日本旅行業協会(JATA)は、「JATAオンライン・トラベルマート2020フォーラム」を開催し、「ニューノーマルにおける旅行業の再始動」をテーマに日本旅行社長の堀坂明弘氏、KNT-HDホールディングス社長の米田昭正氏、JTB社長の山北栄二郎氏によるパネルディスカッションを実施した。
JATAは、2020年8月31日、9月1日、9月2日に日本のバイヤーと海外のセラーとのオンライン商談会を開催(8月5日と6日にも開催)。10月29日から11月1日にかけては沖縄で「ツーリズムEXPOジャパン2020」、2021年1月7日から9日にかけては東京で商談会「トラベルフェスタ」を予定しており、今回のフォーラムは海外旅行再開に向けた一連のイベントのキックオフと位置づけるもの。
新型コロナウイルスは旅行業界に大きな影を落としており、大手3社もその例外ではない。厳しい舵取りが求められるなか、3氏はこのパンデミックがもたらした変化や今後の旅行のあり方について展望を語った。
量から質の旅行へ、分散化とデジタルも大きなテーマ
堀坂氏は、スペイン風邪など過去の感染症を例に挙げ、その収束後にはいろいろな変化が起こったと指摘。今回のパンデミックでは、「量の旅行から質の旅行に変換するいい機会になる」と述べた。そのうえで、海外旅行の再開を求めている人は世界中に多く、潜在的需要は引き続き高いことから、現在は各国とも国内旅行が中心だが、「旅行のグローバリゼーションは変わらない」との見解を示した。
さらに、「今回のパンデミックを機に、国際交流はさらに重要になってくる」と強調。教育旅行を含めた国際交流ビジネスを強化していく考えも示した。
米田氏は、ウィズコロナで変わりつつある働き方について言及し、「日本のライフスタイルも変わり、ワーケーションなどの新しい需要が生まれてくる」と展望。休暇のあり方、家族との過ごし方なども変化するとして、これまでの周遊型の旅行ではなく、「宿泊施設を拠点として、長期滞在するハブ&スポーク型の旅行が好まれるのではないか」との見方を示し、今後は平日と週末やシーズンの需要分散化を進めていく必要性を強調した。
山北氏は、今後の取り組むべきことして「デジタル化」と「パーソナライゼーション」を挙げた。デジタル化については、コロナ禍以前から進めてきたことで、これを機にさらに加速させる考え。その例として、JTBが実施するオンラインMICEを挙げ、「リアルとデジタルとのハイブリットで顧客、そしてパートナーとのエンゲージメントを強めてく」方向性を示した。また、パーソナライゼーションでは、3密回避の傾向から、さらに加速させる必要があると指摘。「これまで旅行会社はスケールをベースとしてビジネスを展開してきたが、今後は分散化するニーズをどのようにマネージメントするかが重要になってくる」との考えを示した。
加速するオンライン流通、店舗の役割の見直しを
コロナ禍では、旅行に限らずオンライン流通がさらに進んでいる。旅行会社では店舗を閉める動きも世界で出てきている。堀坂氏は「パッケージを売るのが難しくなっているのは確かだが、すべてがオンラインやバーチャルになることはない。今は店舗の価値を見直すいい機会だろう」とした。そのなかで、大量顧客の獲得から、少量顧客を多数獲得するビジネスモデルに変換し、テーマ性や専門性を持ったコンテンツを追求していく考えを示した。
山北氏は、新しいダイナミックパッケージサービスの構築に言及。JTBがヨーロッパで展開しているシートインコーチ型の周遊観光バス「ランドクルーズ」を例に挙げ、これまでのエアとホテルの組み合わせに、体験など現地サービスも加えるアイデアを披露した。「デジタル化で、行きたいときに自由に行けることが可能になる」とし、パッケージとしての基本的な補償を変わらずに付けることで、付加価値を持つ新しい商品になるとの考えを示した。また、JTBのデジタル活用として、これまで店舗で行っていた情報提供や現地体験予約をモバイルで展開していく方針も示した。
山北氏は、働き方やライフスタイルが新しい様式に変化している中で、「自分たちも変わらなければならない」と強調。さらに、将来に向けた持続可能な観光のためには、需要の分散化とともに、デスティネーションの分散化にも取り組んでいく必要性を訴えた。
米田氏は、新しい生活様式での商品について、クラブツーリズム(CT)での取り組みを紹介。主力のバスツアーでは人数を減らして、窓際席だけで催行。日帰りや1泊のマイクロツーリズムで、CTでもハブ&スポーク型の商品を増やし、「リラックスできる時間を増やしている」と説明した。そのうえで、CTはシニア層が多いため安全性も重視。「品質保証マークをつけるなど工夫している」と紹介。海外のサプライヤーに対しても、「日本の旅行会社は、公衆衛生対策の情報を求めている」と話し、将来の日本人観光客復活に向けて、現地の医療体制も含め、安心安全に対する情報提供を求めた。