ハワイ州、オーバーツーリズムを繰り返さない、地域住民の満足度向上をKPIに、アクションプラン推進へ

ハワイ州観光局(HTJ)は、ハワイ州の観光の現状と今後の戦略について説明する「ハワイセミナー」を都内で開催した。対面での開催は3年ぶり。HTJの上局となるハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)をはじめ、4島の観光局トップが来日し、再生型観光(リジェネラティブ・ツーリズム)を推進していくうえでの指針となるデスティネーション・マネージメント・アクション・プラン(DMAP)を説明した。

住民と訪問者の満足度向上と消費額拡大をKPIに

DMAPは、2021年から2023年までの3年間で、観光産業の安定化、パンデミックからの回復、各島における観光産業への再構築のための地域密着型観光の再建を目指すもの。各島の運営委員会のもとで、地域社会、観光産業、その他の企業団体が参画することで、再生型観光を構築していく。

HTAブランド統括責任者のカラニ・カアナアナ氏は、「地域コミュニティは、観光産業がハワイ経済にとって、とても大切だと認識しているが、一方でホットスポット(オーバーツーリズム)問題に不満を持っていた。パンデミックをきっかけに、経済的利益だけでなく、次世代に向けた観光再開の必要性を再確認した」と、DMAP策定の背景を説明する。

DMAPのカギは地域コミュニティとのコミュニケーション。HTAや各島観光局は、パンデミックによって観光活動が停止している期間、地域住民との情報交換を密にしてきた。「本物のハワイを伝えて、ハワイの歴史文化を訪問者に啓蒙し、それを尊重してもらう。そして、地元の家族経営のショップも含めて地元の経済活性化に還元してほしい」(カアナアナ氏)という総意をDMAPに反映させた。

そのうえで、「ハワイコミュニティの観光産業への理解と満足度の向上」「ハワイ訪問者のハワイに対する満足度の向上」「ハワイ訪問者の消費額の拡大」をKPIに定めた。地元住民への最新意識調査では、観光への満足度が以前の調査から5%上昇したことから、カアナアナ氏は「まだスタートしたばかりだが、方向性は間違っていない。地域コミュニティと訪問者の相互理解は、再生型観光につながる」と新しい取り組みに自信を示した。

セミナーで挨拶に立ったHTAカアナアナ氏

HTJ、4本柱で「マラマハワイ」観光を訴求

具体的なアクションプランを進めるうえで柱としているのが「自然保全」「文化継承」「コミュニティとの関係」「ブランドマーケティング」の4つ。HTJ日本支局長のミツエ・ヴァーレイ氏は「訪問者にも地元の人たちと一緒にさまざまな取り組みに参画してもらう」と話し、参加型観光を訴求していく考えを示す。

そのなかで、日本市場向けプロモーションとしては「マラマハワイ(ハワイへの思いやり)」を展開。自然保全、文化継承、コミュニティ活性化などに取り組む団体との協力で、ボランツーリズムなどへの参加を促していく。エイチ・アイ・エス(HIS)は9月下旬、HTJと「マラマハワイ」の推進に向けたパートナーシップ協力覚書を締結。「ハワイ州観光局公認マラマハワイツアー」の販売を開始した。

カアナアナ氏は「マラマハワイとは、考え方であり、暮らし方であると同時に、行動を起こす動詞でもある」とコメント。単なるスローガンではなく、実際的な活動として訴求していく方針を示した。

また、ヴァーレイ氏は、再生型観光の取り組みのひとつとして、ホットスポットでの事前予約システムについても説明。現在、オアフ島のハナウマ湾やダイヤモンドヘッド、カウアイ島のハエナ州立公園、マウイ島のハレアカラ国立公園などで導入されているが、「オーバーツーリズムを避け、住民の生活を守りながら、経済とのバランスを取るための取り組み」として、理解を求めた。

このほか、ブランドマーケティングでは、消費者向けのデジタルマーケティングやPR活動に加えて、旅行業界との協業によるプロモーションも強化。ロマンスやゴルフなどの市場に力を入れていくほか、日本の姉妹都市との交流拡大も進めていく。ヴァーレイ氏は「円安、インフレ、燃油サーチャージなどの課題はあるが、まずは海外旅行を出ることの気運を高めていきたい。今のプロモーションが来年の春や夏の送客にとって大切になってくる」と意欲を示した。

