旅行比較サービスのスカイスキャナーは、ビッグデータを駆使しながら旅行者に最新情報を提供するとともに、ビジネスパートナーとの関係を強化している。コロナ禍で事実上、世界の海外旅行が停止し、同社ビジネスにも大きな影響が出る中、「長期戦になると思うが、旅行者も徐々に海外旅行に対して自信を取り戻しつつある」との現状認識を示す前CEOで現在は副会長を務めるモシェ・ラフィア氏(※)に、現在の取り組みを聞いてみた。
(※)同社では、2021年1月中旬にCEOが交代。前CEOラフィア氏に代わり、マイクロソフトなどで要職を務めたジョン・マンゲラース氏が新たにCEOに就任した。ラフィア氏は、同氏が設立したトラベルフュージョンのCEOを兼務していたが、今後はトラベルフュージョンに軸足を移すとともに、スカイスキャナーには副会長として取締役に残ることになる。インタビューはラフィア氏がCEO在任中の1月初旬に行った。
膨大なデータをもとにパートナー向けにインサイト分析
パンデミックによって世界の旅行市場が停滞する中、ラフィア氏は「まず、キャッシュの確保と経費の削減に注力した。機動性を高めて、もっと筋肉質な組織にするためにコアなビジネスに集中した」と話す。そのなかで、強化しているのが、同社ビジネスのカギとなるデータによるインサイト分析。航空会社、空港、OTA、DMOなど約1200のビジネスパートナーに「新しいトレンドを知る機会」(ラフィア氏)を提供している。
同社は昨年9月、「トラベル・インサイト・ビジョン(Travel Insight Vision)」というツールを立ち上げた。月間1億人のユニークユーザーからの膨大な検索や旅行意向データをもとに、将来の旅行者の行動を分析し、パートナーに対して将来のビジネス開発の「洞察」を提供するもの。たとえば、航空会社では路線計画、空港ではネットワーク開拓、DMOではマーケティング戦略を支援する。
ラフィア氏は「どのデスティネーション、どの路線が検索されているか。デスティネーションによってどのような予約タイプが多いか。こうしたタイムリーな情報はパートナーが将来の計画を立てる上で重要になる。たとえば、航空会社は、そのデータによって座席供給量の判断材料になり、レベニューマネージメントにも役立つ」と説明する。将来の回復に向けて先手を打つためには、データに基づいた分析は不可欠。トラベル・インサイト・ビジョンでは、最大12ヶ月先の市場動向予測を提示する。
トラベル・インサイト・ビジョンの特徴は、その分かりやすさにもある。データ分析を視覚化し、グラフや表で直感的かつ俯瞰的に状況の変化を表示。各インサイトはモジュール化され、それぞれAPI接続で提供される。
スカイスキャナーは今年、トラベル・インサイト・ビジョンの新しいソリューションとして「アンサーブド・ルーツ(Unserved Routes)」モジュールを立ち上げた。フライトスケジュールと旅行者の需要動向データを組み合わせ、直行便のない路線のインサイトを示しすもの。乗り継ぎ路線の検索結果、需要、料金、コンバーションレートなどを分析する。
ラフィア氏は「航空会社に、自社路線の過去のデータだけでなく、自社が飛んでいない路線の需要を示すことで、ポストコロナの路線計画の立案に役立ててもらう」と話し、このモジュールの利点を強調した。
ユーザー向けにコロナ対応サービスも拡充
「旅行者ファースト(Traveler First)」を掲げるスカイスキャナーは、コロナ禍でユーザー向けのサービスも拡充した。フライト検索では、各航空会社の感染対策を表示しているほか、コロナ対応として、キャンセル・変更を無料にし、あるいは無料の条件を緩和するなど、通常よりも柔軟なポリシーに変更している航空会社を検索時にフィルタリングできる機能も備えた。
また、ラフィア氏は同社独自サービスとして「新型コロナウイルス旅行保険」を挙げた。昨年末からオンライン保険会社Cover Geniusと共同で、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペインで提供を開始。今後、最大50カ国で提供していく計画だという。
このほか、「サステナビリティ(持続可能性)はスカイスキャナーにとって非常な大きなカルチャー」として、環境問題にも積極的に取り組む姿勢を示す。2019年にはブランドをリニューアルし、新しく打ち出したロゴのモチーフのひとつとして、サステナビリティを表現した。また、英国サセックス公爵(ヘンリー王子)と世界的なOTAとともにグローバル・パートナーシップ「Travalyst(トラバリスト)」を設立。カーボン・オフセットの活動にも積極的に関わっている。
そうした取り組みに合わせて、社会的ニーズに合わせて、環境に配慮したフライトを選択できる「グリーンナー・チョイス(Greener Choice)」を立ち上げた。2019年にこの項目を選択した旅行者は実に1000万人。ラフィア氏は「アフターコロナでは、旅行者のサステナビリティへの意識はさらに高まるだろう」と見通すとともに、「サステナビリティという観点では、コロナ以前は、特定地域でのオーバーツーリズムも問題になっていた。今後は、メジャーな観光都市だけでなく、第2の都市への旅行の提案もしていきたい」との意欲も示した。
コロナ後、そしてその先のメタサーチを見据えて
世界の海外旅行市場の先行きは依然として不透明だ。再開に向けて、まずカギとなるのがワクチン接種の進捗。ラフィア氏によると、今年、イギリスでワクチン接種が始まってから、スカイスキャナーでの検索数も増加したという。また、ワクチン接種が世界中に行き渡るまでには時間がかかることから、検査体制の拡充も重要と指摘。「各国の政府、保険当局、空港、航空会社などが共同で取り組むことが大切になると思う」と話す。
国際的な人的交流の再開に向けては、「トラベルコリドー(相互国合意の域内旅行)」が最初の一歩になると見ている。緊急事態宣言を受けて、日本のビジネストラック/レジデンストラックは一時停止されているが、シンガポール/日本間のビジネストラック開始の報道がされた週は、シンガポールから日本行きの航空券の検索数が前週比7.7倍にのぼったという。
近年、グーグルがホテルやフライトの検索予約などバーティカリゼーション(特定の業種や顧客をターゲットにしたマーケティング)を加速させるなど、メタサーチを取り巻くビジネス環境は変化している。そのなかで、スカイスキャナーも進化。ANAやシンガポール航空とのNDC連携もそのひとつだ。公式サイトに移動することなく、スカイスキャナー上でダイレクトブッキング(直予約)を可能にすることで、メタサーチの新たな可能性を広げている。
ラフィア氏は「我々は、包括的なサービスを提供している。ブランド力もロイヤルティも高い。スカイスキャナーのトラフィックの70%がオーガニックだ」と強調し、メタサーチの未来に自信を示した。
トラベルジャーナリスト 山田友樹