カナダで成長する「先住民観光」、経済規模は約2000億円、変化する旅行者心理に応えるユニークな観光の中身を聞いてきた

カナダらしい旅のひとつとして注目されているのが「先住民観光(indigenous Tourism)」だ。カナダには、ファーストネーション、メティス、イヌイットなど先住民族コミュニティが全国に点在。その語族は12系統に分かれ、60以上の異なる言葉が話されていると言われている。先住民観光は、その独自文化の保護や継承という意味だけでなく、経済的な貢献も大きく、カナダの観光産業の柱のひとつになっている。また、地域への誘客による地域活性化の側面でも重要な観光コンテンツだ。

変化する旅行者心理に応える先住民観光

「先住民観光は、カナダの観光産業において重要な役割を担っている」。カナダ先住民観光協会(ITAC)コミュニケーション・マネージャーのライアン・ロジャー氏はそう話す。カナダの先住民人口はおよそ200万人で、全人口の5.3%。全国に800以上のコミュニティが形成されているという。

先住民観光が生み出すGDPは、パンデミック前の2019年で年間19億カナダドル(約1980億円)。2017年の15億カナダドル(約1560億円)から大きく成長した。全国に1700以上の先住民観光事業者がビジネスを展開し、その雇用者数は約4万人。経済的にもカナダ観光産業で大きな存在になっている。

しかし、コロナの影響によって、2020年は5億8000万カナダドル(約603億円)、2021年は8億5800万カナダドル(約890億円)まで減少し、失業者も増加した。ITACでは2028年までに2019年の水準まで回復させるアクションプランを進めているところだ。

パンデミック中は、カナダでも旅行需要は国内旅行にシフトした。そのなかで、カナダ人の旅行のスタイルも変化してきたとロジャー氏は話す。「パンデミック前は、カナダ人でさえ自国の先住民文化への関心は低かったが、国内旅行しか選択がないなかで、先住民文化を学ぶ入口として、その関心は徐々に高まってきた」と明かす。また、2020年5月に米ミネソタ州で発生した「ジョージ・フロイド事件」を受けた「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動も、先住民文化への再評価につながっているという。

ロジャー氏は、コロナ禍での旅行者の心理の変化も指摘する。「以前よりもマインドフル(心に留める)で、スローな旅行、サステナブルな旅行、地域とのコネクションを求める旅行が好まれるようになった。それは海外からの旅行者でも同じだろう」。

ITACとしては今後、国内旅行だけでなく、カナダ観光局とともに消費額が大きいインバウンド市場での訴求を強め、「カナダらしい旅」としてそのユニークなコンテンツを売っていきたい考えだ。

RVCの先住民観光コーナーに設置されたティーピーの前でロジャー氏。

全国各地に学べて遊べる先住民観光コンテンツ

カナダには全国にさまざまな先住民観光コンテンツがある。「例えば」とロジャー氏が教えてくれたひとつが、ブリティッシュ・コロンビア州にある「クラフース・ワイルドネス・リゾート(Klahoose Wilderness Resort)」。バンクーバーから北に飛行機で1時間ほどのところにある隔絶されたリゾート。先住民の文化体験が充実しており、地元先住民とのコミュニケーションを通じて、その文化を学ぶことができるという。

また、サスカチュワン州のサスカトゥーンにある「ワヌスケウィン・ヘリテージ・パーク(Wanuskewin Heritage Park)」は、先住民とバイソンとの関係性を現代に伝えるユニークな場所だと紹介してくれた。

サスカチュワン州の「ワヌスケウィン・ヘリテージ・パーク」

このほか、旅行業界の商談会ランデブーカナダ(RVC)ではセラーが先住民観光コンテンツをアピールした。

オンタリオ観光局は、カルナリーツーリズム(食観光)のひとつとして先住民観光を訴求していくとしたほか、ヒューロン湖の北に位置する「マニトゥーリン島(Manitoulin Island)」を紹介。古くから先住民オジブウェ族が暮らし、聖地として崇められてきた神秘的な島で、スピリチュアルなアウトドアアクティビティが体験できるほか、グランピング施設も充実しているという。

RVCでは先住民料理のデモも。アルバータ州エドモントンの歴史テーマパーク「フォート・エドモントン・パーク(Fort Edmonton Park)」には、新たにファーストネイションとメティスの伝統文化を学べる「インディジニアス・ピープルズ・エクスペリエンス」がオープンした。地元の先住民に受け継がれてきたストーリーをマルチメディアで視覚化。先住民の世界観を知ってもらうためのワークショップも提供している。

フォート・エドモントン・パークの「インディジニアス・ピープルズ・エクスペリエンス」(報道資料より)

※カナダドル円換算は1カナダドル104円でトラベルボイス編集部が算出

トラベルジャーナリスト 山田友樹

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…