ANAグループが「ESG経営」を加速、サステナビリティや地方創生への取り組みを担当役員に聞いてみた

社会的価値だけでなく経済的価値としても重要なテーマとなっているサステナビリティ。ANAグループでは、ESG経営を推進するうえで、「環境」「人権」「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)」「地域創生」の4項目を事業活動の重要課題と位置付け、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指している。

ヒトとモノの輸送サービスを展開するANAグループにとってのサステナビリティとは?「社会の動きが早くなっているなかで、企業に求められているものも大きく変わってきている」と話すANAホールディングス上席執行役員グループ・チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)の宮田千夏子氏に聞いてみた。

CO2排出量実質ゼロに向けて、その道筋を明確化

ANAは今年8月に、2050年度までのカーボンニュートラル実現に向けた「トランジション戦略」を発表した。2030年度までにCO2排出量を実質2019年度以下にする中期目標から2050年度の実質ゼロに向けた道筋を示したものだ。

ANAは、CO2削減に対するグローバルな議論や日本政府の方針なども踏まえて、2019年ごろから目標設定などを議論し、さまざまな取り組みを進めてきた。そのなかで、改めてトランジション戦略を策定した背景について、宮田氏は「目標に向かって、今の段階で何を描いて、どのように達成していくのかを表すもの。ANAグループとしての将来ビジョンを示している」と説明する。

トランジション戦略では、カーボンニュートラルに向けて、運航上の改善・航空機などの技術革新、持続可能な航空燃料(SAF)の活用、排出権取引制度の活用、ネガティブエミッション技術の活用の4つの戦略的なアプローチを明確化した。

そのなかで大きな部分を占めるのがSAFの活用だ。藻類や廃食油、一般ごみなどを原料とする代替燃料であるSAFの供給量は現状、全航空燃料供給量の0.03%に過ぎないが、航空輸送では脱炭素に向けた切り札として期待されている。

業界横断的にSAFの課題解決と普及を

ANAでは、BtoBの取り組みとして「SAF Flight Initiative」を立ち上げ、カーゴとコーポレートの両面で賛同企業とのSAF活用と普及に向けた協業を始めている。現在のところ、カーゴ・プログラムでは4社、コーポレート・プログラムでは4社が参画。コーポレートについては、コロナ禍で出張が限定的だったが、今後出張が再開されるなかで、「さらにこの取り組みの意義は高まるだろう」と期待は大きい。

また、ANAは業界横断的な取り組みにも積極的だ。JALなどともに国産SAFを生産・普及を進める有志団体「ACT FOR SKY」を今年3月に結成。8月には新たに航空機メーカーのボーイングも参加を発表した。

しかし、まだ課題は多く、ANAでは、2030年に消費燃料の10%以上をSAFに置き換え、2050年のCO2排出量実質ゼロに向けては削減量全体の7割ほどをSAFの活用による削減と見積もっているが、青写真通りに進むかは不透明だ。

そのなかで、宮田氏は「昔の10年と今の10年では、社会の動きのスピードは全く違う。特に環境対策については、今後大きな変化も十分に考えられる」として、その時の事業環境の変化に合わせて、トランジション戦略を柔軟に変更していく考えを示す。

現時点では、開発中の水素航空機や電気航空機の活用はトランジション戦略に反映されていない。大気中のCO2を直接回収するDAC (Direct Air Capture)などネガティブエミッション技術は今後の実用化が期待される。

2020年11月6日、日本発の定期便にてSAFを初めて使用した(ANA提供)

10月から特別塗装機運航、消費者にもサステナビリティのストーリーを

SAFの重要性に対する認知については、業界内では着実に進んでいる一方、一般消費者にはまだその存在さえ知られていないのが現実だ。

宮田氏は、現状を前に進めていくためには、「航空は、電力の活用でCO2排出量削減していく産業とは異なり、まずはSAFを使って削減していくというストーリーを語る必要がある」と話す。

