農山漁村に泊まる「農泊」強化、2025年度までに700万人泊へ、農水省がプラットフォーム構築や、インバウンド拡大を推進

農林水産省は、2024年3月に「多様な地域資源の更なる有効活用に関する農泊推進研究会」を開催し、「農泊推進実行計画」および2024年度の農泊政策について説明した。また、農泊に関する消費者調査の結果が発表されたほか、ノンフィクション作家の島村菜津氏が農村観光先進国イタリアの視察報告を行った。

農水省、プラットフォーム構築、訪日外国人の受入拡大も

農林水産省は、農泊を農山漁村に宿泊し、滞在中に地域資源を活用した食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」と定義。その狙いは、農山漁村で「しごと」を作り出し、持続的な収益を確保して地域に雇用を生み出すとともに、移住・定住も見据えた関係人口の入口とすること。全国で地域の多様な関係者からなる「地域協議会」の枠組みで実施されている。

農林水産省によると、2022年度の全国621の農泊地域への延べ宿泊者数は約611万人。コロナ前2019年度の約589万人から増加した。一方、2022年度の平均宿泊費は1万2127円で、観光全体の平均宿泊費1万4069円を下回っていることから、消費拡大機会の創出と高付加価値化が課題となっている。

そのなかで、農林水産省は、2023年度から2025年度にかけて「農泊推進実行計画」を推進。「新規来訪者の獲得」「来訪1回当たり平均泊数の延長」「来訪者のリピーター化」に取り組むとともに、広域的な課題解決に向けた支援を実施し、持続可能な農山漁村地域を目指している。

そのうえで、目標として2025年度の農泊地域での年間延べ宿泊者数を700万人泊、関連消費約1060億円(宿泊約580億円、食事約300億円、体験約180億円)、所得創出約420億円を掲げた。

2024年度の農泊政策では、農泊の運営主体となる地域協議会などに対して、ソフト・ハード両面から一体的な支援を行う。観光コンテンツの磨き上げ、DXなどを通じた生産性向上による高付加価値化などのほか、人材活用事業も強化する。

実行計画では訪日外国人の受け入れも重視。2025年度目標の10%を目指す。2024年度には、「農泊インバウンド受入促進重点地域」を40地域程度選定(2024年2月時点では28地域)。受入環境の整備を支援するほか観光庁や日本政府観光局(JNTO)などと連携しプロモーションを強化していく方針だ。

また、農山魚村への誘客を進めるために、旅行者、旅行事業者、地域それぞれが抱える課題を解決する官民一体の「農泊総合情報プラットフォーム」を構築する。旅行者がプラットフォームから直接オンライン予約ページに遷移できるようにし、旅行事業者は地域の特性に合わせた商品の造成・提案ができるようにする。さらに地域への問い合わせ窓口も一元化する。

消費者動向調査、カギは若者層へのアプローチ

農泊推進研究会では、「農泊旅行に関する消費者動向調査」の結果も報告。それよると、広義の農泊市場における2022年度の旅行消費額は約1.2兆円(国内旅行全体の6%程度)、延べ旅行者数は約3000万人(国内旅行全体の7%程度)と推計。コロナ自粛が明けつつあった2022年度の国内旅行者数は前年比56%増だった一方、農泊旅行者も同52%増となった。

農泊の認知度は、前年の19%から24%に上昇したものの、意向率は前年比5ポイント減の20%となった。特に20代は男女平均で、認知率13%に対して、意向率が24%と大きく差があることから、この層へのアプローチがカギになると位置付けた。また、男女別では、男性の方が意向率はが高い傾向だった。

農泊の動機トップ3は、「農山漁村の自然を満喫するため」「リフレッシュするため」「地域の美味しい食事」となった。一般的な国内旅行と比較すると「東北」「1人旅」「民宿・民泊」が多いのが特長。「東北」への旅行は、一般的な国内旅行(5%)よりも高い18%、「1人旅」は18ポイント高い36%、「民宿」は23ポイント高い37%となった。

全体の満足度は前年の45%から53%に上昇しているものの、料金が期待値・満足度ともに低下。体験では「価格に見合った体験ではなかった」が33%にものぼった。

農泊先進国イタリア、税制優遇で経営の維持が可能に

ノンフィクション作家の島村菜津氏は、イタリアで農泊にあたる「アグリトゥリズモ」の視察を報告した。イタリア各地のアグリトゥリズモ地域を巡った島村氏は「20年前に行ったときは、空き家だらけだったところが、ガイドブックに掲載されるお店ができた地域もある」と明かし、新たな担い手による農業の再興と地域おこしが成功している地域を紹介した。

また、アグリトゥリズモに対する税制優遇措置も説明。農山地の建物に対して、それを住居とする場合、固定資産税を免除。多くの山間部や丘陵地では農地でも固定資産税が免除されるなど、アグリトゥリズモが維持されやすい税制環境が整えられている。さらに、在来種を育てる場合には、EUから助成金も拠出されるという。

島村氏は新たなアグリトゥリズモとして「教育ファーム」についても言及。「教育ファームは、農業から遠ざかってしまった子供たちに基本的なことを教えて、生きる力をつけようという取り組み。それに加えて、ある程度ゆとりのある大人たちに向けて、本当に美味しいものの、環境保全型の農業とは何かを伝えている。イタリアではその意義がしっかりと位置付けられている」と話した。

このほか、地震の被災地で生まれた分散型ホテル「アルベルゴ・ディフーゾ」と農泊、そして空き家対策との親和性についても触れた。

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