ANAホールディングスは、宇宙航空研究開発機構(JAXA) と共同で、アバター技術を活用して宇宙事業の開発を目指す「AVATAR X Program」を開始する。アバターとは、ロボティックス、VR、AR、センサー、通信、ハプティックス(触覚)技術などさまざまなエクスポネンシャル・テクノロジーを組み合わせ、仮想空間上で遠隔操作などを行う「瞬間移動」技術。ANAでは今年3月に、未来の社会を変えるサービスとして、医療、災害救助、観光、教育などの分野での活用を想定した「ANA AVATAR VISION」を策定している。
一方、JAXAは今年5月に、ベンチャー企業などの民間と協働し宇宙開発を創出していく「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を立ち上げた。ANAとの協業はその一貫として位置づけられる。
発表記者会見で、ANAホールディングス社長の片野坂真哉氏は、「瞬間移動技術のアバターは、いろいろな分野で期待されている。そのひとつが宇宙。今回、世界を変えたいと考えている企業が多く集まった。その強力なパートナーがJAXA」と挨拶。今年3月に発表したANA AVATAR VISIONは想像以上の反響があったことを明かしたうえで、「宇宙分野でも『ビックリープ(大きな飛躍)』になる」と自信を示した。
JAXA理事長の山川宏氏は、宇宙開発とアバターは親和性が極めて高いとしたうえで、「将来的には月面でのインフラ整備も可能になる」と期待を示した。JAXAは、宇宙関連事業に対する知見や人材を提供することで、技術検討での関わりを強化していく考えだ。
また、記者会見には宇宙飛行士の山崎直子氏も登壇。アバターは人間の視聴覚すべてを含む統合機能の拡張と説明したうえで、「国際宇宙ステーション(ISS)での活動ではクルータイム(人の作業時間)に大きな制限がある。アバターが雑務を担うことで、クルーは実験などの専門的な活動に集中できる。また、月面探査では、人類が行く前にアバターが作業環境を整えてくれる」と未来への期待感を表した。
4段階で事業化、大分県に実証ラボも建設
AVATAR Xでは、宇宙空間における建設、国際宇宙ステーションや宇宙ホテルなどの保守・運用、宇宙空間におけるエンターテイメントの3分野で事業化を目指し、4つのステップに分けて取り組みを進めていく。
まずステップ1として、「AVATAR Xコンソーシアム」を速やかに発足させる。すでに建設会社、通信会社、旅行会社など28社3団体が参加を表明。このほかに、ANAは革新的な技術や知見を持つスタートアップ企業などの募集を開始したところだ。ANAは現在、XPRIZE財団が主催する国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」をスタートさせているが、今回発表されたAVATAR Xは別プロジェクトとして進めていく。さらに、クラウドファンディング「Wonder Fly」で一般からのサポーターも募っていく。
その後、ステップ2として、2019年4月にはコンソーシアムから企画会社へと発展させ、「探す・みつける」「楽しむ・学ぶ」「建てる」「暮らす」「医・食・住」の人類が宇宙空間で生活していくうえで欠かせない5つの軸で事業性の検証を行う。地球上から遠隔で宇宙ステーションの船外活動、月面探査などを行う専門的な活動だけでなく、宇宙飛行士と家族とのコミュニケーション、宇宙飛行士のヘルスチェックなどのサポート、宇宙旅行や宇宙遊泳などを疑似体験するエンターテイメントの技術開発も進めていく考え。ANAデジタル・デザイン・ラボ・アバター・プログラム・ディレクターの深掘昴氏は、「『宇宙兄弟』のマンガの世界が実現できれば」と意欲を示した。
一連の事業性の検証や最先端技術の実証実験を行うために大分県に「AVATAR X Lab@OITA」を建設する。設計を担当するのは世界的な建築家の曽野正之・祐子氏。来年4月に建設を開始する予定だ。
ステップ3では、2020年代はじめの開始を目指し、宇宙空間(地球低軌道)での技術の実証実験と事業性を検証した後、各事業を立ち上げ、ステップ4として最終的に月面や火星での事業展開を想定している。