日本旅行業協会、高付加価値化など4つを柱で事業推進、コンプラ問題で新たな再発防止策検討へ

日本旅行業協会(JATA)は2023年7月5日、ポストコロナに対する旅行業界の直近の取り組みを発表する記者会見を開催した。国内旅行、訪日中心に回復基調に向かう一方で、海外旅行需要の停滞、日本各地で再燃してきたオーバーツーリズム、BPO事業に伴うコンプライアンス問題、人材不足が顕在化してきている点にもふれ、日本最大の旅行業界団体としてさまざまな点での適正化に尽力しながら、「持続可能性への挑戦」をテーマに事業を推進していく方針を示した。

海外旅行復活の重要性をあらためて強調

JATAがポストコロナのツーリズム・旅行業界のあり方として重視しているのは、持続可能性への挑戦を軸とする「SDGsへの対応」「旅の高付加価値化」「双方向交流の定着」「協調と共創」の4点。JATA会長でJTB取締役会長の髙橋広行氏は、「旅行業界もトンネルを抜け、明るさを取り戻しているが、海外旅行の復活なくして業界の再生はない。国内旅行、訪日旅行とともに三位一体での復活を通じて、観光立国の実現に貢献していきたい」とあらためて力を込めた。

具体的に、SDGsへの対応については、表彰制度「JATA SDGsアワード」の創設などを通じ、会員各社への啓蒙を図っている。髙橋会長は、「欧米の一部では、SDGsに取り組まない日本の旅行会社との取引を避ける傾向も生まれている」と、待ったなしの状況であることを指摘。世界のツーリズム業界でサステナブルな観光への対応が一般化するなか、「何から始めるべきか」などと躊躇する会員に対し、事例を周知・共有し、自発的な行動をうながしていくとした。第1回アワードには、75件26社の応募があり、大賞はエイチ・アイ・エス(HIS)の「旅を通じて、カンボジアの子どもたちに学びの機会と楽しさを届ける」が受賞した。

海外、国内、訪日旅行に最新状況にトップが言及

もっとも、足元の旅行需要はまだ回復途上だ。JATAによると、国内旅行、訪日旅行はコロナ前の2019年比で7割程度まで回復しているが、喫緊の課題になっているのが海外旅行である。主要旅行業者43社海外旅行取扱高の2023年1~4月累計は、2019年比で回復率35.1%。市場別では、業務渡航が65.8%まで戻っているが、レジャーは22.3%にとどまっている。なお、2019年の海外旅行市場規模が約2兆円で主要旅行会社総販売の約4割を占めていたのに対し、2020年から3年間で5.5兆円が消失した。

JATA副会長で阪急交通社代表取締役社長の酒井淳氏は、心理的な障壁、旅行費用高騰、インバウンド中心の航空座席供給、大都市と地方部の格差といった課題が複数残っているものの、「機運醸成は高まりつつある。安心安全を担保し、個人ではできない様々な体験を提供できる海外旅行こそ、旅行会社の強みが発揮できる分野だ」と強調した。ただ、旅行の高付加価値化に向けて不可欠な商品造成はコロナでブランクが大きく、各社社員に向けたセミナーやワークショップの開催など、JATAアウトバウンド推進協議会の活動を強化する方針も示した。

国内旅行については、JATA副会長で日本旅行代表取締役社長の小谷野悦光氏が、7月下旬に稼働する予定の「観光産業共通プラットフォーム」の構築にいたる経緯、目的について詳しく語った。「観光産業共通プラットフォーム」は、宿泊施設が基本情報や営業情報、災害情報を登録し、旅行会社が検索・取得できるもの。

小谷野氏は、「ここには、健全な競争と協業、人材をはじめ限られた経営資源を高付加価値化に充てるための効率化、ボトムアップなど、さまざまなテーマが込められている」と言及。宿泊施設情報の一元化は、コロナ禍で大ダメージを受けた業界が一丸となって取り組むべき課題として会員の総意を得られたもので、「『稼げる地域・稼げる産業』『持続可能な観光地域づくり』に向け、見えない部分で力を生み出していきたい」と力を込めた。

また、訪日旅行は、3月に改正された「観光立国推進基本法」でも柱として国策として重視されており、特に中国からの訪日客の復活状況がカギとなっている。JATA訪日旅行推進委員会委員長で東武トップツアーズ代表取締役社長執行役員の百木田康二氏は、2023年5月の日本側の身元保証書発行件数が2019年比で23%だったことを紹介。「JATAも中華人民共和国訪日観光客受入旅行会社連絡協議会(中連協)も、中国の旅行会社による個人・団体の観光ツアーがいつ再開されても迎え入れる準備はできている」と意気込んだ。

ただ、需要回復に伴い、今春の桜シーズンで一部発生したオーバーツーリズム問題が秋の紅葉時にも懸念されること、各地の受け入れ先、ツアーオペレーターで人材不足が顕著になってきていることも指摘。7月中に日本観光振興会と共同で宿泊施設、観光施設、DMOなどを対象とした受け入れ意識調査を実施し、業種別の課題、地域間格差、意欲を可視化していきたい考えだ。

コンプラ問題で新たな再発防止策検討へ

なお、髙橋氏は旅行会社のBPO事業に関して複数発覚したコンプライアンス問題については、「このような事態は決して許されず、業界全体に対する信頼を大きく損なうものだった。深刻に受け止めている」と言及。観光庁の指示で各社の受託業務の総点検を実施し、現時点では新たな不正事案の報告がないことを明らかにしたうえで、「残念ながら、従来の啓発や教育は不十分だったと言わざるを得ない。改めて実効性のある再発防止策が不可欠である」との見解を示した。

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