民泊エアビーの共同創業者CEOが語ったAI導入への戦略、タビナカ事業を一時停止した理由【外電】

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エアビーアンドビーは、人工知能による大変革に向けて先頭を走っている。もともとシリコンバレー発のテック企業なので、意外な展開ではないが、CEO兼共同創業者のブライアン・チェスキー氏は、チャットGPTで知られるオープンAI社を創業したサム・アルトマンCEOと旧知の仲でもある。

最近、エアビーからの公式発表は、新プロダクトに関するものばかりだったが、2023年5月、毎年恒例の同社イベントの際、チェスキーCEOがスキフト(skift)インタビューに応じ、AIが来年以降、担う役割についての考えなどを語った。

チェスキーは、同社がもともと重視していたデザイン、クリエイティビティ、そして人に改めてフォーカスする方針だと話す。実はここ数年、こうした価値を見失いかけていたが、パンデミックを期に、基本に立ち返ることを余儀なくされたという。

また、AIをアプリ運営の中核に据えた新展開を準備中であることも明らかにした。本格的に動き出すのは来年半ばになる見込みだが、一部は今年後半にも登場する見込み。最も注力するのは、パーソナライズしたレコメンド機能と顧客サービス向上としている。

そのほか、エアビーのプラットフォーム上で展開するホスト・ゲスト向けの新サービス、広告、そしてエアビーアンドビー・エクスペリエンスの今後についても語った。インタビュー全文は以下のとおり。


スキフト ラファト・アリCEO(以下、ラファト):新しく立ち上げたエアビーアンドビー・ルームズ(日本での呼称は「Airbnbゲストルーム」。ホストの詳細情報や新カテゴリとしての「ゲストルーム」の追加)や顧客サービス体験を改善する取り組みなどを見ていて感じるのは、「なぜいまなのか?」という疑問だ。いずれも5年前にやろうと思えばできたのではないか。

Airbnb ブライアン・チェスキーCEO(以下、チェスキー):簡単には答えられないが、大きな背景について説明すると、エアビー創業当時、最も大切にしていた2つの基本的な価値について、改めて考えてみようと思った。まず1つ目はデザインとクリエイティビティ。デザイナーが2人、エンジニアが1人というテック企業はめずらしいでしょう?

もう一つは、エアビー創業の経緯から分かる通り、そもそも空き家をどうしようか、という視点ではなく、誰かと一緒に過ごすというスタイルを目指した。2008年から2011年ぐらいまでは、それが大きな特徴だった。ところが5年、10年と経ち、初期のエアビーらしさが薄まっていった。デザインやクリエイティビティの独自性も失われていった。

一例を挙げると、パンデミックが勃発した頃、当社ではパフォーマンスマーケティングに十億ドルを費やし、A/Bテストをひたすら繰り返していた。もちろんテストは多少は必要だが、ABテストですべての内装を選んだ家なんてつまらない。ブランドマーケティングにも成功していなかった。プロダクトのビジョンでも、今回、ローンチしたものに比べて、全体的な統一感に欠けていた。これが反省点の一つ。

また、エアビーのルーツについて考えるようになった。エアビーは、常に人が中心だったはずなのに、どこを見ても、人が感じられなくなっていた。これではいけないと悩み続けていた。そんなある日、2019年10月に共同創業者のジョーとネイトとハイキングに出かけた。私は二人に、自分が会社を辞めて、戻ってきた夢を見ているように感じると話した。10年ほどエアビーから離れていて、戻ってみたら、まるで違う会社になっていたと。二人は「それで、どうしたいの?」。「うーん、分からない。IPOがある。もうすぐ上場だし」と私。

当時、私が悩んでいたのは、デザインとクリエイティビティ、そして人という2つのことが、もはや事業の中心から消えてしまっていたからだ。なぜ、そうなったのかは分からない。事業が成長するなかで、少しずつ、何もかもが最初の立ち位置からずれていくのかもしれない。従業員を増やし、時代の潮流に乗り、成長拡大へ。人々のニーズに応えようとしたことも一因だ。実際に需要があったのは、「個人宅」の部屋やコミュニティよりも、家をまるごと借りることだった。日々、こうした需要を追いかけ、応えようとしてきた。やがてある日、気が付けば周りの景色はまったく違うものになっていた。

