気鋭のマーケティング企業「刀」が、沖縄でアドベンチャートラベル会社を設立、その狙いと未来をトップに聞いてきた

2024年3月にお台場に「イマーシブ・フォート東京」を開業、2025年には沖縄北部に新テーマパーク「JUNGLIA (ジャングリア)」を開業予定で注目されている刀(かたな)社。2023年8月には、「沖縄アドベンチャートラベル」を立ち上げた。今年4月には、「OKINAWA ADVENTURES (オキナワ アドベンチャーズ)」のブランドのもと着地型ツアーを開始し、本格的にアドベンチャートラベル市場に参入した。

マーケティング事業を中心とする同社が、アドベンチャートラベルに特化した旅行会社を設立した狙い、目指す将来像とは?刀社CFOで沖縄アドベンチャートラベル代表取締役の立見信之氏に聞いてみた。

沖縄北部で新たな価値創造を

刀社の企業理念は「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気にする」。沖縄アドベンチャートラベルの創業も、その理念に沿ったものだ。

立見氏は「地方を元気にする一つの手段としてアドベンチャートラベルの会社を立ち上げた。地方には魅力的な自然も文化も多い。非常に付加価値の高い旅に仕上げられる」と説明する。また、アドベンチャートラベルは欧米で大きな市場を形成しているが、「いずれ日本でも大きく成長する」との期待も立ち上げた理由のひとつだ。

最初のターゲット地域に定めたのが沖縄・やんばる地域。刀社は、沖縄県と2022年に「沖縄ブランド強化に関する連携協定」を締結。さらに、沖縄北部に「JUNGLIA」を2025年に開業する予定など、「元々沖縄とは地縁があった」ことから決めた。「さまざまな課題がある地域だが、そこにさまざまな価値を見出し、特に富裕層に行ってもらうことに大きな意義がある」と話したうえで、「観光産業は本来、もっとマネタイズできる領域だと思う」と続け、観光従事者が適切な対価を得る必要性を強調する。

沖縄アドベンチャートラベルは、エンターテイメントによる新たな価値創造でそれを目指す。立見氏は「旅行会社やホテルではつくれないような体験を、我々のノウハウを活かして創造していく」と意欲を示す。テーマパークでは、限られた滞在時間の中で何が体験できるかかが鍵。OKINAWA ADVENTURESのツアーでも、数日という限られた滞在時間で他にはない体験価値を提供する。

「差別化できる体験であれば、その分対価を払ってもらえる。そういう構造を創り出すことにチャレンジしていく」考えだ。

日本でのアドベンチャートラベルの潜在性を強調する立見氏。やんばるの海と森で没入感のある旅を

今年4月には第一弾として、3泊4日の「やんばる、奇跡が生きる森へ」 ツアーを開始した。沖縄の自然信仰、集落の人々の暮らし、自然を生かすをテーマに、沖縄で古くから伝わるサバニ(舟)体験をはじめとしてやんばるの自然に入り込み、そこに生きる人々との出会いをツアーに盛り込む。

7月と8月には、夏休み企画として、親子を対象に2泊3日の「『 生きる力』をみがく親子旅 in 沖縄やんばるの海」を催行。うみんちゅとの出会いや体験を通じて多様な価値観を学ぶ機会を提供する。また、9月と10月には「サンゴの海、うみんちゅの祈り」ツアー を企画。海に関わる物語をたどり、うみんちゅの心の根幹にある海や自然への崇拝の心に触れる。

森と海、いずれのツアーも、同社が「導き手」と呼ぶガイドの存在が大きな特徴。アドベンチャートラベルのエキスパートであるスルーガイドと地域の魅力を伝える地元ガイドが参加者と自然や地域との橋渡しを担う。立見氏は「地域とつなぐ導き手の解説を聞きながら旅行をすると、地域の深いところまで見ることができる。付加価値を上げるという意味では大きな貢献ができると思う」と話す。

また、旅全体を通じた物語を伝えることで、より没入感のあるツアーにしていく。それによって、「ワクワク感が増し、知的好奇心も刺激される」との考えだ。さらに、アドベンチャートラベルの重要な要素である達成感にもこだわる。