日本市場での取り組みを説明するヴァーレイ氏

日本市場を「マラマハワイ」のケーススタディに

2022年9月までのハワイへの渡航者数は、米本土からの旺盛な需要に支えられ、すでに2019年同期を上回っているが、日本市場については10%程度にとどまっている。それでも、HTAは国際市場で日本を最重要市場と位置付け、渡航者数だけでなく、その旅行スタイルでも重要な存在との認識を持っている。

「日本とハワイとは長い歴史があるため、日本人はハワイ文化を尊重してくれる。また、メイド・イン・ハワイの商品の購入などで地元経済を支援してくれる」とカアナアナ氏。今後、再生型観光を米国本土をはじめ世界に展開していくうえで、「日本市場はケーススタディになる」との考えを示した。

ハワイ4島、住民の声から課題を抽出、解決に向けて行動

各島観光局もHTAの指針のもと、それぞれのDMAPを策定している。

カウアイ島では、観光業に対する住民の意識調査結果で、観光客による交通渋滞、地域文化に対する配慮の欠如、生活費の向上、環境破壊を感じていることが報告されたという。カウアイ観光局のスー・カノホ局長は、その解決策の一環として、ホットスポットでのオンライン事前予約の導入や新しいシャトルの運行開始などを説明したほか、メイド・イン・カウアイの商品だけを扱う地域支援ショップの開業も紹介。カノホ局長「マラマハワイでは、地域住民とのコミュニケーションが何より大切」と強調し、今後も住民からの意見を尊重していく姿勢を示した。

オアフ島でも、住民との意見交換から、人口過密状態、交通問題、環境問題、生活費の高騰などが観光によって引き起こされているとの課題を共有した。オアフ観光局のノエラニ・シェリング-ウィーラー局長は、その中でも特に違法バケーションレンタルに言及し、「賃料の高騰や生活環境への影響など住民の生活環境に影響を与えていることから、新たに制定された法律のもとで、取り締まりに力を入れている」と明かした。

このほか、旅行者のレンタカー対策について、ハイブリッドカー利用の推奨やラッシュアワー情報の提供などのほか、ホノルル市との協力で公共交通機関での移動などを促していく計画だという。

(左から)ハワイ島観光局バーチ氏、マウイ観光局プレッチャー氏、カウアイ観光局カノホ氏、HTAカアナアナ氏、オアフ観光局シェリング-ウィーラー氏、Meet Hawai’iコー氏、HTJヴァーレイ氏

マウイ郡(マウイ島、ラナイ島、モロカイ島)の最優先課題はホットスポットの解消。国立公園などでの事前予約制の導入や、ドライブ旅行者が多いことから、要所で安全運転を喚起する取り組みを強化している。また、サンスクリーン利用を規制する条例が制定。今年12月からミネラルオンリーの日焼け止めのみの使用に限定するなど、海洋保全も強化する。一方で、島内各所で適用サンスクリーンを無料で配布する取り組みも始める。マウイ観光局PRマーケティングディレクターのリアン・プレッチャー氏は「地域コミュニティと経済とのバランスを重視していく」と強調した。

ハワイ島では、ホットスポットの改善や交通手段の改善が課題。ホットスポットについては、ハワイ島観光局ロス・バーチ局⻑は「私有地などもあり、管理するルール作りが難しい。地域コミュニティの参画がカギになる」との考えを示す。また、人気のマンタダイブビングについては、参加者が多くなってきていることから、「参加者の満足度を上げるためにも、規制を考えていく」ことを明らかにしたほか、ビーチクリーンやフィッシュポンドの復元などの商品化について議論を進めていると説明した。

このほか、ハワイにおけるMCI(ミーティング、会議、インセンティブ)を誘致する組織「Meet Hawai’i」もセミナーでは、アジア/オセアニア地区エグゼクティブ・ディレクターのアンドリュー・コー氏は、「ESG経営を進める企業が多くなっているなか、ハワイは最適なMCIデスティネーション」と話す。一方、MCI参加者は将来、家族や友人を連れてリピートしてくれる可能性も高いことから、「観光市場にとっても重要」と位置づけた。また、MCIでも「マラマハワイ」を重視。自然保全や地域貢献などで、さまざまな団体との橋渡しを積極的に進めていく方針を示した。

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