そんな時に、パンデミックが勃発し、突然、また最初からやり直しを迫られる事態となった。そこでまず、デザインとクリエイティビティの価値を取り戻すことから着手した。パフォーマンスマーケティングからは手を引いた。もっともブッキング・ホールディングスに比べれば、エアビーが費やしていた額はずっと少ない。当社が年間、数百万ドルだったのに対し、ブッキングは数十億ドルを投じていた。検索キーワード対策に追われていたが、本来はどうでもよいこと。だが、対応しない訳にはいかなかった。けれどもようやく、新プロダクトのローンチまで漕ぎつけることができた。私も全部チェックしている。デザイン作りからカスタマー・ジャーニー設計まで、全てが徹底している。

ようやく、本来のエアビーらしさ、我々の真髄であるデザインとクリエイティビティを完全に取り戻すことができた。デザイン面では、数年先まで時代を先取りしていると思うが、人の絆や連帯感、コミュニティ作りはまだこれからだ。

パンデミック下でレイオフ通知を書いていた頃、エアビーのルーツに戻ると話したことを覚えているかもしれないが、これが本当のルーツだ。

ただ、この3年間はほとんど動けなかった。自分の自宅に人を迎えるなど、ありえない状況だったので、ひたすら待っていた。当初は2022年にエアビーアンドビー・ルームズを立ち上げる計画だったが、オミクロン感染拡大があり、タイミングが悪かった。やり直せる時が来たら、今度こそ、価値を見失わないと誓っていた。経験から学び、成長し、当たり前だと思っていたことが、いかに稀有なことだったかを思い知らされた。それで、今になった。

また、今後の展開を予想したことも、理由の一つだ。当社のライバル各社がやっているのは基本的にマーケティングで、利ざやを得る取引きだ。一方、我々が目指すのはイノベーション。私が憧れるのは、ウォルト・ディズニーやスティーブ・ジョブズだ。私が彼らに似ているという意味ではなく、今までなかったもの、リアルな商品やイノベーションを提供する企業でありたいということ。我々もパフォーマンスマーケティングやABテストをやるが、それが事業の中核ではない。アービトラージで稼いでいる訳ではない。

私は、人々に愛されるすばらしい商品を作りたい。もう一度、人が中心にあるブランドを目指す。エアビーアンドビー・ルームズは、小さな一歩で、種をまいたところだが、これから数年かけて、次々に新しいことに取り組んでいく予定だ。

ラファト:相次ぎ登場する新商品の中には、もちろんAIを活用したサービスもあるのでしょうか。オープンAI(チャットGPTの親会社)創業者兼CEOのサム・アルトマン氏は、エアビーに出資しており、あなたの友人でもある。当然、エアビーでも、近いうちに何か新しい展開がありそうですが。

チェスキー:彼とはとても親しく、毎日話す仲ですが、見解は少し異なる。私はAI活用を急ぐべきだとは考えていない。私が好きな企業、アップルのよいところは、スマートフォンや音楽プレイヤー、タブレットなど、いずれも商品化が一番早かった訳ではないが、出来上がった商品は圧倒的で、他社の追随を許さないレベルであること。

AIに関連した背景を少し説明しよう。サムと知り合いになったのは2006年で、当時、彼は(スタートアップ支援企業の)YCombinatorにいた。私が同社の支援プログラムにエントリーする前から、シリコンバレーにやってきたばかりの私の初期メンターの一人だった。投資家で、2014年以降は同社を経営していた。その後、数年間はあまり連絡をとっていなかったが、昨年、チャットGPTの前に手掛けていた(画像生成AIの)Dall-Eがクリエイティブなツールで、私はむしろこちらに関心を持った。そのあとにチャットGPTが登場することは全く知らなかった。

サムと一緒にサンバレー(メディアとテック企業のイベント)に参加した時のこと。私がオープニングトークで、経営方針や、新プロダクトのローンチについて講演すると、サムが「自分も同じような経営がしたい」と共感してくれた。そこで、詳しく話をしようとした時、彼が取り出したのがDall-Eだった。これを見た私は驚き、「このツールがあれば、アーティストたちは大喜びだ。いや、アーティストが要らなくなるかも。協力させてほしい。うちで使ってみよう」。

