エアビー創業者に「原点回帰」への方針を聞いてきた、日本で増加するルームシェアの最新トレンドから、追い風になる新潮流まで

エアビーアンドビー(Airbnb)は、コロナ禍を経て「原点回帰」の方針を打ち出した。創業当時のホームシェアリングというビジネスモデルを再強化。新たに「Airbnb Rooms (日本語名:Airbnbゲストルーム)」を立ち上げた。宿泊提供者のホストと宿泊者のゲストとの関係性に改めて注目することで、人と人が出会う旅本来の楽しさを深掘りするという。旅行環境が変化するなか、エアビーが目指す宿泊体験や、日本で増加するルームシェアの最新トレンドなどネイサン・ブレチャージク共同創業者兼最高戦略責任者への単独インタビューで聞いてみた。

日本で増加する日本人のルームシェア利用

エアビーが「Airbnbゲストルーム」の立ち上げを発表したのは2023年5月のことだ。ブレチャージク氏は「まさに、我々のルーツに戻るような取り組み」と話す。同サービスは、予約前のゲストがホストについてこれまで以上に把握できるようにするもの。

立ち上げの理由は、ホストのことをもっと知りたいというゲストからの声が多かったことがひとつ。加えて、コロナ禍が明け、旅行需要が世界的に急回復しているとはいえ、世界的なインフレや地政学的リスクなど先行き不透明感への根強い懸念も背景にあるという。

ブレチャージク氏は、現在の市場動向について「旅行者はお手頃な価格の宿泊を求めている」と分析。そのニーズに応えることができるサービスとして、「エアビーの展開してきたホームシェアリングが再評価されている」と説明した。

ブレチャージク氏によると、エアビーの平均宿泊価格は1泊67ドル。リスティング全体の80%が100ドル以下だという。一棟貸しのバケーションレンタルには高価格帯もあるが、部屋をシェアする宿泊は価格的にも泊まりやすく、「特にジェネレーションZなど次世代の旅行者の趣向に応えられている」と自信を示す。

その傾向は、コロナ禍の日本で特に見られるようになったという。2022年の日本でのゲストルームの予約は前年比で70%増。世界平均の40%増と比べると、その増加率はかなり高い。インバウンド市場が事実上停止している環境で、利用者はほぼ日本人だと推察される。「パンデミック前、日本人ゲストの利用は海外が中心で、国内は少なかった。しかし、それが変化してきた」とブレチャージク氏。出入国が自由になった今後も「その傾向は続くのではないか」と見る。

エアビーの宿泊体験の面白さは、費用対効果だけではなく、ホストとの交流にもある。「それはまさにマジックのような体験」(ブレチャージク氏)。コロナ禍で旅のスタイルに制限がかかっていたなか、「日本人ゲストはそのマジックに改めて気がついたのかもしれない」と続けた。

ブレチャージク氏は、北海道清水町で町長自らホストを務める取り組みや「大阪・関西万博」に向けて関西観光本部と包括連携協定を結んだことにも言及した。

「歴史ある建物」はサステナブルツーリズム

ブレチャージク氏は「パンデミックのなかで、いろいろと学んだことは多い」と明かす。その学びのなかで、2021年に開始したのが「柔軟な検索」だ。固定された日付で検索するのではなく、柔軟な日付設定機能を導入。また、特定の目的地ではなく、ユニークな宿泊先を検索する機能も加えた。旅行日と目的地から旅の計画をスタートさせる従来の発想を転換。同じ検索カテゴリーでも異なる目的地を選ぶことを可能にした。

「これまで知らない、行ったことのない町で泊まってみたい宿が見つかる。それは地方への需要分散化にもつながる。藁の中から針を見つけるような、意外な発見が可能になる。そのインパクトは旅行者にとって大きいと思う」。

数ある検索カテゴリーの中でも人気の分野が「歴史ある建物」。日本の「歴史ある建物」は現在、500軒以上の予約が可能。国内外の旅行者から注目は高まっているという。

エアビーアンドビー・ジャパンは2023年2月、全国古民家再生協会に総額1億5000万円の寄付を行った。古民家の空き家対策という社会問題の解決に向けた貢献と同時に、日本の伝統的な家屋を体験したいと考える外国人旅行者が多いことから、ビジネス的な判断もその背景にはある。

一方で、世界的にサステナブルツーリズムへの関心が高まっているなか、ブレチャージク氏は「今あるものを大切にしながら既存のリソースを使うエアビーはそもそもサステナブルなブランド」とも話す。

ホームシェアリングというビジネスモデルは、必ずしもインフラが整っていない地域に宿泊することにもなるため、その地域への経済貢献にもつながる。小さな町でも古民家を宿泊施設として再生し活用することで、宿泊施設だけでなく地域コミュニティーでお金が回るようになり、雇用も生まれる。ブレチャージク氏は「エアビーこそがサステナブルツーリズムそのもの」と胸を張る。

エアビーは今後も、日本の地方自治体との連携を通じて地域の課題を解決していくとともに、地域の持続可能性につながる宿泊体験を開拓していく考えだ。

ブレチャージク氏、自らが「原点回帰」へ

パンデミックで世界の旅行市場は大きな傷を負ったが、ブレチャージク氏は「世界的に中間層が増えることから、長期的には旅行需要の高まりは続く」と見通す。特にアジアについては、若者の新しい体験を求めるトレンドが強まると見ており、期待は大きい。

また、リモートワークなど柔軟な働き方の拡大はエアビーのビジネスにとっても追い風になると見られている。「どこでも暮らせて、どこでも仕事ができる」(ブレチャージク氏)という考え方、旅先テレワークという新潮流は、ライフスタイルとともに旅のスタイルも変えつつある。

ブレチャージク氏は、2023年9月から家族と世界一周の旅に出かけるという。「旅をしながら、旅先で仕事もするスタイルを続けてみたい」。自らエアビーの原点回帰を実践。「その旅で、また日本に戻ってくることが楽しみ」と笑顔を見せた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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