2024年5月14日と15日の2日間にわたり開催された、旅行×テクノロジーの国際会議「WiT Japan & North Asia 2024」。今年も、OTAや宿泊施設、航空、フィンテックをはじめ、世界のオンライン旅行市場をけん引する国内外のプレイヤーが多数、登場した。
2日目には国内外の大手OTAからスタートアップまで、様々な企業やサービスが登場。Google Travel担当によるプレゼンテーションもおこなわれた。登壇者が語ったトラベル分野の現在地からトレンド変化、AI活用まで、各セッションでの注目すべきコメントをまとめた。
“1つのプラットフォームで予約完結”が主流に
グローバルOTAが参集したセッションは、アジアのオンライントラベルで起こっているトレンド変化の傾向を把握できる機会となった。まずはLighthouse(旧OTAインサイト)が、注目すべきデータを提示。それに対してグローバルOTA各社が自社の動向に言及する進行で、フライト検索における日本への航空便の好調さから、訪日旅行者の地方への需要増加が共有された。
Lighthouseによると、フライト検索は2024年に入っても、グローバル全体で20%増、アジア太平洋地域も24%増と好調に推移。なかでも日本への航空券検索はトップで、長崎や広島、福岡など、主要都市以外の検索が急増している。
Booking.com、Trip.com、アゴダの3社とも、各社のフライト予約で日本の地方都市が増加していることに同意。地方の宿泊予約の増加と同時に現れている傾向であることも強調した。アゴダでは、コロナ禍に国内需要の獲得を目指し、温泉地の宿泊施設を強化したが、「インバウンド客が中心都市から離れた地方の温泉に行くようになった」(アソシエイト・バイスプレジデント北アジア統括の大尾嘉宏人氏)という。
また、航空予約と宿泊予約が同様の傾向であることに関連し、Trip.comが「プラットフォームへの直接予約がトレンド。メタサーチにはいかない」(アジアパシフィックリージョン インターナショナルマーケット アシスタントバイスプレジデントのルー・イー氏)と話した。「すべての予約を1つのプラットフォームで完結できるようアプリの利便性を高めている」とし、予約は宿泊と交通手段などをあわせたものが増えているという。
さらに、Lighthouseは民泊を含む多様な宿泊の施設(Alternative Accommodation:代替宿泊施設)の予約がホテルと同様に伸びている中、稼働率ではホテルを上回る伸びがみられていると説明した。
Booking.comは予約可能な宿泊日数を30日から45日、そして90日へと拡大させており、「長い滞在をする需要が増えている。ライフスタイルや働き方が多様化したことでチャンスが生まれている」(北アジア地区統括ディレクター竹村章美氏)と話した。さらに竹村氏は、従来の日本では民泊についてはインバウンド利用のイメージがあったが、今は国内需要も増加していると指摘。「ホテル価格の高騰も影響しているのでは」と話した。
生成AIの活用が進化、グーグルはより体験的に
今年のWiT Japanでは2日間にわたり、生成AIに関するトピックが多かった。グローバルOTAでは活用がかなり進んでおり、「AIアシスタントがユーザーに受け入れられている」(Trip.comイー氏)。同社のAIアシスタントの場合、例えば「タイに1週間の旅行に行きたいが、6~8月ならいつがいいか。フライトオプションはあるか?」といった音声のやり取りでレコメンドを出すことが可能だという。
プレゼンテーションで登場したグーグルは昨年、トラベル分野で「かなりの改善を図った」(Googleトラベルのプロダクトマネージャー鵜飼佑氏)。すでにローカルと旅行者の双方への対応を踏まえて、「ホテル」「レストラン」などの各領域を統合しているが、さらにビジュアルで体験できるUIに変更。今年はローカルでできるタイムリーなコンテンツを盛り込み、「Googleに行けば何か新しい発見がある、新しい体験ができることを目指していく」という。
その1つ、地図のルート検索では、ローカルのアクションを経験できるルートを提案。AIを使い、この場所で行くべきところ、体験できることを見せる。地図上も、例えば花の季節なら桜のアイコンも表示し、花見ができる場所を見るけられるようにしている。
日本でのローカル対応にも注力、地方の温泉街での体験も提供している。「よいビジュアルを見せて、温泉街の検索を誘導する。地方の町に行ったことがない人にも、体験できるようにしている」(鵜飼氏)。
日本OTAは注力分野の違いが鮮明
一方、日本の大手OTA4社(楽天、一休、JTB、リクルート)が登場したセッションでは、各社の方向性の違いが見て取れた。
「自社のデータのうち、日本市場の現況を表しているデータは?」という問いに対し、一休とリクルートは予約単価が2ケタ増となっていることを説明。JTBは日本国内の旅行がツアー中心で伸びている中、インバウンドのツアーは「日本の伸びより約200%上に振れた」(Web販売事業部長の 池口篤志氏)という。
今後の注力分野について、一休は「シェアを見れば、国内でまだまだ伸ばせる。特にヤフーのカジュアル領域」(宿泊事業本部長の巻幡 隆之介氏)との考え。JTBは「ツアー領域。インバウンド向けの着地型ツアー販売で、さらに伸ばせる」(池口氏)。リクルートは「タビナカ含む旅行全体。デジタル化しきれていない部分がある」(Vice President, Travel Information Division, SaaS Business Management, Sales Division 大野雅矢氏)と話した。
一方、楽天は「日本市場の現況を表しているデータ」として、今夏の海外旅行の予約が昨年比1.9倍であることを説明。「海外旅行はトータルでは厳しい状況だが、1、2年前に国内旅行で起きたオフラインからオンラインへの移行が海外旅行で起きている」(トラベル&モビリティ事業長の髙野芳行氏)とし、「そのマーケットを当社が取れている」とアピールした。今後の注力分野は「グローバル化」と回答。「国内でのシェアが高まり、国内で上げ続けるのは無理。競合のグローバルOTAは非常に強いが、そこと戦うことを選択して、シェアを伸ばしていきたい」とグローバル展開を明言した。
なお、国内OTAも生成AIの活用に着手。「コンテンツタイトルなどを提案させ、最適化したうえで提供」(楽天)、「検索のUXに活用」(一休)、「じゃらんAIチャットを提供」(リクルート)などだ。JTBも「内部プロセスで活用が進んでおり、マーケティングやプライシングでも研究を始めた。効率化を図ることで、顧客対応の時間を増やしていくことを考えている」(JTB)という。
特定分野を土台に成長するスタートアップのOTA
「Meet The Different Models of OTAs」と題したセッションでは、特定分野を拓いたスタートアップのさらなる成長に意欲的な姿が見られた。
サブスクビジネスによる変化を示す例として「(動画視聴サービスで)1カ月に30時間も韓国ドラマを見ることは珍しくないが、レンタルビデオが主流だった20年前には考えられなかった。我々も同じことをしている」(CEO & founderの砂田憲治氏)と話し、サブスクサービスが新しい市場を創出・拡大していることを強調。「従来型OTAのモデルは1990年代の登場時から大きく変わっていない」とし、「そこにチャンスを得ていく」と話した。
訪日旅行に特化したWAmazingは、空港に“自動販売機”を設置した訪日客向け免税オンラインショッピングサービスのユーザー数が、この1年半で10倍に増加したことを説明。「今後3年間でさらに10倍にする」(代表取締役 CEOの加藤史子氏)と意欲を示した。これに向け、訪日市場が急拡大している今は大きなチャンスとし、「ユーザーの多いOTAと提携し、当社のサービスを使ってもらう」考え。国税局への申請が必要な事業で、複数の国内特許を取得している同社の強みと自信がうかがえた。