星野リゾート代表の星野佳路氏は、トラベルボイスのインタビューに応え、国内でのライドシェア導入の議論について、都市部のタクシー不足を軸に進めるのではなく「地方に自由を与えるべき」と主張した。
ライドシェアを巡っては、解禁に向けた議論が熱を帯びている。安全への疑問や競合となるタクシー業界の反発などもある中、岸田総理は2023年10月23日に国会での所信表明演説で「地域交通の担い手や移動の足の不足などの社会問題に対応し、ライドシェアの課題に取り組む」と言及。11月12日の報道番組では菅前首相が、最終的には法改正を視野に地域を限定せず全国に導入することが望ましいとの見解を示している。
星野氏は、ライドシェアの議論が過熱したきっかけが、コロナ禍を契機とする都市部でのタクシー不足であると指摘。一方で、「(タクシー不足は)地方では10年以上も前からの課題。地方の無人駅には、駅待ちのタクシーがいない。地元住民にとってはもちろん、観光客にも大きなマイナスだった」と、移動が不便となっている地方の窮状を説明した。星野氏は、海外でウーバー(Uber)が流行りはじめた当時から、地方にこそライドシェアの必要性があると考え、様々な場所で発信していたと話す。
そのうえで「(地域限定でなく)全面解禁が一番良いが、そのために議論が長引くのであれば、まずは地方から開始すべき」との考え。「都市部と地方では、事情が違う。都会の事情にあわせたルールを、地方に持ち込むとおかしくなる。(無人駅など)事業者間の競争がないところから、ライドシェアの課題検証を含めて、始めるのが良いと思う」と話した。
タクシー不足で、地方の観光地で起きていること
例えば、同社が運営するスキー場「ネコマ マウンテン」の最寄駅であるJR磐越西線・磐梯町駅(福島県)も、駅待ちタクシーがない無人駅。スキー場までは駅から車で15分ほどだが、タクシーが必要な場合は、スキー場とは反対方向、車で40分離れた会津若松市から呼ぶ必要がある。タクシーは15分の売り上げのために、往復約2時間を使うことになる。星野氏は「この状況は、環境にも、利用者にも、タクシー事業者にとっても良いことではない」と説明する。
では、その磐越町駅でライドシェアが解禁されると、どうなると考えているか。
駅前は住民が多く、自家用車を保有する人も多い。同社のスタッフも多く住んでおり、特に冬季はアルバイトを入れるとスタッフは数百名になる。星野氏は、「例えば、彼らの出勤・退勤時に、駅とスキー場の間を一緒に乗せていくことができる。このちょっとした親切に、合法的に謝礼を払える仕組みがライドシェアだと思っている」と話す。
観光は、地方経済活性化の切り札。だからこそ、政府は観光を日本の成長戦略の柱としている。星野氏は「地方に自由を与えれば、各地の事情にあった新しい仕組みが生まれる。地方の人口減少や経済衰退に対し、プラスになることが相当あるはず」と強調した。