航空の会員プログラムは、メタバースとNFTで何が変わるか? 未来の可能性を予測した【外電】

最新テクノロジー動向をチェックしている人ならば、直接的な関わりはなくても、「NFT」や「メタバース」という言葉を聞いたことがあるだろう。

どちらもディストピアを舞台にした架空の物語を彷彿とさせる言葉で、自ら進んで参加したいとは思わないかもしれない。だが実社会で上手に活用している事例はすでに複数あり、なかなか興味深いユースケースとなっている。

航空業界も例外ではなく、むしろ過去10年間、最新テクノロジーからは常に大きな影響を受けてきた。なかでも航空会社のロイヤルティプログラムは、NFTとメタバースの登場によって、かつてない姿へと変貌していくかもしれない。

ただし、まだ発展の初期段階にあるテクノロジーについて語り、あれこれ予想すると、不確実な部分も多くなってしまうことはご承知いただけると有難い。それでは一緒に水晶玉の中の未来をのぞいてみよう。

そもそも「NFT」「メタバース」とは?

まずNFTとメタバースの定義について。NFTとは、non-fungible token(非代替性トークン)の略語(そう、分かりにくい名前ですよね)。非代替性というのは経済用語で、唯一無二の価値や性質があり、他のものと取り換えることができないことを意味する。

要は、他に同じまったく価値を持つものはなく、所有できる人も一度に一人まで。イーサリアム(ETH)のブロックチェーンで保護されているため、他の人が所有権の記録を書き換えたり、コピペして同じNFTを作り出すことはできない仕組みとされている。

次にメタバースについて。フェイスブックが社名をメタに変更して以来、注目のトピックスだが、言葉自体はすでに1992年のニール・スティーブンスンによる小説「スノークラッシュ(Snow Crash)」で登場している。

小説の中のメタバースは3次元のバーチャルリアリティ空間で、個人の端末や、VRゴーグルを通してアクセスする。どこかで聞いたことがあるだろうか?

マーク・ザッカーバーグ氏の表現を借りると「見るだけではなく、自分自身で体験できるインターネットの中の世界。これをメタバースと呼んでいる」。

簡単に言うと、メタバースとは、バーチャルリアリティ空間のこと。その中で、ユーザーはコンピューター制御された環境を体感したり、他のユーザーと交流できる。

NFTとメタバースの活用事例

NFT規格のアートコレクション「BAYC(=Bored Ape Yacht Club:退屈な類人猿)」が話題だ(NFTマーケットプレイスで販売されているBAYCは、安価なものでも20万ドル以上といわれている)。BAYCを揶揄する声はよく分かる。簡単にコピペされてしまいかねない猿のイラストの画像ファイル(jpeg)をわざわざ購入することに何の意味があるのか。

しかし、話はそれほど単純でもないし、何よりも今、知っておきたいのは、こうした新しいテクノロジー活用が目下、発展途上にあるということ。リアルの世界とデジタル世界をうまく融合している事例もある。

NFTのユースケースで、昨今、人気があるのは、デジタル資産を倍増できる会員権やメンバーだけが参加を許される仕組み(つまり、単なるランダムな画像ファイルではないのだ)。

BAYCの場合も、NFTアートを所有すると、「大盛況の類人猿クラブに参加できるメンバーシップ」が獲得できる(読んでいるあなたと同じぐらい、書いている私も信じられない)。

もう少し、現実的なケースでは、NFT購入で会員権が手に入るプライベートのダイニング・クラブ、フライフィッシュ・クラブ(Flyfish Club)を挙げたい。会員になると、ニューヨークシティを代表する好立地にある広さ1万平方フィートの飲食施設を無制限で利用できる。

アクセス手段としてのNFT利用には、チケットが必要な業種からの関心が高く、その代表例がスポーツだ。全米フットボールリーグ(NFL)ではチケットマスターと提携し、一部の試合チケットをNFTで発券している。

購入者には、チケットマスターのNFTマーケットプレイス経由で、NFT版のチケットも無料で届く。さらに同マーケットプレイスでは、リーグ所属の32クラブによる数量限定の記念NFTも販売している。

同様に、全米バスケットボール協会(NBA)および所属チームでも、NFTを使った様々な新展開に着手している。ファンは、NBAの夏季リーグを記念したNFTを購入できる。ダラス・マーヴェリックスやサクラメント・キングスなど、それぞれ独自の取り組みを始めたチームもある。

