南太平洋に浮かぶフランス領ニューカレドニア。観光におけるSDGsや持続可能な発展が声高に唱えられる以前から、エコツーリズムを中心にサステナブルツーリズムへの取り組みを進めてきた。自然との調和、先住民族「カナック」の文化の継承などを長年にわたって観光政策として取り込んできたことから、現在の世界的ムーブメントについて、現地では「今更感」が強く、固有の自然や文化を保護し、観光素材として活用することは、改めて定義するようなことではなく、当たり前のことだという。
ニューカレドニアは、8500万年前にオーストラリアから一塊の陸地が分離した古代ゴンドワナ大陸の破片にあたると言われている。このため、この島にはゴンドワナ起源の固有の生態系が残っており、比較的新しい時代の火山活動によって生まれた太平洋の多くの島々とは異なる歴史を辿ってきた。
ニューカレドニアの固有動植物は全体の76%を占め、海洋生物種は2万種以上と、その生物多様性は世界的にも稀有な存在だ。2008年には、長さ1600キロメートル、広さ2万3400平方メートルにも広がるラグーンが世界自然遺産に登録された。
2021年にはナショナル・ジオグラフィック・トラベラー誌によって「ベスト・オブ・ザ・ワールド – 2021年のサステナブル・デスティネーション(持続可能な旅行先)」のひとつに選出。カーボンニュートラルへの取り組みや持続可能なエコツーリズムを展開していることが評価された。
自然環境と先住民族に配慮したホテル開発
ニューカレドニアでは、ホテルやリゾートの開発でもサステナビリティが重視されている。例えば、環境対策としては、フランスの建築物に対する環境基準認証制度HQE(環境高品質)も取り入れており、首都ヌメアの中心に位置する「ゴンドワナホテル」はフランスの海外領土としては初めてその認証を取得。エコ・ホテルとして環境対策に力を入れている。
また、国際的な環境認証「グリーンキー」を取得しているホテルも多い。例えば、日本人旅行者の利用も多いヌメアの「ホテル・ル・ラゴン」もそのひとつだ。
グリーンキーとは、1994年にデンマークで始まった宿泊施設、アトラクション、レストランなど向けの環境認証制度。環境に配慮する取り組みの「質」と、組織として継続的に環境対策に取り組んでいるという「マネージメント」との両面で審査が行われる。現在のところ、65カ国3,200ヶ所が認定を受けている。
このほか、ニューカレドニア政府は、環境保護と合わせて、先住民族「カナック」の文化の保護と継承、そのコミュニティの維持もサステナブルツーリズムとして力を入れている。
1981年にカナックの伝統的な慣習を尊重した土地利開発を規定する「地域特定法(GDPL)」を制定した。元々土地所有の概念がなかったカナックの利益を保護する目的で、期間限定でその土地の使用を認めるものだ。
カナックの土地と公有地にまたがる自然保護区「ドメーヌ・ド・デヴァ」もその制度が適用されており、ニューカレドニアの代表的なリゾート「シェラトン・ニューカレドニア・デヴァ・スパ&ゴルフリゾート」はGDPLのもとで運営。カナックとの共存のために、地域コミュニティへの利益分配を行っている。
日本の旅行業界で啓蒙強化
ニューカレドニア観光局の小川理志氏は、ニューカレドニアの環境の取り組みについて、「日本と同じようにさまざまな自然に神が宿るという考え方が影響している」と話す。ニューカレドニアにとってサステナビリティはすでに文化となっている。日本でプラスティックのレジ袋の有料化が始まったのは2020年7月だが、ニューカレドニアでは10年以上も前からエコバックが当たり前になっているという。
2019年6月には、プラスティック製品の輸入禁止法案が成立。ストローなども有機分解が可能なコーンスターチ製に変更されている。ニューカレドニアと世界を結ぶエアカランも、燃費効率の高い最新機材への更新や機内のプラステイック製品の使用中止など、2050年のCO2排出量実質ゼロを目指してアクションプランを進めているところだ。
観光局としては、サステナブルな宿泊施設やアフターコロナに向けて、ホエールウォッチング、バードウォッチング、ハイキングなどのエコツーリズム素材を日本の旅行会社に紹介するととも、旅行業界向けにeラーニングを提供。まもなく、サステナブルツーリズムも内容に含めたレベル2が開始される。
レベル2では、ランクが上がるごとに、ニューカレドニア観光局から環境保全団体WWFが運営するSEVEプログラムへの寄付が増額される仕組みを導入するなど、旅行業界としてサステナビリティへのコミットメントを強めていく方針だ。
トラベルジャーナリスト 山田友樹