新型コロナウイルスの影響で世界各国で移動が制限されるなか、政府観光局やDMOはインバウンドを主軸とした誘客活動の方向転換を迫られている。海外の主要国は当面は国内客に注力するなどフェーズを分けてマーケティング活動を実施する一方、インバウンド(海外からの旅行者)に対してはコロナの影響が緩和された際、競合地域との熾烈な争いが起こることを想定して動いている。
現在、そしてアフターコロナを見すえ、世界各国の観光局、DMOはどのような戦略を立てているのか。トラベルボイスは独自の調査レポート「海外観光局・DMOのマーケティング事例~現在の取り組み、およびコロナ後に向けた計画~」を発表。その概要をまとめた。
デジタル駆使で「訪れたいデスティネーション」に
アメリカの観光プロモーション組織であるBrand USAは、コロナの状況が好転した際のリカバリーマーケティングのために、「旅行流通ネットワークの維持」、「継続的なアメリカの想起」、「業界の来るべき時に向けた準備に対する支援」といった7つのプライオリティを定めた準備活動を実施している。
具体的な活動の一例としては、コロナ禍でオンラインによるBtoB商談会を展開。消費者向けにはスマートTV上に番組チャンネルを開設し、コンテンツを提供している。デジタルプラットフォームを駆使し、消費者にとって「訪れたいデスティネーション」として上位に位置付けられるよう準備を進めているわけだ。
国内向けの誘客に大きく舵を切ったのはイギリスの英国政府観光局である。従来、国内市場に対する支援は商品開発中心だったが、コロナの長期化でインバウンドの回復が遅れることから、国内向けマーケティングに予算を振り分け。2020年9月から500万ポンドを投じ、ロックダウン中に楽しめるバーチャルアトラクション、ロックダウン明けの国内ショーとトリップを想起させるキャンペーン「ESCAPE THE EVERY DAY」を実施している。
多くの国・地域が継続的なマインドシェア重視
オーストラリア観光局は、観光復興について5カ年の計画「Strategic Pillars 2020-2024」を策定している。レジャー、ビジネスイベント、短期旅行のオーストラリア人、対象市場など細かくターゲットを設定しているのが特徴だ。具体的には、関係維持のためのキャンペーン、流通の拡充などを掲げている。インバウンドについては、不安、移動制限下、楽観的状況の拡がり、制限なき移動の順に段階的なアプローチを仕掛ける計画だ。
日本にとって、強力なライバルであるアジアはどうか。香港政府観光局は、パンデミック後に想定されるインバウンド需要獲得の競争に備え、「観光業の支援と香港の継続的な国際的露出」、「速やかに香港への観光客を戻す」、「高収益セグメントの獲得」という3つのステージに分けたマーケティング活動を予定している。
なかでも注目すべき点が、旅行業に対する支援だけでなく、香港域内における市民などの観光業に対する機運を醸成するために、国際観光再開前から香港に国際的な露出を継続していることだろう。このほか、シンガポールもマインドシェア維持のため、バーチャル体験施策などを展開している。
今夏に東京オリンピック・パラリンピックを控える日本は、映像を通じて国内外に日本の魅力が拡散されることが予想され、他国・地域以上にアドバンテージが高い。世界の政府観光局のコロナ禍でのマーケティング活動を概観することで、今後の戦略に向けて学べることは少なくないはずだ。
このほか、世界各国の戦略をまとめたレポートは以下からダウンロードできる。付録には、国内DMOの取り組みもまとめている。