キラリと光る観光素材やコンテンツがあっても知名度がない、商品が少ない、効果的な販売体系ができていないなど、悩みをもつ地域は多い。観光客誘致のための情報発信や商品販売、周遊促進と消費拡大は、地域共通の課題だ。この課題解決に向け、ユニークな取り組みを始めた地域がある。北海道小樽市から積丹半島北部までの日本海沿岸と内陸に広がる、北後志(きたしりべし)地域だ。
地域を構成する6市町村のうち、赤井川村DMOが中心となり、NECソリューションイノベータ(NES)と協業。「NECガイド予約支援」を、北後志地域にある魅力的な観光コンテンツを点ではなく、面として包括的に販売するプラットフォームとして活用し、専用の旅行販売サイトを開設した。これを地域観光経営の基盤とし、自走できる観光地域に転換しようとしている。その背景と戦略、スキームを聞いた。
観光DXを急ぐ理由、北海道・北後志地域の課題と活路
「北後志地域には、北海道を代表する景勝地をはじめ、素晴らしい観光コンテンツが豊富にある。個々のコンテンツは点として展開しているが、オンライン販売システム化の遅れ、PR力の格差の存在など、それを地域としてマーケティングができていない。また、観光商品の磨き上げも必要だ」。赤井川村DMO代表理事の渡邊裕文氏は、地域の課題をそう話す。
現地では魅力的な紙パンフレットを用意しているものの、旅行者がタビマエの計画時に見られるオンライン上に商品として掲載されていないことが多い。販促費をかければOTAサイトに観光商品を掲載して販売することはできるが、それは持続的な施策とはいえない。
点在する観光コンテンツを地域(面)として効果的に販売するには、どうしたらよいか。渡邊氏がたどり着いた答えが、DMOが自前で地域の観光観光コンテンツをオンライン販売するという手法だった。NESとタッグを組んで観光体験のオンライン販売を始めた理由は、地域の観光コンテンツをつなぎ、北後志を観光エリアとして売り出す戦略を進めるためだ。
この地域の課題解決に赤井川村DMOが音頭をとったのは、赤井川村にも長年抱えてきた課題があったから。赤井川村は人口1200人ほどの小さな村だが、全国区で名が知られるキロロリゾートがあり、年間約100万人が訪れる。しかし、そのほとんどが冬のスノーシーズン。キロロリゾートを母体とする赤井川村DMOは集客の季節平準化を進めるため、夏のコンテンツ造成と需要喚起が急務だった。
一方、北後志地域には、運河で有名な小樽市を筆頭に、ワイナリーで注目される余市町、フルーツが豊富な仁木町、風光明媚な積丹町や古平町など、夏のコンテンツが多彩に揃う。赤井川村にとってその需要は魅力的であり、組み合わせれば旅行者にとって魅力的な周遊ルートとなる。
そして、北後志の各地域にも、それぞれの課題があった。
例えば、地域の最大都市である小樽市。札幌からJRの快速で30分の同市には、コロナ前には観光客が年間800万人ほど訪れていたが、その9割以上が日帰り客。宿泊したとしても平均滞在日数(連泊係数)はわずか1.17日(コロナや胆振地震の影響のない2017年実績)。小樽市にとっても、のべ宿泊客数を増やすためには、地域での周遊促進が得策だ。
渡邊氏は、「小樽を地域のゲートウェイとしてオンラインでコンテンツを販売すれば、地域周遊の促進につながる。これは、赤井川村だけではなく北後志の各自治体やエリア全体のメリットになる」と期待を示す。
地域の観光商品を1つにまとめた販売サイトを開設
では、北後志地域が観光エリアとして売り出すために、NESとタッグを組んでおこなった取り組みはどういうものか。
まずは、「NECガイド予約支援」を活用し、地域の観光事業者の観光商品を1つの場にまとめて掲載できるポータル的なオンライン販売サイトを作ることから開始した。
「NECガイド予約支援」は観光事業者やDMO向けに、観光商品の販売管理のデジタル化とオンライン販売サイトの開設・運用を容易に実現するクラウドサービス。これを、6市町村(赤井川村、小樽市、積丹町、仁木町、古平町、余市町)の各事業者が導入することで、エリア全体の観光販売サイトを開設し、各事業者の商品掲載と販売をできる環境を整えた。
それが、2022年5月15日に開設した、北後志地域の体験やツアーのオンライン販売サイト「行くべし・北しりべし! ~北海道6市町村の体験プラン総合予約サイト~」だ。準備の整った事業者の商品から順次掲載しており、北後志地域6市町村すべての商品登録を目指す。これまでは、北後志地域内でいつどんな観光ができ、イベントが開催されるのか、一覧できる情報がウェブ上になかった。この販売サイトを北後志地域の観光の入口とする考えだ。
地域の観光商品がまとまった販売サイトが世の中に少ないのは、販売サイト上の商品管理を誰が担うかという問題にある。サイト運営者のDMOが、地域の観光事業者の商品を取りまとめることが考えられるが、それではリアルタイムの在庫管理はできないうえ、管理できる商品の数にも限界がある。
