旅行テックの国際会議「WiT Japan2023」、今年の注目ポイントを聞いてきた、激変する世界の旅行テック最前線、4年ぶりの完全リアル開催

旅行テックの国際会議「WiT Japan & North Asia」(WiT)が東京に戻ってくる。4年ぶりに完全リアル開催となる今回は、日本や北東アジアの旅行市場について、多彩な角度からさまざまなテーマを掘り下げる。WiT実行委員責任者の柴田啓氏(ベンチャーリパブリック代表取締役社長兼CEO)と浅生亜也氏(サヴィーコレクティブ代表取締役社長)に、WiT2023で注目の見どころを聞いた。

大きく入れ替わったプレイヤー、新しいネットワークを再構築

ここ数年、オンラインやハイブリッド形式となっていたWiTが、ようやくパンデミック以前と完全に同じスタイルになって東京で開催される。「今回のWiTの特徴として、まず挙げたいのは、分断されていたネットワーキングが復活すること。ハイブリッドではなく、100%対面式のイベントにこだわった」と浅生氏は話す。

コロナ禍の3年間で旅行・観光業界の顔ぶれは、特に海外で大きく入れ替わった。「新しいプレイヤーから、新しい視点を直接、聞くことができるのが、WiT2023。私自身、楽しみにしていることの一つ」(浅生氏)。

イベントがハイブリッド形式で行われる利便性は認めつつ、「お互いに顔を見ながらの交流、同じ場を共有することに、参加者はWiTの価値を見出してきた」とも語る浅生氏。さらに訪日インバウンド市場への関心が高いこともあり、この機会に日本を訪れたいという海外参加者の要望も強かったという。

WiT実行委員会  浅生亜也氏

柴田氏も、「そもそも国際会議にお金を払って参加する理由は、情報や学び以上に、ネットワーキングにある。人と人との結びつきという価値作りは、やはりオンラインでは難しい」と指摘する。コロナ禍を経験し、これまで以上にネットワーキングの価値を実感した人は多い。開催地は日本ながら、スピーカーも内容もグローバルなWiTは、久しぶりに世界の旅行関係者と直接、コミュニケーションし、新しいネットワークを再構築する絶好のチャンスになる。

また、現時点で会期終了後のアーカイブ配信などは予定していない。「ライブ1回限りの場になると思う。ぜひ、この機会を最大限に活用してほしい」と柴田氏は訴える。

テーマは「Hello, New World」

WiT創始者のYeoh Siew Hoon氏の言葉によると、今回のテーマには「パンデミックがもたらしたテクノロジーによる破壊的なイノベーション、直近の事例では生成型AIなどにより、旅行業界はどう変わったのか。さらに、これからどう変えていくべきか」との問いが込められている。

実は昨年、WiTの日本開催は10周年を迎えたが、スーフン氏は来日が叶わず、オンライン参加に。そのため、2023年は、前回の分も含めて盛大に開催するべく、スーフン氏自身、例年以上に心血を注いでプログラム構成を練り上げ、準備に時間と労力を費やしてきたという。

特に意識したポイントとして、柴田氏は「多様性」を挙げる。「地域、トピックス、スピーカーまで、多様性がきちんと担保されているか、同じような観点、同じ地域、ジェンダーの偏りはないかなど全方位で検討し、できるかぎり多くの人の関心に応えられる内容を目指した」(同氏)。

久しぶりの完全リアル開催に向けて、当初は不安もあったが、結果的には、1日半という会期では時間が足りないほど、充実したプログラムが完成した。

異業種含む多彩なトピックスをカバー

浅生氏は「トラベル業界内にとどまらず、将来的にこの産業にも影響を及ぼしそうな重要トピックスもカバーしているのがWiTの面白さ。参加者からの評価も高く、今回も力を入れたところの一つ。登壇するスピーカーの面々も、非常に多彩な人選になった」と話す。

たとえば、初日の冒頭に登壇するのはマネックス・グループ・ジャパンのグローバル・アンバサダー兼エキスパート・ディレクター、イェスパー・コール氏。「世界と日本で異なる金融市場の動きなどについて、非常に示唆に富んだ話をしてくれる。個人的にも楽しみ」と柴田氏。

また、「多様性とインクルージョン」のセッションには、旅行業にも詳しいマッキンゼー&カンパニー、パートナーの武藤友木子氏が登壇。テクノロジー系では、スーフン氏が今、最も注目している領域の一つ、AIやロボティクスがもたらす未来について、WiTシンガポールでも話題を集めた情報経営専門職大学(iU)教授のエイドリアン・デビッド・チョク氏が話をする。

