世界大手の航空データ分析会社「シリウム(Cirium)」は、さまざまなデータソースから、世界の航空事情の「今」と「これから」を明らかにする。その分析力と正確性は、航空業界だけでなく、旅行業界にとっても、戦略策定などで大きな力になっている。昨年10月の大幅な水際対策緩和後の日本の国際線供給の状況、世界が待ち望む中国路線の復活、航空業界に求めらているサステナビリティへの取り組みなど、同社ジェレミー・ボーウェン最高経営責任者(CEO)に聞いてみた。
各種航空データをタペストリーのように組み合わせ
シリウムは、前身も含めると100年以上の歴史がある。長年にわたって、航空機の動きを把握するフリートデータを事業の中心としてきたが、10年ほど前から、あらゆる航空関連データを取得し、それを組み合わせたさまざまなソリューションを提供している。
ボーウェン氏は「たとえば、1+1=2ではなく、1+1+1=7になるように、データを組み合わせることで、パワフルで正確な分析をクライアントに提供している」と説明する。今何が起きているのか、今後どうなるのか、各種データを「タペストリー(織物)のように組み合わせて、明らかにする」と話す。
直近では、衛星ベースのフライト追跡データの取得も開始。これにより、海上や砂漠の上空を飛行するフライトも正確に把握することが可能になった。
航空会社は需要の回復を見極めているところ
その豊富なデータソースから、日本市場を見ると、「日本の国内線の戻りは世界と比べても早かった。一方、国際線は、昨年10月に水際対策が大幅に緩和された後も供給が需要に追いついていない」(ボーウェン氏)。日本へのインバウンドは回復基調にあるが、最大マーケットである中国路線の回復は遅く、日本発のアウトバウンド需要の復活にも勢いはない。ボーウェン氏は「航空会社は、需要の回復を見極めているところだろう」と話す。
2023年第2四半期の日本発国際線の運航スケジュール予測を見ると、2023年3月の比較で台湾、香港、米国などは増えているが、他主要国は横ばいが続く。
一方、世界最大の旅行ソースマーケットの中国については、「今後、中国発着便は確実に回復していく」と見る。今年3月15日に観光を含む全ての中国入国ビザの申請が可能になり、中国人の海外渡航ビザやパスポート取得の混乱も落ち着き、グループ旅行の再開も見込めることからだ。
中国発の国際線を見ると、パンデミックの発生により、2020年2月ごろから急激に減少。その後、2023年2月まで低空飛行が続いている。日本路線については、依然として2019年比で80%以上(7日間平均)の落ち込みだ。
飛行時間ベースのCO2排出量算出モデルを開発
ボーウェン氏は、世界的な旅行需要の回復に伴って、A380などの大型機が戻ってきている点を指摘する。混雑路線では1回のフライトでより多くの旅客を運ぶことができるためだ。しかし、「トレンドとしては、航空会社はより燃費効率のいい航空機への代替を進めている」。それは、旧型機の価格傾向データにも表れているという。
サステナビリティは喫緊の課題だ。国際航空運送協会(IATA)も、2050年のCO2排出実質ゼロに向けて本腰を入れ、各航空会社も持続可能な航空燃料(SAF)の普及や新型機への代替などによって、排出量削減に取り組んでいる。
シリウムでも、航空機からのCO2排出量を測定する新たなソリューションを開発した。ウイングレットの有無も含めた航空機の種類、座席数、クラス別に燃料燃焼を算出。その燃焼モデルの種類は170以上にのぼるという。
そのソリューションの最大の特徴は、従来の算出モデルである飛行距離ではなく、飛行時間をベースにしているところだ。着陸までの待機時間、滑走路でのタキシング時間なども考慮することで、より正確な排出量の把握を可能にしているという。
「特に社員の出張によるCO2排出に敏感になっているコーポレート向けには有効なツール」とボーウェン氏。数ヶ月先のCO2排出量を予測することも可能だという。一般の旅行者については、フライト選択の基準は変わらず価格重視の傾向が強いが、その傾向も変わりつつあるとして、「排出量を気にかける旅行者が増えれば、企業での取り組みもさらに進むのではないか」と期待する。
航空業界は、輸送分野で多くのCO2を排出している。社会的要請として「シリウムはデータサイエンスの力で、その削減に貢献していく」とボーウェン氏は強調した。