一方、メタバースのよくある活用事例といえばゲーミングだ。初期のものでは、2003年にローンチしたセカンドライフ(Second Life)が有名だ。オンラインのマルチメディア・プラットフォームで、利用者は自分のアバターを作成し、オンライン空間のバーチャルワールドで“第二の生活“を楽しむ、というものだ。

さて、当時から年月が経過した今、若者の人気を集めているのは何か(ちなみにセカンドライフは現在も月間アクティブユーザー数100万人を誇る)。ここ数年、大人気を博しているゲームの一つがフォートナイト(Fortnite)で、登録ユーザー数は3億5000人。

フォートナイトは、今や単なるオンライン・マルチプレイヤー・ゲーム以上の存在だ。リアル体験のような没入感を実現しており、ブランド・エンゲージメント対策がぎっしり詰まった面白いユースケースと言える。

例えば、人気アーティストのアリアナ・グランデやトレビス・スコットのコンサートが開かれたりする。これはフォートナイトに限ったことではなく、オンライン・ゲーミング・プラットフォームのRobloxでも、バーチャル空間内でリル・ナズ・Xやトゥエンティ・ワン・パイロッツのコンサートを開催した。

旅行規制やロックダウンがある現状下において、こうしたメタバース空間は、他者とつながったり、同じ体験を分かち合える場としての存在感を高めている。

私の会社、Kambrでの取り組みも紹介したい。当社ではオフィスをバーチャル化し、社員のメタバースをGather上に作り出した。Gatherというのはビデオのチャット・プラットフォームで、「バーチャル空間でのやりとりが、もっと人間らしいものになるよう設計されている」。

我々のバーチャル・オフィスには、社員それぞれのデスクや会議室に加え、雑談スペースや一緒に楽しめるゲームもある。社員は、参加リンクをクリックし、自分のアバターを作成し、Kambrのメタバース内を自由にぶらぶら歩きまわることができる。

なかでも特筆すべきは、アバターどうしがすれ違った時に、言葉を交わせる機能。オフィス内で水を飲もうとウォータークーラーに立ち寄ったとき、そこにいた同僚と会話がはずむ、といった状況のいわばデジタル版だ。

そして航空業界でも、具体的な動きが始まっている。ボーイングは、メタバース内で航空機材を製造するプランを発表、150億ドル(約1兆7100億円)規模のデジタル刷新計画の一環としている。

同社では、マイクロソフトのホロレンズ・ヘッドセットを使い、ロボティクスを多用すること、さらに情報のデジタル・エコシステム統一化を目指す方針を掲げている。

以上は、様々なユースケースの一部に過ぎない。すでに実用化されているものからコンセプト段階のものまであるが、可能性はまさしく無限大に広がっている。

航空会社のロイヤルティプログラムにおける可能性

航空会社のロイヤルティプログラムでは、どのように活用できるか、まずは気楽に考えてみよう。トークンの活用状況を鑑みると、最初に検討すべきは、航空チケットの発券業務にNFTを取り入れることだろう。

#avgeeks(航空オタク)の間では、自分が利用した全フライトの記録作りが人気だ。手作業でスプレッドシートを埋める人もいるが、My Flight Logなどのアプリを使う人もいる。

もし航空券を購入する度に、こうした記録がシームレスに追加されるようになったらどうだろう。自分のフリークエントフライヤーのアカウントにログインし、会員番号を入力するだけでよい。

旅行の終了後、自分のアカウントを見ると、旅程の詳細すべてを網羅したNFTが確認できる。例えばフライトの使用機材、到着・出発時刻、座席の位置、出発地と到着地など。

あるいは特別便に搭乗できるNFTを販売する。例えばファースト・フライトや退役機材のラスト・フライト、行き先が特別なデスティネーションだったり、限定数の運賃クラスや特別なテーマを冠したフライトであったり。

航空会社と人気ブランドが提携し、何か特別なコンテンツ(デジタルでもリアルでもOK)を提供するフライトの限定NFTチケットというのも考えられる。ナイキの生産数限定スニーカーとか、ディオールが限定販売する香水、音楽家やアーティストのイベント入場券とセットになった航空券など、想像はどんどん膨らんでいく!

もちろん、いずれもFFPマイル獲得の対象とする。利用額が金銀銅プラチナなど、各社が設定している規定レベルに達したら、ボーナスNFTが加算され、デジタルやリアルの様々な特典が付与されるので、同じ航空会社を継続利用する理由が一つ増える。

さらにメタバースも活用すれば、もはや全く新しい世界への扉が開くだろう。いつの日か、FFPの全プログラムがメタバース空間へと移行するのかもしれない。少なくとも、空港ラウンジについては、これまでにないレベルでのデジタル化が進むのではないか。

多くの利用者にとって、フリークエントフライヤー特典の中で、最も嬉しいのが空港ラウンジ利用だ。では空港ラウンジだけでなく、非公開のデジタル空間も利用できるようになり、航空機の利用時以外にも何かしらのメリットが享受できる、というのはどうか?