その取り組みのひとつとして、ANAは今年10月にボーイング787を緑色に塗装した特別機を運航し、サステナブルなフライトをアピールする。機内では、サステナブルな素材を使用した機内サービス品の提供や、航空をテーマとしたアップサイクル商品の販売を拡充するという。見慣れた青から緑の機体へ。ANAのサステナビリティへの取り組みを視覚化することで、「ANA Future Promise」のストーリーを伝えていきたい考えだ。

SAFの普及に向けは利用者の理解も必要になるが、調達コストの観点から利用者に負担を求めることはあり得るのだろうか。

エールフランス/KLMは今年1月、航空運賃に「SAF Contribution」の導入を発表。フランスおよびオランダ発の便で、搭乗客に一律に協賛金という形で追加料を課金し、SAFの利用を促進していくという力技に出た。

宮田氏は、利用者負担について、「グローバルな会議では、そういう話も出ている」と認める一方で、「今は品質、量、価格の面で安定的にSAFを調達できる環境整備の方が先」と話し、政府支援などを要請しながら、事業者努力を加速させていく必要性を指摘した。

宮田氏は2022年4月から現職。特別塗装機のボーイング787もまもなくフライト。

「地域創生」「人権」「DEI」の現在地は

宮田氏は、環境以外のサステナビリティ課題についても、ANAの現在地と将来に向けたビジョンを説明する。

まず、「地域創生」については、ANAあきんどを中心に、地域の社会課題を把握し、ANAグループのノウハウを活かしながら、地域とともに解決していく。「これまで以上に、地域コミュニティとの関係が大きな意味を持ってくる」との認識だ。

その一環として、サステナブルツーリズムにも期待を示し、「旅行先のサステナブルもあれば、旅行手段のサステナブルもある。旅行全体を通じたストーリーを創り上げることが大切では」と提言した。

「人権」については、世界では以前にも増して企業の対応に厳しい目が向けられている。ANAは、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサーになった時から、ビジネスと人権に本気で取り組み、日本における外国人労働者の労働環境の把握、航空機を使った人身取引の防止など国際航空運送協会(IATA)においても認識されている課題に対応してきたという。

また、欧州などでは「人権」と「環境」とを結びつける動きが明確になってきている。今年2月には欧州委員会が「コーポレート・サステイナビリティ・デューデリジェンスに関する指令案」を発表。企業が、そのグローバルなバリューチェーンを通じて人権と環境に及ぼし得る負の影響に対処することを目的としたもので、欧州域内に拠点を持つ企業以外も対象になることから、ANAはグローバル企業として、この動きに適切に対応していく方針だ。

このほか、「DEI」では、2020年台の早い段階でANAグループで女性役員30%、女性管理職も30%を目指す。現在、ANAホールディングスでは取締役が1人、執行役員が宮田氏を含めて3人だが、ANAでは、社外からではなく、社内昇格で多くの女性社員が経営陣に加わっている。

企業のダイバシティでは、女性登用が注目されがちだが、宮田氏は「女性というジェンダーの視点だけではなく、多様な人材を入れていくことが大切なのだろう。今の時代、何が起こるか分からない。同じキャリアを歩んできた人たちだけではガバナンスは弱い。企業として、いろいろな発想があった方がいい」と話す。

そのうえで、女性の活躍については「男性と同様に、それぞれのライフプランのなかで、管理職が普通の選択肢として思い浮かぶようになればいいのでは」と続けた。

CSOの役割のひとつは「外の人と話すこと」

2022年4月から現職の宮田氏は、そのCSOとしての役割のひとつは「ステークホルダーとオープンに話をすること」と話す。「今の世界の動きをタイムリーに把握し、企業運営に求められる要素を取り入れて、将来に向けて準備をしていく」ことがESG経営には必須だという。

一方で、ESG推進の難しさは、社員も消費者も「環境」や「人権」をとっつきにくいテーマと考えているところにあるという。その意識を変えていくためには、「社員であれば業務のなかで、消費者であれば手に取れる接点で、CO2削減や人権などを感じてもらえるようにすることだろう」と指摘する。

複雑な課題をわかりやすく。クローズドではなくオープンに。それは、一企業のESG経営だけでなく、サステナビリティという社会的命題において求められていることなのかもしれない。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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