少人数の募集という点も特徴の一つ。団体ツアーだが、「ある程度、自分でやりたいことができる人数」にすることで、現地の人と直接接触する機会も確保する。

うみんちゅ文化をサバニで(報道資料より)。

沖縄に移住しコンテンツ開拓

OKINAWA ADVENTURESの特徴にも表れる立見氏の旅に対する考え方は、英国での留学時代に生まれた。留学当時、コッツウォルズや湖水地方にあるマナーハウス(中世ヨーロッパにおける荘園で、地主である荘園領主が建設した邸宅)の案内ツアーを日本人富裕層向けに企画できないかと考えていたという。「普通の日本人旅行者が体験できないようなディープな英国文化を味わってもらいたいという思いは、時を経て、沖縄のツアーに通じていると思う」と明かす。

ディープな体験を提供するためには、地域とのディープな関係が不可欠だ。沖縄アドベンチャートラベルでは、担当者が沖縄北部に移り住んだ。ツアー造成にあたっては、地元の人たちとの人間関係の構築から始めた。

立見氏は「現地担当者が地元の人と信頼関係をしっかりと築いて、その人たちからどんどん地域の情報を入手している。信頼関係がないと、地域の人たちは自分の過去や人生について赤裸々に語ってくれることはない」と話したうえで、「もちろん採算性はしっかり管理しなければいけないが、現地の担当者には、どんどん自由にやってもらいたい」と力を込めた。

沖縄で新たな旅の付加価値創出へ(沖縄アドベンチャートラベルHPより)ビジネス拡大への課題は多言語ガイド

現地開拓に加えて、OKINAWA ADVENTURESツアーの肝となるのが地元を知り尽くした「導き手」の存在だが、質の高いガイドを揃えるのはそう簡単なことではない。ビジネスをスケールさせていくためには、ガイドのインフラを整えていく必要がある。特にインバウンド向けには多言語ガイドが求められる。

「富裕層の求めるような質問とかリクエストに瞬発力を持って答えられるスキルが必要。海外の知的な人たちにどのように日本を魅力的に見せられるか」と立見氏。今後、ツアーを拡大していくうえでは、ガイドネットワークから人材を発掘していきたい考えだ。

また、立見氏は、アドベンチャートラベルの国内需要の把握も課題として挙げる。アドベンチャー・トラベル・トレード・アソシエーション(ATTA)によると、世界のアドベンチャートラベルの市場規模は70兆円を超えると言われているが、日本ではまだ市場が未成熟で需要も未知数だ。立見氏は「ハワイや欧州ではなく、日本のアドベンチャートラベルに対してお金を払う人たちは結構多いのではないか」と期待をかける。

そのうえで、販売は、代理店経由の販売モデルではなく、「直接顧客とコミュニケーションが取れる直販が理想」と話す。収益をしっかりと確保できる販売のためには、ターゲティングにも工夫が求められる。立見氏は、一例として「小中学校向けの高度な学習塾に子供を通わせている親をはじめとして、子供に特別な体験をさせてあげたいというニーズがあるのではないか」というアイデアをあげた。

現在は着地型の募集型ツアーだが、多彩なニーズに応えるために、将来的にはテーラーメイドツアーも視野に入れているという。

スピーディーに横展開を

立見氏は、「沖縄でも、例えば、宮古島や慶良間などの離島に行くとまたいろいろな可能性が見えてくる。北海道にも、東北にも、山陰にもと面白いところはたくさんある。しかし、地方の魅力はまだ発掘しきれていない。(国内外で)いろいろな日本の売り方が、まだまだある」と強調する。

その考えから、同社では沖縄で成功事例をつくったのち、スピーディーに横展開していく方針だ。「地域を味わえるような宿に泊まってお金を落としてもらう構造をつくれると、結果的にその日本を元気にすることができる」。

マーケティングとエンターテイメントで日本を元気にするという理念を掲げる刀社。沖縄アドベンチャートラベルは、リアルな現場である旅行の領域で、それを目指す。

聞き手 トラベルボイス編集部 山岡薫

記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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