その間、実はもっと驚くべきものが開発されていたとは、知る由もなかった。それがチャットGPTで、社内はもちろん、世界中が(そのローンチにより)変わることになった。私はサムに「一緒に何かやりましょう」と持ち掛け、以来、オープンAIとは緊密にやり取りしている。実はプラグインの開発も手伝った。我々はプラグイン開発の最初のパートナーで、うちのエンジニアのチームをオープンAIに派遣したこともある。

だが、システム統合については、「サム、こちらの作業には、我々は関与しないつもりだ。オープンAIのプラグインを作り、検索はできるようになったが、インターフェースはまだ不十分だから」と伝えた。

ラファト:まだビジュアルがよくない。

チェスキー:まだだ。サムには「チャットGPTの上位レイヤーにインターフェースを構築するより、GPT4をアプリに入れるのはどうか」とも提案した。結局、当社ではこのやり方を選び、今、作業中だ。

ラファト:ローンチはまだ先ですね。対話形式での検索インターフェースについては、どう考えていますか?

チェスキー:もちろん、準備している。2024年5月には、まったく新しいエアビーアンドビーをお披露目できるはずだ。その中枢を担うのはAIになる。その前に、2023年11月には、何かしらの発表ができるだろう。当社は毎年、5月と11月が新プロダクトをローンチ時期になっているから。2023年11月は、小さな進展にとどまるが、2024年5月は、AIでアプリ全体が再構築されているだろう。

今後について、様々な戦術を検討しているところだ。まず、顧客サービス。AIによるサービス拡張を進める。(機械ではなく)人が提供するサービスが求められているが、AIが人をサポートすることで、人的サービスも拡充できるはずだ。具体例を挙げよう。当社では、計72項目のユーザー規約がある。差別、キャンセル、再予約などに関するもので、なかには100ページに及ぶ内容もある。国による違いや、様々なケースに対応しなければならないからだ。自分が顧客サービス担当だったらと想像してほしい。3カ月ほど研修を受けただけなのに、現場では、3分以内に解決策を求められる。「えっと、どの規約に該当するのかな?」と資料を探すことになる。

AIはこうした作業が人間よりずっと得意なので、顧客サービス対応を支援できる。できれば顧客側には、AIが対応したと分からない方が理想的で、「すばらしい顧客サービスだな」とだけ思ってもらえればよい。AIの存在は見えなくてよいのだ。それが戦術というもの。今秋を皮切りに、今後12カ月かけて、こうしたサービスを拡充していく予定だ。販売担当者の業務は、生産性と質の両面で、大きく向上するはずだ。

ほかにも色々な新しい機能作りに取り組んでいる。例えば、レビューの要約。膨大な数のレビューが付いている登録施設の場合、要約してまとめた内容があれば便利だ。それから画像をもとにしたテキスト生成。例えば、自宅をエアビーに掲載する際、部屋の写真を撮ると、その画像をもとに、室内アメニティ情報のページも埋められるようにする。照明器具などを識別する技術がすでにあるので、こうしたことも可能だ。

もう一つは開発の生産性アップだ。2023年は、開発業務の生産性を20~30%アップできる見通しで、さらに一年後には倍増するだろう。それだけではない。エアビーのアプリが、限りなく究極に近い、最高のホスト兼コンシェルジュとして機能することが目標だ。実現するためには、3つの階層が必要になる。まず、ベースとなる大規模言語モデル(LLM)。これは自社で作るつもりはない。GPT4を使うか、もう少し小規模なモデルを採用するかもしれない。ベースモデルというのはインフラで、いわば高速道路。自前にはこだわらない。我々がやるのは、道路を走る車のデザイン。つまり、当社の顧客データを使って、既存モデルに細かい調整を加えていく。

まず、非常にパーソナライズしたレイヤーをAIに構築し、それからAIのインターフェースを設計したいと考えている。なぜなら、我々の得意分野は、テクノロジーの基盤部分よりも、インターフェース開発だからだ。アプリケーション、デザイン、プロダクト・インターフェース、アプリケーション・エンジニアリングなどの領域ではトップレベルなので、この強みを活かしたい。来年、みなさんにお披露目する成果に、ぜひ期待してほしい。ただし、商品化は急がない。アップルと同じで、一番早いよりも、ベストでありたい。