毎年、恒例となっている日系・グローバルOTAによるパネルには、今回も主要企業がそろうほか、ホッパー(Hopper)など、パンデミック下で台頭した新しいビジネスモデルや業態のプレイヤーの名前も。1対1インタビュー形式で登壇するカブクスタイル創業者、砂田憲治氏も、注目の経営者の一人だ。

日本および北東アジア市場を網羅

開催地である日本だけでなく、台湾、韓国、東南アジアなど、デスティネーション別のセッションが非常に充実している点も見逃せない。世界が分断されていたここ数年間、それぞれのマーケットでは何が起きて、どう変わっていったのか。各地域のトッププレイヤーから直接、話を聞くことができるのが魅力だ。

「中国からはアリババ系OTAのフリギー、韓国からはGCグループとTidesquareに加え、ユニコーンのMyRealTripがやってくる。さらに台湾や東南アジアのセッションもあり、取り上げる地域も内容もより多様になった」(柴田氏)。

同様に、ホスピタリティ業界に関するセッションも、パンデミックで長く滞在するスタイルがいっそう広がり、バケーションレンタルや民泊への注目度が高まったことを受け、今回はホテルの運営側と流通テクノロジー側とに分けることで深く堀り下げる。

さらに注目の日本で初めてIRを手掛けるMGMリゾーツ・ジャパンも登場する予定で、「最新状況や今後に関するインサイトも得られるのではないかと楽しみにしている」(浅生氏)。

一方、JTB代表取締役社長の山北栄二郎氏や全日空代表取締役社長の井上慎一氏など、日本の旅行業界を代表する経営トップもWiT2023に参戦する。

「井上氏からは、ANAは生まれ変わらなければならない。それをWiTで宣言したい、との意向を聞いている。日本の大企業のトップリーダー自らがWiTで改革を語り、世界に発信するというのは、非常にエポックメイキング」と柴田氏は感慨深げだ。

WiT実行委員責任者 柴田啓氏

海外から注目が高い訪日インバウンド市場については、「北海道ニセコ町長の片山健也氏は、非常に情熱的に、常に先を見ながら行動している方。面白い話になるだろう」(柴田氏)と期待している。

スタートアップによる新規ビジネスの競演と、投資家や識者からの鋭いアドバイスの数々もWiTにおける注目シーンの1つだ。

パンデミックの大打撃はあったものの、旅行系スタートアップからの参加応募は予想以上に多く、うれしい誤算だったという。浅生氏は「やはり衆目に触れる場に出たい、というのはスタートアップ共通の願いで、リアル開催ができて本当によかった。WiTをスタートした当初は、旅行業界からもっとスタートアップをと話していたのに、今やウェイティング・リストができるほど応募がある。よい景色になった」とも感じている。

世界とのギャップを埋める好機に

最後に柴田氏は、自らも経営者として抱える葛藤にふれつつ、「WIT2023は、まだパンデミックからの回復途上にある日本の旅行関係者が、すでに未来へと力強く歩を進めている世界とのギャップを埋める好機だ」と語った。

「シンガポール在住でグローバル事業をやっていると、残念ながら、日本と海外の差が今、とても開いていることを実感している。市場のリカバリーだけの話ではない。欧米に比べると2年ぐらいの差がある」(柴田氏)。

AIやフィンテック、さらに環境や社会の持続可能性といった問題は、今や特定の専門家だけでなく、すべてのプレイヤーにとって重要で、これからの成長戦略をどこに見出すかという問題にも関わってくる。だが、日本では、まだ成長戦略に軸足を移し切れていないところが多いと同氏は指摘する。

たとえば、日本のインバウンド市場は急回復しているものの、流通面ではグローバルOTAが優勢。アウトバウンド旅行では、仕入れ問題などもネックになっている。数年間に渡る苦境を乗り越えたばかりで、人員もリソースも限られている現状下、経営者として、そのリソースを今、どこにかけるべきなのか。

柴田氏は「こうした悩みは我々も同じ。この3年間の負債を抱えつつ、同時並行で、今後の戦略を急がなくてはならない」と話し、「だからこそ、世界で何が起きているかを知る必要がある。たとえば、テクノロジーの進化が、旅行業界にとって何を意味するのかを考えるヒントは、グローバル市場にある。こうしたテーマについて議論する場が、日本で開催されることは、非常に価値のあることだと自負している。ぜひ、会場に足を運んでほしい」と力を込めた。

浅生氏も、「宿泊施設は、新規開業ニュースが活発だが、ここにいたるまでの様々な決断もぜひ聞いてみたい。世界共通の課題である働き手不足についても、海外での対応策など、参考になる話を聞くことができるはず」と付け加えた。

WiT2023は、7月5~6日にウェスティン東京で開催される。早割チケット申し込みは6月23日まで。

WiT Japan & North Asia2023

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