日本旅行、不正請求問題で会見、背景に「体面を重視、誤った防衛認識」、調査結果は愛知県以外で不正なし

日本旅行は2023年6月29日、同社グループの全国旅行支援における不正請求問題について会見を開き、調査結果を公表した。すでに判明している愛知県の受託業務以外には不正がなかった一方で、不正には、誤った防衛意識や新たなビジネスの契約に対する理解不足があったなどと問題の要因を明らかにした。

同社代表取締役常務取締役の舘真氏は、「コロナ禍で一時ほぼ消滅した旅行業、それ以外のビジネスを開拓することができ、公正で厳格な運用が求められる事業を取り扱うことに対する啓蒙を進めてきたつもりだったが、このような事態が起きたのは痛恨の極み。あらためて深くおわびするとともに、再発防止のために内部管理体制、社員に対する教育・研修の強化を進めていきたい」などと謝罪した。

運営能力の低さを問われたくなかった

日本旅行の人件費に関する不正が判明したのは、愛知県の全国旅行支援事業「いいじゃん、あいち旅キャンペーン」の運営業務。同社は、宿泊施設・地域クーポン加盟店から提出された書類業務を中心に、10~15名を事務局に拠出。うち2名は同社員、残りの人数を外部派遣会社に委託していた。ところが、外部から不正疑いの通報を受けて調査したところ、旅行需要の急回復に伴って業務が忙しくなるのに対し、派遣会社から体調不良や個人事情で前日・当日の欠員連絡が入るたび、その補充として実際には勤務実態がない同社社員の名前を記載していたことが判明した。

不正は、166人日、45.5時間、請求額に換算して564万749円。同事業はJTBが受託し、日本旅行、近畿日本ツーリスト、東武トップツアーズ、名鉄観光サービスの4社が再受託するコンソーシアム形式で業務にあたった。全国旅行支援あいち協議会(愛知県・愛知県観光協会)からの事務局運営の委託費は約23.7億円に上る。

日本旅行が不正をおこなった背景には、他社に比べ派遣会社への人員委託が多く、「(急な欠員、早退などによる)運営能力の低さを問われたくないとの思いが現場にはあった。体面を重視し、欠員補充の体裁を第一とする誤った認識があった」(舘氏)。日本旅行以外の企業の勤怠虚偽報告の事実は認められなかった。

また、旅行事業とは異なる業務に対し、名前貸しによる人件費の請求など不正行為の重みに対する認識不足、契約書に対する理解の不足、不正行為を抑止する機能の不全が要因にあったという。組織ぐるみの不正かどうかについては、「支店単位で考えると組織単位ととられても仕方ないが、発端は体裁を第一としたもので、組織ぐるみとは考えていない」とした。

再発防止に向けガンバナンス推進部設置

調査結果を受け、日本旅行は不正事業に関する相当額である約560万円の事務局への減額、同事業からの6月9日付での離脱、業務委託料のうち営業管理費の辞退を実施した。社内処分については、不正に関わった社員13名を6月30日付で、6名を懲戒処分、7名を訓戒処分とし、代表取締役社長の小谷野悦光氏と舘氏は役員報酬の一部(月額報酬10%を1ヵ月) を自主返上する。

なお、弁護士をはじめとする調査委員会により、2020年4月から現在まで、同グループで取り扱う中央省庁、地方自治体、独立行政法人に関わるすべての取扱件数2457件を調査した結果、愛知県の事案以外で不正は検知されなかった。

再発防止策として、教育・研修の強化と企業風土改革の推進、運営・チェック機能の強化、内部管理体制の強化を進める。内部管理体制については、7月1日付で常勤監査役の増員を含めた内部管理に係わる役員体制の強化、新組織「ガバナンス推進部」の設置、監査室監査や内部通報制度の啓発強化に努める。

舘氏は「特に、今回の事案ではマネージャークラスの判断で問題が起こっている。少人数でディスカッションをおこなうなどの教育・研修の強化、事務手続上の齟齬の防止、企業風土改革、多段階でのチェック機能などに全力を尽くしたい」と語った。

事業を支えた受託業務、「痛恨の極み」

日本旅行が今年2月に発表した2022年12月期連結決算(2022年1~12月)の営業利益は66億9200万円。コロナによる旅行需要が回復基調になったとはいえ、徹底したコスト削減とともに事業を支えたのが、ワクチン関連事業をはじめとした国や自治体からの受託業務だ。

舘氏は「これまで旅行業でつちかってきたホスピタリティ、団体旅行やMICEを通じた運営能力を評価してもらって何とか生き延びることができたが、こういった案件が発生してしまい痛恨の極み」と吐露。コロナ禍で激減した旅行事業以外の案件として、旅行会社の経営を支えてきたBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は、地域の課題解決への提案など増加の傾向にある。同社が進めるソリューション事業の柱として、管理体制を再構築し、軸としていく方針には変わらないとの見解を示した。

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