チャットGPTで旅行販売は「超パーソナライゼーション時代」へ、フォーカスライト・ヨーロッパで識者3人が議論

スペイン・バルセロナで2023年6月に開催された「フォーカスライト・ヨーロッパ」。世界の観光産業の識者が集まる場で「チャットGPTは旅行販売にどのような影響を与えうるか」をテーマとしたパネルディスカッションがおこなわれた。パネリストとして参加したのは、カヤック(KAYAK)のテクノロジー担当SVPのマシアス・ケラー氏、マイクロソフトの西欧担当セールス・ディレクターのパブロ・ルシリカ氏、トリップドットコム・グルーブ(Trip.com)のプロダクトマネージメント担当シニアディレクターのエイミー・ウェイ氏。チャットGPTがもたらす旅行への影響について、現状と今後の見立てを語った。

対話型AIはゲームチェンジャーに

2023年2月、アプリに対話型AI「TripGen」を実装したトリップ・ドットコムのウェイ氏は、「チャットGPTは、単に質問に答えるだけでなく、現地での旅の仕方をリコメンドしてくれる。今後のゲームチェンジャーになるだろう」と話す。ウェイ氏によると、自身のIPアドレスからTripGenにアクセスしたユーザーのコンバージョンレートは平均の2倍になり、離脱防止率は平均的ユーザーの30~40%高くなったという。

3月末にチャットGPTをプラグインしたのはカヤック。カヤックのケラー氏もウェイ氏と同様、「チャットは以前から存在したが、チャットGPTは単に答えを返すだけでなく、どのようにユーザーの好みに寄り添えるかという点でゲームチェンジャーになる」との考えを示した。データ取得については、プラグインによってカヤックはエージェント的な立場になるため、ユーザーの個人的なプロファイルを得ることはできないとしながらも、「ユーザーとの会話を通じて、その人に『これが正しい選択』だと納得させるだけのより深い情報を知ることはできる」と話した。

また、OpenAIに多額の投資を行ったマイクロソフトのルシリカ氏は、「今後、検索エンジンのBingだけでなく、ワード、エクセル、パワーポイント、ウインドウズなどあらゆるマイクロソフトの製品に導入される」との見通しを示した。そのうえで、チャットGPTは、個人との関連性を高める「超パーソナライゼーション」を可能にするとし、「その関連性をポテンシャルユーザーに提案できれば、コンバージョンは上がる」と強調した。

具体的な例としては、チャットGPTであれば、「大人2人と子ども3人の家族旅行で、子ども向けのアトラクション、大人向けには博物館があり、バルセロナから3時間以内で、暑くもなく、寒くもないデスティネーションという問いに答えることができる」と続けた。マイクロソフトのBing AIチャットは今年2月にローンチしたが、最初の3ヶ月で約5億回のチャットがおこなわれたという。

さらに、カヤックのケラー氏は、チャットGPTを「優れた読者であり、卓越した作家でもある」と表現。「リアルタイムで唯一無二のパーソナライゼーションで、魔法のようなことが起きる」として、現在はプラグインのみだが、「今後は、自社プロダクトの開発、バックオフィスの効率化、ユーザーインターフェイスのアップグレードなど、あらゆる領域での活用を考えている」と明かした。

(壇上左から)トリップドットコムのウェイ氏、マイクロソフトのルシリカ氏、カヤックのケラー氏、モデレーターを務めたフォーカスワイヤー編集長のミタラ・ソーレス氏プライバシー保護とバイアスの課題とは?

一方で、チャットGPTの活用ではプライバシー保護とバイアスのかかったリコメンデーションも議論の的になっている。

マイクロソフトのルシリカ氏は「真実は一つの特定の情報源から来るものではない。私たちはどのようにバイアスのない中立的な情報を提供できるかを考えている。適切な基準と適切な技術を確保するために業界として取り組む必要がある」と発言。同社では、マニュアルでAIモデルを学ぶする特別チームを編成していることを明らかにした。

また、カヤックのケラー氏は「旅行は実体験のビジネス。今は比較的リスクが少ない」とコメント。大量のレビューから手探りで自分の好みの情報を探すことを考えれば、「チャットGPTは大きなチャンス」とし、現状はリスクよりも効果の方が多いとの考えを示した。

3人は今後のチェットGPTについても議論。トリップドットコムのウェイ氏は「あらゆる業界で生成型AIは広く使われることになるだろう。5年後、10年後には、大規模言語モデルをもとに、ユーザーインターフェイスや多くのオンライン体験などは再構築されるだろう」と話した。

また、カヤックのケラー氏は「チャットGPTを持たない検索エンジンは存在しなくなるだろう。チャットGPTは世の中に広まり、逃れようがなくなる」と発言した。

マイクロソフトのルシリカ氏は、チャットGPTをはじめ、「プラグインの革命が起こる。プラグインが新しいテクノロジーへの入り口になる。今以上にさまざまなアプリが交じり合う」と話し、マイクロソフトの戦略として重視していく方針を示した。

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