感染状況の拡大と緩和が2年にわたって繰り返されたコロナ禍。人々の生活習慣や嗜好も都度変化し、それが旅行のスタイルや訪問先の選択にも影響している。現在は変異株の感染拡大で、34都道府県にまん延防止等重点措置が適用されている状況にあるが、解除となればまた旅行や観光に出かける人が増えるのは間違いない。その時、選ばれるのはどのような観光地か。
2021年12月に開催したトラベルボイスLIVE(オンライン版)では、ナビタイムジャパン地域連携事業部部長の藤澤政志氏が出演。直近の緊急事態宣言が全面解除となった2021年11月以降の傾向を、同社の経路検索サービスのデータをもとに交通手段別にまとめ、その分析結果から注目すべき変化を解説した。
公共交通の移動:動き出しは解除の1週間後
まず藤澤氏は、最新の移動傾向を発表する前に、これまでの変遷を説明した。コロナ禍で“不要不急の外出自粛”を求められた人々は、ショッピングとレジャーを掛け合わせた楽しみ方をするようになっている。
その上で、2021年11月以降の公共交通での移動傾向で藤澤氏が指摘したのは、人々が動き出すタイミングについて。コロナ発生以降、検索数は感染者数の減少につれて徐々に回復傾向になる。ただし、緊急事態宣言が解除になった2021年10月1日以降、実際に検索数が跳ね上がったのは、次週の週末、10月8日や9日だった。藤澤氏は「ピークがシフトした1週間後に人が動き出す」とアドバイスした。
では、公共交通を使ってどこに行っているのか。2021年の特徴といえるのが、映画館や劇場、ライブハウスなど。イベントが再開されるようになったことで、会場になり得る場所への移動が増加傾向になっているという。
もう1つ、藤澤氏がニーズの増加で注目しているのが、展望台やタワー、通り、街並み、灯台、坂や橋、ダムなど。例えば、展望台やタワーでは、従来から人気のある東京タワーやスカイツリー、通天閣などに加え、「伊豆の国パノラマパーク」「江の島シーキャンドル」「鷲羽山展望台」などのランキングも上がった。また、街並みや通りのカテゴリーでは「水木しげるロード」や京都の「伊根」町など。そしてこれらに共通しているのが、消費者が“行ってもいい”と思えるような情報発信がされたことだ。
伊豆の国パノラマパークは2021年7月にリニューアルし、江の島シーキャンドルは同年11月にイルミネーションを開始。伊根では、平日クーポンを配信して「密を避けてきてください」とリリースした。藤澤氏は「行ってもよいエリアだと判断している可能性がある」と、コロナ禍での観光地選びの変化を指摘する。
さらに藤澤氏は、これらの展望台やタワー、歴史的な通り、伝統的な街並み、灯台、坂や橋、ダムなどは、これまでドライブ観光の一環で行くスポットが多かったが、それを現地の2次交通を使い、公共交通で行く人が増えていることも指摘。また、観光地ではなく、「その他観光施設」としてカテゴリする「『通り』や『街並み』が評価されている」(藤澤氏)という新たな兆候も見られており、藤澤氏は「新たな観光地」として定義しているという。
誘客支援ではコロナ前の観光形態が反映
また、藤澤氏は、2021年11月の最終週のランキングで、トップ30にメジャーな観光地が入ってきていることを指摘。緊急事態宣言の全面解除から日が経ち、コロナ前の状態に戻りつつあったという。
例えば3位に入った「清水寺」。2020年1月~3月はランキング上位だったが、4月の緊急事態宣言の発出で一気に圏外に。そして連休やGoTo開始時にまた上位に浮上するが、2020年11月の緊急事態宣言が発出されると、再び圏外に急降下した。そして2021年3月の卒業旅行シーズンで一時上昇し、その後に緊急事態宣言が断続的に続くと圏外になり、全面解除後にまた上昇を始めた。こうした、感染状況の反映が極端な推移は、清水寺以外の有名観光地にも多く見られたという。
こうした結果から藤澤氏はGoToなどの観光誘客支援策では、コロナ前の観光形態が反映されると指摘。「行ってみたかったところより、今まで行ってよかった場所やメジャーな観光資源があるスポットに戻る傾向がある」と推察した。また、卒業旅行や紅葉シーズンなど、季節性イベントの時期の観光形態も、コロナ前と変わらないことも説明。例えば紅葉時期は、いろは坂や京都などの人気スポットは人の戻りが早かった。「時期の限られたイベントには『行ってみよう』というマインドが働くのではないか」とも推察した。
自動車を使った移動:「景観+α」のスポットに注目
一方、自動車で移動するドライブ観光はどう変わっているか。藤澤氏は2021年11月までの推移として、各地を立ち寄りながら目的地へ行く形態から、移動手段の1つとして目的地に行き、エリア内で楽しむ傾向が強まったことを説明。ただし、走行中に景観が楽しめるルートを選ぶ人が増えた。そしてこの傾向は2021年11月以降も、ほとんど変わっていないという。
2021年11月22日~30日のランキングを見ると、上位にあがっているのは、ショッピングセンターやアウトレットモールなどのショッピング施設にテーマパーク、八景島シーパラダイスのような屋外レジャー施設、そして寺社仏閣。「公共交通とは異なり、自動車移動はほぼこの4つに集客されている状況が続いている」(藤澤氏)という。
このなかで藤澤氏が注目した傾向が、「景観+α」が楽しめるドライブスポットの人気が上がってきていること。例えば、砂浜を走行できる「千里浜なぎさドライブウェイ」や福井県の「三方五湖レインボーライン」などだ。三方五湖レインボーラインに関しては、訪れた記念になるような峠の「峠ステッカー」(Japan 峠 Project)がSNSで話題となっており、レインボーラインは福井県で初めて選ばれた場所。藤澤氏は、「こういう動きもレインボーラインの人気につながっている」と述べ、同じような場所が人気を得ているとも推察した。
もう一度、地域ブランディングからPDCAを
公共交通と自動車での移動の傾向を踏まえ、2022年、観光地は何をすべきか。藤澤氏が指摘したのは(1)観光資源の再定義、(2)ターゲットの明確化、(3)誘客の施策の検討、(4)情報発信の見直し、(5)インバウンド誘致の目線、の5つ。
まず藤澤氏は、コロナ禍で日本人の旅行形態や観光トレンドが変化したことで、観光資源に昇華させることができる地域の文化や魅力があるとし、「もう一度、地域ブランディング事業に戻り、考え直すことも必要」と提言した。
そして、移動傾向が「この橋に行きたい」「灯台を見たい」など、来訪や体験したい内容の目的がはっきりしていると指摘。「マイクロツーリズム=地域内周遊ではないと思考をリセットし、観光客を何で呼ぶのか、誘客の仕組みを検討することが必要」と述べた。そのうえで情報配信を見直し、観光トレンドを反映した発信をすべきだという。
インバウンド誘致の目線は、もちろん、コロナ後を見据えた対策。コロナ以前に訪日誘客でプロモーションをしていた観光地を、現在、日本人にもプッシュしているか。「観光地を盛り上げておかなければ、外国人観光客が戻ってきたときに選ばれなくなる。観光地の再評価をしてほしい」と呼びかけた。
トラベルボイス鶴本はまとめとして、紹介された観光トレンドうち印象的な変化をピックアップした。そのうえでインバウンド誘客については、コロナ禍に日本に着任した外国人の駐在員が感染の小康期に有名観光地に行った際、休業の店が多く、前評判と違った印象を抱いたという実話を紹介。先を見据えた対策の重要性を強調した。