ホテルのチェックイン時間は、一般的に、午後3時となっているケースが多い。そのため、フライトなどの到着時間が朝早い旅客にとって、アーリーチェックインが可能かどうかは、かなり大きな問題だ。
一方、ホテル側にとってアーリーチェックインの受け入れは、客室清掃やホテル内オペレーション管理システムに関わることであり、一部の宿泊客から高いニーズがあることは認識しつつも、対応には消極的だった。だが、顧客それぞれに応じたパーソナライズがますます重要になるなか、テクノロジーを活用して、この問題を解決するホテル業務支援サービスが相次ぎ登場している。
例えば、プラスグレード(Plusgrade)社では、顧客ホテルがアーリーチェックインとレイトチェックアウトを収益化できる「StayExtend」機能を開発、提供している。クラウドベースの宿泊施設管理システムを手がけるMews(ミュウズ)では、アーリーチェックインを有料サービスとして提供する新ソフトウェアの試験運用をスタートした。
アーリーチェックインのテスト導入
英国の不動産運営会社クライテリオン・ホスピタリティー傘下のホテル、ゼドウェル・ピカデリーサーカスは、2023年末からミュウズの試験プログラムに参加しているホテルの一つだ。同ホテルでは、以前からアーリーチェックインを有料サービス化して販売していたが、システムが煩雑で、フロントデスクが混雑するのが悩みだった。同ホテルのロビーには、アップルストアのごとく、セルフチェックイン用のキオスク端末が整然と並んでいるが、それでも順番待ちの渋滞が起きていた。
しかし、ミュウズが開発したハウスキーピング・アプリをホテルの既存テクノロジーと統合してからは、客室の準備さえ整っていれば、早い時間に到着した利用客に、キオスク経由でアーリーチェックイン対応ができるようになった。ゼドウェルの宿泊料金は一泊約150ポンド(約3万円)。これに対し、アーリーチェックイン料金は朝9時から昼までが60ポンド(約1万2000円)、以降3時までは40ポンド(約8000円)としている。
クライテリオン・ホスピタリティーのホテル事業責任者、ハリマ・アジズ氏によると、予約段階からアーリーチェックインを希望している人の多くは、ホテル到着が朝9時でも客室に直行できると分かり、大喜びするという。
「本当にクールなコンセプトだ」と同氏は話す。「ただし、多少の追加料金もお願いすることになる。ハウスキーピングの時間や労力が増えるからだ」。
また、すべての宿泊客に対し、アーリーチェックインを保証することも不可能だ。しかしゼドウェルでは、必要な客室数や、準備が整うのは何時ぐらいかを、ある程度、予測するのに十分なデータを保有しており、これを活用している。また、料金を設定したことで、本当にアーリーチェックインが必要なゲストだけが、サービスを申し込む効果もあった。アジズ氏の推計によると、プログラム導入以降の半年間にアーリーチェックインを申し込んだ人は、ゲスト全体の5%ほどだ。
同氏は「画期的だ」と評価している。「宿泊ビジネスについて、今までとは少し違う見方をするようになり、『アーリーチェックインでホテルの売上が増えたり、ビジネスが活気づくなんて』と話している。宿泊料金も、少し下げられるかもしれない。アーリーチェックイン対策にかかっていたコストを、受益者である宿泊客が負担する形にできるからだ」。
ロイヤルティ会員の特典は継続
プラスグレードの上級副社長兼アンシラリー売上責任者、ポール・ランティラ氏は、旅行ビジネスの今後について、パーソナライズできることへの期待がさらに拡大し、ホテルのチェックイン、チェックアウト時間についても、柔軟に対応できる客室数を増やさざるを得なくなると予測している。
「ゲストそれぞれが自分に合った滞在を組める柔軟性が求められている」とランティラ氏は話す。「ホテルがやるべきことは、データを収集し、需要を把握し、オペレーションを工夫することだ。それが未来のニーズにつながる。今やどこの企業でも、『よし、顧客のリクエストに応え、需要を確実につかめるようにしよう』と考えている」。
大手ホテルチェーンにとっては、大きな変化になるだろう。これまでアーリーチェックインは会員顧客向けリワードプログラム特典の一つとしたり、細かい運用ポリシーを各フランチャイズ先ホテルに任せていた。
例えば、IHGワン・リワードの上位ステータス会員は、利用可能な客室がある場合、アーリーチェックインができる。ハイアットでも、上位ステータス会員には、客室への優先チェックイン・サービスを提供している。マリオット・ボンヴォイの場合、最上位会員には「24時間ルール」が適用され、チェックイン・アウト時間を自由に選ぶことができる。例えば、夜9時にチェックインしたゲストは、出発日の夜9時まで客室を使うことができる。
アーリーチェックインの有料サービス化を推進するミュウズだが、同社CEOのマット・ヴェラ氏は、ロイヤルティ・プログラムの特典とすることにも賛成している。ただ、会員ではないゲストのことも考慮し、必要な人には有償サービスとして提供してはどうかという。早い時間から客室を準備したり、ハウスキーピングとフロントデスクの状況共有を可能にするコミュニケーション整備にかかるコストをカバーできる。
「財務担当トップやオーナーが喜ぶ収益源になると証明できれば、あっという間に、解決すべき課題として扱われるようになる」とヴェラ氏は話す。ミュウズでは、顧客ホテル向けにレイトチェックアウトのオプションも近く追加する予定だ。「うちのホテルの方が隣の物件より宿泊客一人当たりの平均収益が高いことが分かると、急に関心が高くなる」。
とはいえ、ホテルにとって最大のメリットは、決算書の純利益よりも、顧客満足度が高くなることだと同氏は指摘する。本当にアーリーチェックインを必要としているゲストのために、客室を準備できるからだ。
ホテルがアーリーチェックイン対応に本腰を入れない限り、「結局、最も困るのは宿泊客だ。客室の準備が整うまで、ひたすら待つしかないのだから」。
これでは、ホスピタリティ業界が喧伝するサービスとは、かけ離れたものになってしまうと同氏は言う。「宿泊体験は客室に入るところから始まるものだ。本当に滞在を楽しんでもらいたいなら、できるだけ多くのゲストが、希望通りの時間にチェックインできるようにと考えるはずだ」。
※ポンド円換算は1ポンド=200円でトラベルボイス編集部が算出
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:PUSHING TO MAKE EARLY CHECK-INS MORE THAN JUST A FREE PERK
著者:D.J.Catron氏