星野リゾート代表の星野佳路氏は2024年4月に開催した定例プレス発表会で、観光産業が直面している課題に対する考え方と、星野リゾートの対応について話した。
このうち、人手不足については「観光産業が一流産業を目指すうえで、良い機会になる」との認識。優秀な人材を取り込むためには、労働条件を他の産業と同じレベルに引き上げる必要があるが、「この状況を投資家に対して、論理的に説明できる時期がやっと来た」と捉えた。
星野リゾートも、労働力不足が大きな課題。コロナ禍でも成長を見据えた採用活動は続けたが、離職する若手社員が一時期に増加した時期もあった。退職率の低減に向けては、星野氏が各施設を訪問して現場の課題や問題意識を話し合い、施設ごとの最適な業務内容を確認して、必要人員数の把握に努めるなどの活動を行ってきたという。
採用面では公休数を115日に拡大し、残業時間の割増賃金を増加させた。2024年以降の新卒初任給を11.7%増の24万円に引き上げ、社員全体の給与水準もあわせた。同時に、定着率の向上を見据え、新卒採用の半数以上を地方都市での生活に慣れた地方大学の出身者や地方居住者とした。
こうした施策で、2024年春には過去最多の750名の新入社員が入社。今年7月には労働力不足から脱却できるめどが立ったという。2024年度はキャリア採用を含め、1050名の新規採用を目指し、その後は年間700名程度の新卒採用を維持していく方針だ。
持続可能な観光のカギは「満足度」
また、星野氏は記者の質問に答える形で、インバウンドの急増に伴うホテルの価格高騰に対する考えを言及。価格設定の基準を需給バランスではなく、満足度にする重要性を説明した。
「需要にあわせて価格を上げ過ぎると、満足度は低下する。消費者がコスパに合わないと感じ始めると、需要が落ちる。今後は需給関係に合わせて価格を決めるイールドマネジメントではなく、満足度が低下する直前のポイントを最大値とし、キャップをかけることが重要」と警鐘を鳴らした。
星野リゾートでは従来から満足度と収益のバランスを重視しており、顧客満足度調査を通して日々モニターをし、価格の上昇に伴い満足度が下がるポイントを把握。すでに需要が強い地域の施設で、満足度を基準にした過度な価格上昇を制限をしているという。
さらに、価格の上昇を制限すると、従来以上に需要が入るようになるため「販売チャネルを限定し、自社のチャネルに絞っていくことができる」と利点を説明。「収益面での問題はなく、長期的にはサステナビリティが高まると見ている」と話した。
なお、星野リゾートでは先ごろ、公式サイトをリニューアルした。以前は宿泊施設の検索と予約に特化していたが、刷新後はニーズの多様化を踏まえ、「より楽しい旅に出合えるサイト」として、個々のニーズに沿った施設や旅のスタイルが探せるようなコンテンツを追加した。