宿泊施設のクチコミが稼働率に影響、イマイチ評価も「信頼」の獲得に、評価と投稿数の相関性など考察した【外電】

データ分析会社、トランスペアレント(Transparent)がこのほど明らかにした調査によると、民泊などホテル以外の宿泊施設では、ホストの事業規模と、宿泊客レビューの数や内容が相反することが浮き彫りになった。

エアビーアンドビー(Airbnb)、バーボ(Vorb)、ブッキングドットコム(Booking.com)、トリップアドバイザー(Tripadviser)の4社に関する2021年7月のデータを見ると、運営する物件数が少ないホストの方が、多数を展開しているホストよりも、1件当たりのレビュー投稿数は多く、評価スコアも高かった。

上記4つのプラットフォームに限った場合だが、登録している物件が1軒のみのホストの平均レビュースコアは4.8点(5点満点)、獲得レビュー数は平均18.6件。これに対し、運営規模が1000軒以上になると、一軒当たりの平均スコアは4.45、同レビュー数は5.3件だった。

「フォーカスワイヤ」より

なぜそうなるのか、ロジカルな理由もある。まずレビュー数だが、何千軒も管理しているホストは、個人ではなくマネジメント会社である場合がほとんどで、流通チャネルも様々なルートを活用している。

「こうした大手事業者にとって、エアビーやブッキング、バーボなど、多数ある流通取引先の中の一部に過ぎない。自社で直接予約を取っているところもあるだろう。当然、流通チャネル一社当たりの予約やレビュー数は少なくなる」と、トランスペアレント共同創業者兼取締役会長のドリュー・パターソン氏は説明する。

一方、平均評価スコアに高低の差は見られるものの、そこまで大きな違いでもない。短期レンタル物件に特化してレビューを収集・分析しているアグリゲータ「Revyoos」の創業者、クリストフ・サロモン氏は、個人経営のホストならではのパーソナルタッチが一因ではないかと指摘する。

「差が出るとしたら、こうした部分だろう。個人オーナーはすべて自分で対応するため、ゲストとのやり取りにおいても、心のこもった気持ち良い会話があり、すべてのプロセスにおいて人間味がある。対照的に、大手企業のプロパティ・マネジャーになると、もっと組織的な対応になり、ゲストと関わる担当者も一人ではない」。

「それに誰だって、民泊オーナーと直接、個人的なやり取りがない時の方が、悪い評価をつけやすでしょう」。

さて、どうする?

こうした理由があることを差し引いても、民泊マーケットにおけるレビュー効果の威力は疑いようもなく、件数と内容(質)の両方が重要だ。

フォーカスワイヤが2021年11月に発表予定の「米国の短期レンタル物件レポート2021」からの最新データや、民泊ホスト・利用客調査によると、消費者の29%は、同じような価格や内容の物件を比べる時に、レビューのスコアを参考にすると回答。レビューは、Wi-Fi接続の強度に次いで、2番目に重視されている項目となった。

また、自分が特に気にしている利用環境について確認する際も、レビューが役立っているようだ。

「例えば、リモートワークする旅行者の40%は、同じようにリモート環境で仕事したユーザーの間で、高評価を得ている物件を探すと答えている」とフォーカスライトのリサーチ・アナリスト、マデレーン・リスト氏は説明する。

レビューは、売上も左右する。エアビーの2021年4月以降のデータ(対象地域:米国、フランス、スぺイン、英国、イタリア)を分析した結果、レビューと稼働率には相関関係が見られた(トランスペアレント調べ)。各地域とも、評価が4.7以上の登録物件は、平均稼働率が5%高い結果に。また米国では、レビュー数が1~5件の施設の平均稼働率が57%だったのに対し、同21件以上では平均71%だった。

