなり、この機会を境に営業部門からウェブ広告の相談が目に見えて増えました」(青山さん)。
ウェビナーの最後に行ったワークショップでは、参加者が実際に広告を企画立案した。『憧れの名旅館に泊まる(2・3泊目)東北4大祭りご夫婦おふたりの旅 4日間』という具体的な旅行商品を、「ウェブ広告で宣伝する場合、どういったユーザーに広告を配信するか?」とのテーマに対して、ワークショップの参加者が出した企画案は、内容が濃いものばかり。「我々のような広告営業をする者にとっても『そういう発想があったか』と刺激を受ける内容も多く、お客様と直に接している旅行会社の強みを改めて感じました」(大八木さん)。
青山さんも「オフラインの各媒体の専門家である営業の担当者たちは、ウェブ広告もお金で“掲載枠”を買うマス広告と同じイメージでいたかもしれません。しかし、ウェブ広告はターゲットを絞り込んでピンポイントに訴求することが可能で、より“刺さる”広告が実現できると理解できたと思います」と話す。
結果、ウェビナー後は営業部門からウェブ推進部に対する質問内容が大きく変化した。「それまでは『自分の商品を、とにかく多くの消費者に見てもらいたいので、そのためにいくら必要か』でしたが、ウェブ広告の仕組みを理解し、『このユーザー層に広告を配信できますか』といったものになりました。この変化は我々にとって、とても大きいものでした」(青山さん)。
さらに、「営業担当者から『〇〇という検索キーワードで出稿してほしい』といったような会話も多くなりました」(青山さん)という。既存の商品や想定する購買層からキーワードを検討したり、一般的な検索トレンドから造成する旅行商品を発想したりと、営業担当者に新しい動きがみられた。新聞、DMなどの広告では出稿後の調整ができないが、ウェブ広告では毎日PDCAを回して運用・改善し、出稿が継続できるという違いにも気づいてもらえた。ウェビナーが営業担当者に与えた影響は大きかったようだ。
効果検証や検索データをコロナ禍後に活かす
ウェビナーとは別に、両社は今年3月、共同で国内ダイナミックパッケージに関するウェブプロモーションの3つの効果検証を行った。ディスプレイ広告への接触がコンバージョンや検索行動につながっていたか、コンバージョンに近づけられていたかなど、間接効果を可視化する検証を行い、ポジティブな結果となった。
この効果検証では、広告ターゲットのユーザー群が購入に至るまでのウェブ上の行動を分析できた。「阪急交通社との距離感が5メートルあったユーザー群が、3メートル、1メートルと近づいて来て、最終的にコンバージョンにつながる動きが見えました。これは一歩先を読む上で重要なポイントです」と青山さんは語る。
阪急交通社では、この結果をもとにコロナ後の需要拡大期に備える考えだ。同社は2019年中に2020年のウェブ広告強化の方針を固めていたが、コロナ禍で中断している。事態の収束を見極めてウェブ広告強化を実行に移すが、それに際して「広告効果を可視化できたことが大きい。これまでは、広告が集客に直接結びつかないと社内に評価してもらいづらかったが、今回の分析で、ユーザーとの距離感を縮められていることを可視化することができたので、社内の理解促進に役立つと思う」(青山さん)という。
また、旅行への関心の高まりや、コロナ後の需要拡大の予兆をYahoo! JAPANの検索データから把握することで、他社に先駆けて適切なタイミングで販売攻勢をかけられると期待する。「Yahoo! JAPANという巨大メディアとワンチームで活動できると、広告代理店だけを頼る出稿方法に比べて、よりさまざまなトライアルができるし、スピード感も違う。ウェブ部門担当のスキルや知識も格段に伸びますね」と青山さん。阪急交通社にとってヤフーは「我々にとっての“ザ・パートナー”」と全幅の信頼を寄せる。
これに対し、大八木さんは「そのように信頼していただくことで、ヤフーも広告配信のご提案や検索データ等の情報共有がしやすいですし、率直に相談してもらってこそ的確な返答ができます」と笑顔で話す。
ヤフー入社以来、2年間にわたり阪急交通社を担当してきた大八木さんは「コロナ禍でかえってコミュニケーションが深まった面もあります。これからもヤフーのマーケティングソリューションとビッグデータを活用し、新しい取り組みを一緒に進めていけたらと考えています」とパートナーとしての意気込みを語った。
力強いパートナーの協力を得て、ウェブ広告強化への準備が整った阪急交通社。アフターコロナのタイミングを適切に見極めたギアチェンジに期待したい。
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記事:トラベルボイス企画部、REGION