観光産業の主要組織による「観光立国推進協議会」、課題と取り組みを議論、出国税の使途拡大から観光DXまで

観光立国推進協議会は2024年1月16日、都内で第10回協議会を開催した。旅行、宿泊、鉄道、航空など交通、観光施設、クルーズ、DMO、飲食、観光DXなど各分野を代表する企業から委員・代理人78名が出席し、「観光の価値向上と持続可能な観光産業に向けて」をテーマに意見交換した。討議した内容は、今後取りまとめたうえで国土交通大臣に民間セクターの総意として提言する予定だ。

観光立国推進協議会とは、観光関係企業・団体が集い、民間セクターとしての方針の策定などおこなう組織。交通、鉄道、宿泊、旅行のほか幅広い産業が連携し、約100団体・企業が参画している。日本観光振興協会が2014年に立ち上げた。

働き手に選ばれる産業へ、次世代に夢と希望を

冒頭、協議会の委員長を務める日本観光振興協会の山西健一郎会長は、昨年から国内外からの旅行需要が徐々に回復している状況を振り返り、続けて今年は3月の北陸新幹線の敦賀延伸開業、来年には大阪・関西万博を控え、国内外からの旅行需要が高まる見通しを示した。そのうえで「深刻な人手不足により需要に供給が追い付かないなど多くの課題に直面している。DX推進などによる生産性向上を図り魅力的で持続可能な産業として多くの働き手に選ばれる状況を実現し、日本の観光産業のプレゼンスをさらに高めていきたい」と挨拶した。

日本観光振興協会の山西健一郎会長

来賓として挨拶した観光庁の髙橋一郎長官は、需要は急回復しているもののコロナの爪痕としての事業者の債務の存在や人手不足、インバウンドとアウトバウンドのアンバランスなどを挙げて「問題は山積している」との見解を示した。それでも「観光・旅行は決して時代遅れにはならず、何かに取り替えることもできない。その底力を信じ、次世代に向け夢と希望を持てる産業として引き継ぐための取り組みを手伝っていきたい」と述べた。

出国税の使途拡大も提言

協議会は議論のたたき台として、参加者に意見交換資料を配布。日本観光振興協会の最明仁理事長が8つの取り組みを例示した。「観光地・観光産業の人手不足ヘの取組強化」はコロナ禍で落ちた観光産業のイメージ回復に向け、観光人材の育成強化や学生との接点作りの促進、外国人就業の拡大、事業経営者の後継者不足への対応などの支援が必要とした。「地域における観光地域づくり体制の整備・強化」ではDMOの人材育成を含めた強化策の重要性を取り上げた。「旅行需要分散化・平準化への支援強化」については地方空港発着の国際便の復便や新規就航の促進、全国知事会が進めるラーケーションに代表される休み方改革促進への協力の重要性を挙げた。

「観光DXへの取組強化」については、プラットフォームができてもデータ乗り入れができず地域比較が不可能な問題点も指摘。「観光客の地方誘客への取組強化」ではキャッシュレス決済への対応や中山間地域での通信環境の整備充実が引き続き必要とした。「双方向交流拡大への取組促進(アウトバウンド・国際相互交流の促進)」は、観光旅行だけでなくビジネス旅行や教育旅行の分野でも低下している日本のプレゼンス回復や、アウトバウンドとインバウンドの均衡のとれた拡大が急務であるとした。

「観光による『2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)』をはじめとした大規模イベントの支援に向けた官民一体となった取組強化」では、国家的大イベントに観光産業を挙げて取り組み全力で応援する必要性を指摘した。最後に「地域の安定的な財政運営に必要な財源の確保・充実」として挙げたのは、国際観光旅客税の税収の使途拡大への要望で、DMOの人材育成や人材獲得への活用を例示した。

各業界からの提言は?

一方、業界や団体・組織を代表して参加した各委員からも意見が述べられた。東京商工会議所の田川博己副会頭(トラベル&ツーリズム委員会委員長)は、東京の文化都市としての魅力と可能性を取り上げ「国際観光文化都市『東京』のブランド化を図るべき」と提案した。

日本旅館協会の大西雅之会長は能登半島地震に関連して「宿泊業は直接的な被害だけでなく風評被害や旅行控えなど大きなダメージを受ける。被害規模の算定や迅速な支援策の取りまとめなどの体制整備が必要だと改めて痛感すると同時に、危機管理ノウハウがないままの現状を反省すべき。今回を機に観光産業の持続可能性の向上につながる危機管理対策を協議会として国や国会議員に要望してほしい」と訴えた。また「自力では再起できず心が折れる。借入金返済のリスケジュールや金利分の支援なども含め、個別対応では間に合わないので被災地域を一括で対応することも必要では」と意見を述べた。

ぐるなびの滝久雄取締役会長は、「旅行者意識の変化に合わせた観光情報の再構築と発信方法の再考、ユニークベニューの有効活用の必要性」などを主張。JATA(日本旅行業協会)の髙橋広行会長は、海外旅行の需要がコロナ禍前の6割程度までしか回復していない状況を説明。その根本的な要因は先進国の中で極めて低い、わずか17%のパスポート所持率にあるとして「国際観光旅客税などを使ったパスポート所持率の向上策を国に働きかけてほしい」と要望した。

菅前首相、観光は「今後も経済成長の柱」

協議会後には新春交流会が行われ、協議会出席者のほか政界関係者も参加。能登半島地震対応に専念する国土交通省・斉藤鉄夫大臣の代理の堂故茂副大臣、菅義偉前総理、赤羽一嘉前国交大臣、盛山正仁文部科学大臣など多数の国会議員が駆けつけた。

来賓として挨拶した菅氏は、総理在職時に力を入れたインバウンド需要がコロナ禍前には3200万人まで増大したことを取り上げ「インバウンド8人の消費は定住者1人の消費に相当する。つまりインバウンド誘致により定住者400万人分の消費がもたらされた」と実績を紹介。「観光が今後も経済成長の柱、地方創生の切り札として日本経済を前に進める役割を果たしてくれることを願っている」と観光産業関係者への期待を表明した。

菅義偉前総理

赤羽一嘉前国交大臣

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