長崎県島原市は、地元体験を提供するホストと旅行者をマッチングさせるシェアリングエコノミー・プラットフォーム「TABICA(たびか)」と、持続可能な観光資源開発を共同で進めていくことで提携した。島原市は、昨年、シェアリングエコノミーで地域活性化を目指す「シェアリングシティ宣言都市」となっている。島原市が目指す観光による地域創生とは? その取り組みを取材した。
今回の取り組みでは、まず、島原市の4つの観光素材を組み合わせた1泊2日のツアーをTABICA特設ページで提供する。
TABICAは2016年11月に島原観光ビューローとコーディネーター契約を締結。以降、島原市に着地型観光の体験づくりのノウハウの提供などで協力関係を強めてきた。今回結ばれた提携は、その関係をさらに強化するもので、TABICAの視点で新たな体験ツアーを造成した。
コンテンツは、甲冑を着て島原の街歩き、湧水の里で流しそうめん、飲み屋のハシゴ、地元漁師と海釣りと漁師飯の4つ。
TABICAは地方自治体との連携を進めており、島原市は2017年2月の佐賀県多久市に続き2都市目の提携だ。今後、30都市以上と協力し、さまざまな着地型観光体験を造成していく方針だという。
島原市長、シェアリングで地元の若者に夢を
島原市とTABCIAの協定調印式のあとには、「シェアリングエコノミーの可能性―島原の未来を考える」と題したトークイベントも開催された。
そのなかで、島原市長の古川隆三郎氏は、少子高齢化、若い世代の流出、空き家の増加など市が抱える問題を挙げながら、「持続可能な町づくりのために、シェアリングエコノミーをツールとして若者が新しい産業を起こすことに期待している」と発言。まずは地域でシェアリングエコノミーに対する理解度を深めていくと同時に、「地元にはいい素材があることに気づくことが大事。そうなれば、若い世代が将来の夢を描けるのではないか」と期待を寄せた。
TABICAを運営するガイアックス社長の上田祐司氏は、体験型観光について、京都の鰻屋の例を紹介し、「ただ鰻を食べるだけでなく、自ら蒲焼きにする体験を入れたら、鰻重の倍の値段でも人が集まる。島原でも、おもしろいものを造れば、九州域内だけでなく東京からも人は集まる」と強調。同じ1泊2日の旅行でもテーマパークよりも町の方が魅力は多いとしたうえで、「地元のおもしろさを発信していくことが大切」と付け加えた。
島原観光ビューロー観光開発部長の寺尾講平氏は、集客のプラットフォームとしてTABICAに期待を示す一方で、地元の課題も指摘。「地元の人たちはトラブルを気にしている。また、自分たちがやっていることにどれほどの価値があるのかが分かっていない」と話し、着地型体験の重要性とシェアリングエコノミーの可能性を世代間で共有する必要を説いた。
島原城を含め全国のユニークなレンタルスペースを扱うマーケットプレイス「スペースマーケット」代表取締役の重松大輔氏は、寺尾氏の指摘に応える形で、「新しいことをするときにリスクは伴う。しかし、リスクと見えるところは実はそうではなく、そこにビジネスチャンスがあることも多い」と発言。一歩踏み出してみることが大切とした。
テレビ東京「未来世紀ジパング」でレギュラーコメンテーターを務めるITジャーナリストの佐々木俊尚氏は、シェアリングエコノミーの可能性について発言。21世紀に入り村、会社、商店街など既存の共同体が壊れてきているとしたうえで、「地元だけでなく観光客や外国人も含めた新しい開かれた共同体を造る必要がある。そのためには、継続的な関係性をつくれるオンラインを活用すべき」との考えを披露した。
また、「東京の20代の若者の40%が地方移住に関心があり、訪日外国人旅行者の多くが観光地らしくないところに行きたがっている」と説明し、観光による地方創生の可能性に期待感を示した。
スペースマーケットとの連携でコスプレ撮影イベント、島原市にコスプレイヤー集結
島原市とTABCIAの協定調印式の翌日には、島原市、島原観光ビューロー、スペースマーケットとの連携で、コスプレ撮影イベント「島原コスプレの乱」が開催された。島原市とスペースマーケットは2016年に9月に地方創生に向けた連携協定を締結。今回のイベントもこの協定に基づくもので、スペースマーケットにユニークスペースとして掲載されている島原城、昭和初期に建てられた古民家「しまばら湧水館」、国登録有形文化財にも指定されている明治後期の邸宅「四明荘」をはじめ、島原市の観光スポットのひとつ武家屋敷も撮影ポイントとして開放された。
参加者は長崎県内や九州各県のほか広島や東京からも。コスプレイヤーたちは思い思いのスタイルで撮影を楽しんだ。また、観光客や地元の人たちとも記念撮影を行うなど交流イベントとしても盛り上がりを見せた。コスプレイヤーの間ではユニークな場所や施設での撮影が人気を集めているため、既存の観光資源を活用した集客、撮影による町の露出などが期待できることから、島原市の取り組みは他の自治体でも参考になりそうだ。