「フォーカスワイヤ」より

バーボ、ブッキングドットコム、エアビーでは、各プラットフォーム上での表示順位を決めるアルゴリズムにもレビューが使われているため、レビューが多いほど、予約が増えてレビューもさらに増えるというドミノ現象が起きている。バーボでは、今年4月から導入した「ファスト・スタート・プログラム」でもレビューを審査項目の一つとし、自社以外の旅行サイトで評価が4.5以上の宿泊施設は優遇措置の対象としている。

2020年、レンタル物件のレビュー分析会社Revyoos社を立ち上げたサロモン氏は、自身も宿泊施設のマネジャーで、SEO(検索エンジン最適化)や売上対策、信頼度アップのサポートを行っている。ただしOTA各社では、利用者レビューのコンテンツを宿泊施設が使用する場合について、あらかじめ制約を設けており、このことからも、レビューの重要性が伺える。

「レビューの存在価値は絶大なので、OTAではその利用について規約条件を設けている。宿泊施設側は、自社に関するレビューであっても、自社サイト上での表示は制限されている」と同氏は説明する。

「我々としては到底納得できるものではないが、OTAに自社施設を掲載してもらう際、署名する契約に、この威圧的な内容が含まれており、みんな従うしかない。自社サイトで表示できるのは、星の数とレビュー件数だけ。レビュー自体の内容は不可となっている」(サロモン氏)。

信用という問題

レンタル宿泊施設のレビューについて話しているとき、頻繁に聞く言葉が「信用」だ。

他にはないユニークさ、ホストの人柄がにじみ出るパーソナルタッチなどが、民泊ならではの魅力。こうした要素をチェックするのに重要な手がかりとなるのは、過去に滞在した人が書いたレビューだ。

「短期レンタル施設に泊まることに、違和感を覚える人もいるだろう。要は、他人の家に泊まる訳だから」とパターソン氏は話す。

「とはいえ、そのあとはすばらしい体験が待っている。最初のハードルを乗り越えてもらうためには、大丈夫だと安心してもらう必要があり、信頼を得るのに役立つのがレビューだ。レビューを読むことで、利用者の懸念が消えていく。だからこそレビューは軽視できない」。

プロパティ・マネジャーが絶対にやるべきことは実にシンプルで、すべてのゲストにレビューを書いてほしいとお願いすることだ、とサロモン氏。その次の段階として、すべてのレビューに返事のコメントを書くこと、OTAによる評価スコアを掲載すること、評価がイマイチだったレビューも臆さずに表示することも、利用者からの信頼獲得につながる。

「悪い評価レビューが少しあっても問題はなく、むしろ高評価レビューの信頼性を高めてくれる。問題が起きるのは当たり前。レビューが数百件あるのに、すべて5つ星になっている方がむしろ不自然だ」(同氏)。

レンタル物件を扱う企業の中には、レビューだけに頼るのではなく、すべての宿泊施設に共通するスタンダードや一定以上のレベルを保証することで、利用者の不安を取り除こうとする動きもある。特に、ホテルと民泊の中間に位置するところで、こうした取り組みが広がっている。

しかしパターソン氏は、トランスペアレントのデータでは、大手運営会社の宿泊施設の評価レビューが低くなっており、必ずしも消費者が標準化を求めているわけではない、と指摘する。少なくとも、大手OTA経由で予約を入れている利用者の関心は低そうだ。

「少なくとも、このデータは見てほしい。その上で、バケーションレンタルのVacasaやSonder、その他大手ブランドのマネジャーたちが主張するように、消費者は本当にブランドの統一性を求めているのか、頭の中を整理するべきだろう。エアビーなどのプラットフォームを見ると、施設ごとにバラバラでも、個人ホストが提供するパーソナルな滞在経験を楽しむ方に、軍配が上がっている」。

「結局、大手宿泊施設のマネジャーたちの意見に、あまり耳を傾けないプラットフォーム側が正しいと言えそうだ」。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:THE POWER OF REVIEWS IN THE SHORT-TERM RENTAL SECTOR

著者:ミトラ・ソレルズ氏

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