ラファト:つまり、最も力を入れているのはアプリということでしょうか? ウェブサイトではなく、アプリ中心に展開するのですね。対話型AIの主戦場はアプリですし。

チェスキー:私が予想していた以上に、ウェブサイトは今も根強く使われているが、まったくおかしな話だ。リアルタイムでのやり取りは、アプリの方がずっと適しており、対話型のコミュニケーションに向いている。より自然で、こちらから通知もできる。アプリの方があらゆる使い勝手に勝るが、旅行業界ではまだデスクトップが主流なのは残念だ。没入感がまったく違うし、投資や開発も活発だ。

ラファト:あなたは最近のカンファレンスで、ホストとゲスト、双方を対象にした有料サービスや商品を扱うマーケットプレイスのアイデアについて語っていましたが、これも実現しますか?

チェスキー:今、取り組んでいる最中だ。詳細は未定だが、2023年11月には、いくつか発表できると思う。段階的に進めていくので、その一年後には、大規模な展開になっているだろう。さらにその先もね。

特に、ホスト向けのサービスで、多くの新展開がある。エアビーアンドビー経済圏のようなものを構想しており、図解資料を作ったので、そちらを見てもらったほうが分かりやすいかもしれない。エアビーアンドビーという土台の上に、どのような事業があるかをまとめてみた。

何千もの事業があるが、なかでも重要なのは300社ほどで、年間何百万ドルものビジネスになっている。例えば清掃、写真撮影、カギの受け渡し、価格戦略、共同ホスト、メッセージングなど。データ提供や、登録リストのチェックもある。

このエコシステムにアクセスすれば、様々なサービスが利用できる。同時に、ここで当社独自のサービスも提供していく。

(エアビーの検索ページや掲載リストのページの)広告枠についても頻繁に問い合わせがある。いずれ取り組むことになると思うが、急いで広告枠を作るつもりはない。広告は麻薬になりかねないので、注意が必要でしょう? ビジネス的には最高だが、パフォーマンスマーケティング漬けになり、企業価値や社風、商品にダメージを与えないように気を付けなくては。だから、ゆっくり時間をかけて、注意深く進めてきた。有料の出稿枠を作るとしても、他とは違うやり方にしたい。今まで誰も見たことがない手法、よりパーソナライズしたやり方だ。そのためには、もう少し時間がかかりそうだ。

ラファト:最後の質問です。視界不良に陥っているエアビーアンドビー・エクスペリエンスの今後について。あなたが大切にしてきた事業で、成功させたいはずだが、気まぐれな思いつきに終始しているという印象です。

チェスキー:それはもう沢山の思いつきを試してきたよ。私見だが、本来は体験だけでエアビーと同規模のビジネスが成り立つはずだ。我々もまだ、そこまで到達していないが、将来的にはできるかもしれない。いずれ誰かが、数千億ドル規模の事業に育てるだろう。マーケットは確実にあるが、問題はタイミングだ。当社に出資している投資家の一人、マーク・アンドレッセン氏が言った通りで「アイデアはどれも悪くない。ただ、タイミングが早すぎた」。

今更だが、(エアビー)エクスペリエンスは事業化が少し早すぎた。やり方も今一つだった。現在、年間のチケット取扱いは数百万件に達しており、失敗とは思っていない。だが当初、思い描いていたものにはなっていない。さらにパンデミックの打撃で停滞してしまった。新しい体験の追加は中断しており、立ち止まって、今後を考えているところだ。

ラファト:この事業からの撤退はない?

チェスキー:なくなることはない。同じ領域で、今までとは違うことに挑戦したいと考えている。当社の中核事業と同規模のビジネスが、もう一つ成り立つぐらいの可能性があると今も確信している。我々ならうまくできるのか、機は熟しているか、勝算は、と自問自答している。私個人の考えとしては、疑問の余地はない。人々は体験を求めており、マーケット規模は膨大だ。

ラファト:他社を買収する考えは?

チェスキー:すべての可能性を排除しない。だが、いざやる時は、まったく前例のないやり方にしたい。今後の展開に期待していてほしい。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Interview: Airbnb CEO On How Its Service Will Radically Change With AI, By Next Year

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