私たちは今、ビジネストラベルの未来を左右する重要な岐路に立っている。
パンデミックによって働き方や注意義務の在り方は変容し、その結果、業務渡航を取り巻く様相は、2020年初めと今では激変している。
業務渡航の再開が、経済回復に必須であることは疑いの余地がない。また、私は2021年下半期には旅行ブームが来ると予測している――。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文コラムを、日本語翻訳・編集したものです。著者アヴィ・メイヤ氏は、業務渡航プラットフォーム「トラベルパーク」共同創業者兼CEO。
ワクチン接種済みの人が増え、これを証明する健康パスポートの仕組みをどう整備し、海外旅行の再開に備えるかという議論が進む昨今の状況下、私の予測は単なる希望的観測ではなく、現実味を帯びてきた。
ただし、サステナブル(持続可能)な業務渡航を目指そうという2020年の勢いが、2021年になって失速することがないよう万全を期したい。
パンデミック勃発以前から、サステナビリティは注目のトピックだった。旅行産業に従事する各社の間でも、業務渡航に起因する環境への負荷をなんとかしよう、もっとできることがあるはずだという意識は高まっていた。
多くの企業が自社の出張規定やガイドラインを見直し、再び海外渡航が活発化する2021年後半に向けて準備を始めている。つまり、新型コロナウイルスは契機をもたらした。法人顧客に対し、これからはサステナビリティの視点が、指針の中心に必要なのだと奨励することも、我々の果たすべき役割となる。
ビジネストラベルはなくならない
旅行者数が激減しても、サステナブルな旅行を重視しなくてもよくなったという理由にはならない。
ポスト・パンデミック期にも、Zoomや電話でのやり取りはしばらく続くだろう。
しかし昨年の経験から明らかになったこともある。こうしたリモートでのやり取りが機能するのは、実際に顔を合わせて相手と接してきたことで、信頼や人間関係、お互いへの理解がすでにあるからだ。
今までなかったビジネス渡航需要が、新たに出現する可能性も高い。例えば、リモートワークの普及に伴い、分散型のオフィスや拠点配置への移行が進むと、社内業務のための出張ニーズが増えていくだろう。
こうした出張需要は頻度こそ多くはないものの、滞在期間は長く、旅行産業にとっては新しい商機にもなる。
さらに、業務渡航が国や地域へもたらす経済効果も明白だ。
パンデミックを機に、ハーバード大学では、業務渡航がストップすると何が起きるかを調査した。同結果から、ビジネストラベルが様々なノウハウを拡散する効果をもたらしており、これが国内経済の発展や、各地の経済成長に大きく影響していることが明らかになった。
Zoom疲れやネットワーキングでのFOMO(Fear of Missing Out:周りから取り残されることへの不安)などの問題も懸念されている。つまり、業務渡航には引き続き、大きな存在意義があることが分かるだろう。
2021年のマーケット回復を確信いただけただろうか。そこで気になるのは、では今後、ビジネストラベルがどのような形になっていくのかだ。
最重要課題は環境問題
国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成年度まで、残り時間があと10年に入った今、人間が環境におよぼす負荷の軽減は、大至急、取り組むべき最重要課題となっている。
パリ協定により、欧州各国は2030年までに排出ガス量を55%削減しなければならない。そこで出張によって生じる排出ガス、特に二酸化炭素を多く出す航空機での移動をどうするべきか、厳しい視線が注がれている。
こうしたなか、企業や社員たちに、この問題を認識してもらうことは、かつてないほど重要になっている。もちろんサステナビリティは、排ガス量だけが問題なのではなく、人々の精神的な安定や健康維持も重要で、まさにSDGの3番目の目標(すべての人に健康と福祉を)はこの問題を取り上げている。パンデミックを経て、メンタル安定を重視し、企業文化にも反映させることは、今まで以上に重要になっている。
私が経営する会社では、社内コミュニティの中でこの問題に取り組んでおり、従業員の給与制度に金銭面でのサポートを加えたり、リモートでのチーム活動を強力に支える企業文化作りに力を入れている。
また上席取締役から新入社員まで、全ての社員が健全なワークライフバランスを維持することを奨励し、過労に陥るリスク回避に取り組んでいる。
スマートなやり方で実現しよう
業務渡航がもたらす環境への負荷を軽減したり、排出ガス分を削減する、あるいは排出分をオフセットするためのスマートかつ実践的な取り組みに、自分も参加したいと思ったら、まずどこから手を付けるべきか?
簡単なアドバイスをいくつかお勧めしたい。
最初に、自分が所属する部署やチームからの賛同を得ることだ。雇用者の74%は、自分が所属するチームが目指すべき排出ガスの削減量について何も知らないのが実態だ。
そこで企業各社には、従業員にも方針決定の段階から参画してもらい、ボトムアップ方式で、行動様式を見直すところから始めてはどうだろう。
サステナブルな出張規定の策定からスタートするのがよいだろう。ビジネスにも、サステナブルかつグリーンなやり方を取り入れ、排出ガス削減に最も真剣に取り組んだ出張者を高く評価し、表彰するインセンティブ・プログラムを導入するべきだ。
出張関連業務を手掛ける旅行各社ができることは、他にもたくさんある。利用できるサービスの選択肢をもっと広げて、効率的な運航を実現している航空会社や座席クラスの見直しすることで、排ガス量を劇的に減らすことができる。
その際、重要になるのが透明性だ。多くの企業経営トップは、環境対応を基準にサービスを選ぶことに異存はないものの、現段階では、むしろサービスを提供する側が、こうした情報を十分、開示しているとは言えない。
別の方法もある。最近、増えているのが、短距離の移動で飛行機ではなく鉄道を選ぶことだ。この場合も、サービス提供者と利用者の双方が、それぞれの役割を果たすことが重要になる。
当社では、排出ガス分をオフセット(相殺)するプログラム「グリーンパーク」を提供している。これは業務渡航により生じた二酸化炭素と同じ量を、別の環境対策を行うことでオフセットするもので、出張一回ごとに、自動的に対応できる。出張者本人やその雇用主である企業が、スマートな方法で、よりサステナブルな選択をするのに便利な方法だ。
今回のパンデミックは、今までに積み上げてきた出張規定の棚卸を行い、サステナビリティを最優先した内容へと見直すのに絶好の機会となった。2021年、業務渡航が再び本格的に動き出す前に、万全の体制を整えたいものだ。
持続可能な旅行の時代にふさわしい出張規約を作り、問題意識を高め、社員からの支持も広がっていく。こうした流れが、サステナブルな選択肢の充実や、環境への負荷を考慮した旅行の実現へとつながっていく。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Sustainability must be a priority for business travel in 2021
著者: アヴィ・メイヤ氏(業務渡航プラットフォーム「トラベルパーク」共同創業者兼CEO)