航空会社がメタバース内にデジタル・ラウンジ(例えばメタ・ラウンジとか)を作れば、実現は可能だ。さらに飛行マイルだけでなく、デジタル・ラウンジにログインして何か体験することでポイントを獲得できるようにし、会員ステータスを維持できるようにすれば、ロイヤルティプログラムにゲーム要素という新しい魅力を加えることができる。

航空会社にとって悩ましいFFPと環境問題の相反性も解決できそうだ。頻繁に飛行機に乗ることだけでなく、別の方法でもFFPを活用できるようになれば、利用者の懸念を払しょくできる。

問題は、メタ・ラウンジで過ごしたいと思わせる理由だ。無料の食べ物やWi-Fiという訳にはいかない。

旅行マーケットの中心がZ世代になると、ユニークなブランド拡張や体験が重要になるだろう。

A地点からB地点へ移動する空の旅は、もはや多くの人にとって、代替可能なコモディティになってしまった(NFTの正反対だ)。FFPや運賃の差を除くと、どの航空会社を選んでもあまり違いがないと感じている。

IATAデジタル・シンポジウムで登壇したコリアンエアーのマーケティング&IT担当上級副社長、ケネス・チェンジ氏は「Z世代は、これまで我々が把握していた顧客像とは違う方向へと急変している。今までとは違う旅行をする」と指摘した。

「この世代の旅行者は、航空会社を選ぶ時、価格やスケジュールよりも、エクスペリエンス重視で決めている」(同氏)。

メタ・ラウンジの話に戻ろう。航空会社としては、まったく新しいものを最初から開発するより、すでにあるものに頼る方が簡単だ。

デジタル・スペース内の方が、顧客それぞれにカスタマイズした体験を提供しやすいこともメリットの一つだ。例えば顧客情報を収集・活用し、特定セグメント層の興味関心について理解を深めることも可能だ。

一般論だが、ミレニアル世代であれば、非公開のエンターテイメント、例えばコンサートや映画のプレミア・イベント、ゲームへの招待を喜ぶのではないか。ビジネス客向けには、FFPで同じステータス・レベルの著名人との交流会をメタ・ラウンジで開催したら飛びつくだろう。

航空ファンの交流会も、全く違う形になりそうだ。メタ・ラウンジ内の個人スペースに収蔵したNFTのコレクションをお互いに見せ合い、楽しむことができる。仲間同士のつながりは一層深まり、自慢のコレクションを披露することで、さらに仲間が集まってくる。

まだFFP会員ではない人の関心を誘うためには、メタ・ラウンジの方がハードルが低く、参加しやすいのではないか。フリークエントフライヤーに期間限定のゲスト用パスを配り、友人や家族を誘ってもらうのもよい。最近よくあるフリーミウム方式なら、利用者側も慣れていそうだ。

新規会員を獲得してくれた人には、FFPのポイントを付与するなどのリファーラル・プログラムがあってもよい。

単発のイベントを開催する方法もある。例えば、デジタル・チケットを予約し、メタ・ラウンジで搭乗手続きした人の中から、先着X名様を対象に、バーチャルリアリティ飛行に招待し、提携ブランドが提供する特別なNFTをプレゼント。もちろんこのNFTを使ってリアル世界の特典も利用可能だ。洋服やバッグ、インテリア関連、電化製品など、様々な商品とのコラボが考えられる。

航空会社が手掛ける新しいビジネスモデルや収益源の拡大については、エアアジアなどの取り組みが参考になる。いずれも燃料費の乱高下、需要の大幅後退など、外的要因がもたらす脅威に負けない強靭な組織を作ることが狙いだが、NFTとメタバースを活用することで、今までにない道を切り拓くことができる。

特に格安航空会社(LCC)にとっては大きなチャンスだ。多くの路線を展開するフルサービス・キャリアのような数十億ドル規模のFFPは持っていないが、新しいテクノロジーやトレンドに敏感で、決断も早いのがLCCの強みだ。

将来、航空会社は旅客を目的地へ運ぶだけではなく、自身も目的地へと変わっていくだろう。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:WHAT NFTS AND THE METAVERSE MEAN FOR AIRLINE LOYALTY PROGRAMS

著者:ジョセフ・ヴィト・デルーカ氏(Kambr社マネジングディレクター)

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