しかし、今回の取り組みでは各事業者が「NECガイド予約支援」を導入するため、商品登録や在庫設定は各事業者がおこない、自社の商品だけを管理する。販売サイト上で商品が売れた際も、サイト運営者の介在なしに各事業者がすぐに対応できるよう、NESは柔軟なカスタマイズで対応した。もちろん、オンライン販売に不慣れな事業者には、立ち上げ時の商品登録をDMOが代行する運用も可能とするなど、小規模事業者の実態に沿った対応もしている。
観光地域が自走するためのマネタイズの仕組みも
取り組みのもう1つのキモは、開設した観光販売サイトを基盤に、DMOや各観光事業者が自走して観光振興を推進できるためのマネタイズの仕組みを構築すること。観光事業者の収入を増やしながらDMOも収益を得て、それを販促や地域の磨き上げに充てる。渡邊氏が描くエコシステムを実現させるためには、より柔軟なカスタマイズができるクラウドシステムが必要だった。これに対応できたのも、やはり「NECガイド予約支援」だったのだ。
では、具体的なスキームとNESのカスタマイズ対応は、どういうものか。
ポイントは、NESが契約面でも地域に寄り添った対応をおこなったこと。「NECガイド予約支援」では、タビナカの観光事業者との契約でシステム使用料が月売上金額の5%(最低利用料9900円)かかる。今回のスキームでは、赤井川DMOが観光事業者との契約にかかるシステム使用料をNESに保証する。DMOがシステム導入契約を仲介することで、小規模事業者が参画するハードルを下げた。
一方、赤井川DMOは観光事業者との契約で、マーケティング費として事業規模に応じて月額売上の4〜5%を請求。それを原資とし、北後志地域の観光を促進するマーケティング活動費用に充てながら自走していくことを目指す。
タビナカの観光事業者にとっては、商品やツアーのオンライン販売が可能になり、手数料もOTAと比較すると安価なため、収益化が見込める。また、単独地域だけでなく、広域での露出にもなるため、これまで以上に販売機会が増える可能性も高まる。
渡邊氏は、「この仕組みによって、エリア全体を面で売り出すともに、プロデュースすることも可能になる。DMOと地域観光事業者がマネタイズできるので、自走しながら地域の観光資源の磨き上げや域内連携を促進できる」と自信を示す。
そのうえで、「地域の実情に寄り添って対応する地域観光のDXに対するNESの熱量も、『NECガイド支援』導入の大きな決め手だった」と明かす。
地域が主役となり自走できる観光地経営を、信頼の技術と情熱で支援
NESのイノベーション推進本部の川村武人氏は、「NECガイド予約支援サービスはもともと、地域の事業者やDMOが自走することで、サステナブルな地域観光を目指していくために作ったもの。渡邊氏の思いと戦略に共感し、この仕組みを一緒に作りたいと思った。このモデルが北海道内や全国に広がり、地域住民と観光客の双方に喜ばれる持続的な観光地経営ができる地域を増やしていきたい」と力を込める。
渡邊氏も、「地域の観光地経営に必要なのは、マーケティング、マネージメント、マネタイズの“3M”と言われているが、それにパッションの“P”が必要になると思う」と続ける。地域観光のDXを進めるためには、システムという「箱」だけでなく、DMOや観光協会、地域事業者、そしてシステムを提供する企業の「熱」が不可欠だ。
赤井川村DMOがNESとの協議を始めたのは今年2月。そのわずか1カ月半後の4月には各DMOや自治体、観光事業者と合意し、事業者による商品登録が始まった。NESによると、複数の地域と事業者が参画する取り組みとしては、驚くべきスピードだという。
渡邊氏は「地元の理解を得るためには、やはり時間がかかる」としながらも、「まずは、すでにパートナーとして実績のある事業者から始めたので、スピード感を持って進められた。これを前例にすれば、エリア内に広まるのも早いのではないか」と期待する。
また、「日本有数のテクノロジー企業であるNECのブランドは、地域の事業者が受け入れやすかったようだ」と、日本でよく知られた企業の製品で展開する意義も説明。NESが小規模事業者の運営実態に即した柔軟な対応をしている点も、複数の地域と事業者が参画できた要因の一つだ。
北後志地域には赤井川村DMOのほかに、各自治体に観光協会がある。赤井川村DMOがプロモーション、マーケティング、商品造成支援のノウハウを他の観光協会に提供すれば、その観光協会も域内事業者へのDX支援でマネタイズすることもできる。オンライン販売を成功させるには、各事業者が「在庫の管理」の概念を理解する必要があるが、この意識づけやノウハウの支援も、まずはキロロリゾートとしてオンライン販売管理を熟知している赤井川DMOが担う考えだ。
北の大地ではじまった、新しい観光地経営の形。広域連携DMOや地域連携DMOの形成をしなくても、メリットのある地域同士で課題解決と誘客、地域の観光力の向上をスピーディに対応できる。地域に寄り添い、観光関係者の情熱を繋ぎ、観光力を高めるサポートをするのが、「NECガイド予約支援」のシステムを超えた提供価値である。
商品:
問合せ先:gias-support@nes.jp.nec.com
本記事で紹介したNECガイド予約支援での販売ページ:
記事:トラベルボイス企画部