旅行系スタートアップへの投資は黄金期となるか、ニッチ系の台頭など、未来を予測する3つのシナリオ ―マッキンゼー

マッキンゼー&カンパニーはこのほど、旅行系スタートアップへの投資状況に関するレポート「Travel startups: Disruption from within?」をまとめた。

マッキンゼーの調査によると、2022年までの過去15年間に旅行系スタートアップが獲得した投資額は、全体のわずか1%となり、「GDPの10%以上(2019年実績)を占める旅行産業の規模に対して非常に低い」(同レポート)と指摘。他業種に比較して、資金集めが難しくなっているとの見方を示した。

とはいえ、旅行業への投資熱は、すでにコロナ前を上回る勢いを示しており、投資家の関心が高くなっているとも指摘。2021年の旅行系事業への投資額は108億ドル(約1兆4363億円)となり、過去最高だった2015年の記録を更新した。なお、同年はエクスペディアによるホームアウェイ買収やエアビーアンドビーのシリーズEがあった。

旅行系事業への投資額の推移(マッキンゼー資料より)

投資ラウンド一回当たりの世界での平均額は、過去10年で5倍に拡大。2010年は400万ドル(約5億3200万円)だったが、2022年は2000万ドル(26億6000万円)に増えた。ラウンド当たり投資額の伸び幅が最も大きかったのはパンデミック中の2021年。同レポートでは「投資可能な額が縮小し、スタートアップを厳選するようになる一方、選んだ少数の投資先にはしっかり出資する動きになった」と指摘している。

投資フェーズの段階別で見ると、2020~2022年は、創業初期よりも、ビジネスが軌道にのった後期(ラウンドB~D)での投資が多くを占めたことも特徴的だ。同レポートでは、「それぞれのカテゴリーで、すでに一定以上の存在規模に達しているところへの支援」と分析している。

投資先の業種では、民泊などショートタームレンタル(STR=短期滞在型宿泊)人気が牽引役となり、ホスピタリティ系スタートアップへの投資が圧倒的。2015~2019年(計400億5500万ドル/約5兆3273億円)では全体の49%、2020~2022年(計270億4500万ドル/約3兆5970億円)は同41%を占めた。

投資先の業種別比較(マッキンゼー資料より)

パンデミック禍にあった2020~2022年に、宿泊系に次いで多くの投資を獲得したのは、トラベルマネジメントのソフトウェアを扱うDivvyなど、業務渡航系スタートアップで、全体の15%を占めた。

対照的に、獲得額シェアが低迷しているカテゴリーは、タビマエ系サービスを手掛けるスタートアップで、2015~2022年のシェアは全体の1%。唯一の例外は保険サービスのスタートアップとしている。

2015年以降、旅行系スタートアップに最も多く投資しているのはベンチャーキャピタル・投資ファンド(PE)で計720億ドル(約9兆5760億円)。次いで非旅行系企業(125億ドル/約1兆6625億円)、旅行系事業者(78億ドル/約1兆374億円)、銀行および公的資金(64億ドル/約8512億円)、エンジェル投資家(36億ドル/約4788億円)。旅行事業者による出資先は、社内の新規事業や合弁事業が多く、スタートアップ育成には非常に消極的だ。

こうした状況について、同レポートでは「スタートアップは、イノベーションのけん引役であり、これを支援することは、旅行事業者にも恩恵があり、将来のマーケット拡大にもつながる。サポートすることに消極的では、次世代に向けたビジネス機会を逃すことになる」と警鐘を鳴らす。コロナ禍で旅行業への投資が鈍化している状況を、むしろチャンスを捉え、優良な投資先や提携相手を見つけ出し、将来的に優位なポジションを確立するべきだと提言している。

旅行系スタートアップの今後については、3つのシナリオを予測している。

1. 既存大手が主導

インフレや物価高により、短期間での利益獲得を目指す傾向が強まり、旅行系スタートアップへの投資は鈍化。投資ラウンド当たりの金額は縮小し、廃業するところも。既存の大手事業者やテクノロジー企業によるスタートアップ買収が増える。既存大手は、バックエンド・プロセスの最適化よりも、グローバル展開できる商品やサービス開発を優先する。

2. ニッチに強いスタートアップが台頭

創業初期のスタートアップへの投資は途切れることなく、投資額も増えるが、安定期に入ったところへの投資は急速にしぼみ、各社はエグジット戦略を急ぐ。様々なニッチ分野の課題解決に取り組むスタートアップが増え、事業内容も幅広い分野へと多様化し、深化する。既存大手は経営難にあるスタートアップを買収し、自社のイノベーション推進に活用する。

3. 黄金期の到来か

成長段階や業種と問わず、スタートアップ全般への投資が活発化する黄金期の到来。AI導入などテクノロジー開発や有事のトラブル管理といった分野への大型投資が動き、イノベーションが活発に。一方、事業者の多様化が進むことで、パートナーやサプライヤーとの提携関係は複雑になる。差別化が難しくなり、新興企業に押し出されてマーケットからの退場を余儀なくされる既存大手も。

※ドル円換算は1ドル133円でトラベルボイス編集部が算出

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