今年、帝国ホテルが新たに始めた定額制サービスアパートメント事業が大きな反響を呼んでいる。2021年3月15日から7月15日までの期間で、99室を販売。第2弾として、7月17日から2022年3月31日までの予約も始めた。コロナ禍での新たな収益源として始めた定額制プラン。その背景と狙いはどこにあるのか。日本ホスピタリティ・アセットマネージャー協会(HAMA Japan)が開催したウェビナーで、同社企画部次長の小池崇裕氏が、その舞台裏を明かした。
帝国ホテルもコロナ禍で大きな打撃を受けている。2020年1月以降、宿泊客の半分を占めていたインバウンドが消滅。国内市場でもビジネス需要を中心に大きく落ち込んだ。
苦境のなか、2020年5月に運営再開準備委員会を立ち上げ、全従業員からコロナ禍で取り組むべき施策についてアイデアを募集した。1200人以上から5473件のアイデアを集め、それを489件に集約。安全安心の取り組み、新しい業態の店舗オープンなどともに、遊休資産の価値転換を図るサービスアパートメントの事業化も進めることになる。
そもそも帝国ホテルでは、欧米のホテルチェーンと同様に、レジデンスやサービスアパートメントの構想を持っていたという。コロナ禍での宿泊や料飲の大幅な減少が、そのアイデアの事業化を後押しする形となった。
事業化にあたっては、国内外のマーケットを徹底的に調査。各種データからターゲット層を顕在化し、事業に必要な価値の把握に努めた。その結果、有力顧客へのリーチが可能なだけでなく、不動産賃貸収入とは異なる領域での安定的なキャッシュインの確保に道筋が立ったという。
価格にこだわり、付帯サービスを別料金として利益確保
事業開発について、小池氏は「宿泊事業よりもGOP(営業総利益:Gross Operating Profit)が高くなるビジネスモデルを設計した」と明かす。固定人件費を含めた営業費用を抑制するため、客室清掃は限定的にし、専門のスタッフを配置。また、問い合わせは電話ではなくチャットを導入するなどの工夫を加えた。
約30平米のスタジオタイプ月額料金は36万円。発表時、この値付けについても反響は大きかった。小池氏は「使用する客室の1平米あたりの単価は1万5000円。30平米で45万円になる。これから、ルームサービスの月額6万円、ランドリーの月額3万円の9万円を差し引き、別料金で提供することで、36万円という設定にした」と説明。この価格でGOPが高くなることも確認したという。
通常期でのホテル事業との両立にも自信
「『泊まる』から『住まう』」をコンセプトに今年2月1日から予約の受付を開始した。月額36万円に加えて、5泊15万円(1日延泊ごと3万円プラス)も用意。小池氏によると、1000件以上の問い合わせがあり、今年3月15日から7月15日までの利用期間で用意した99室は即日完売したという。
予約は95%が直電。残りがインターネット経由。利用者については、「想定したターゲットよりも、その外側に多くのニーズがあることが分かった」と話す。利用目的では、首都圏在住者のセカンドハウスとしての利用が多いようだ。
第2弾として、今年7月17日から来年3月31日までのサービスアパートメントの予約も開始。3フロア99室に、新たに2フロア66室を追加した。
今後、ワクチン接種が進めにつれて、国内需要とともにインバウンド需要も回復してくる。通常期に戻ったときのホテル事業との兼ね合いについて、小池氏は「リモートワークが世界中で当たり前になってきた。商品内容は変わるかもしれないが、ホテル事業との両立は可能」との考えを示した。