予算がたっぷりある中国人旅行者がいよいよ動き出し、これを誘致しようと観光地側も注目している。ようやく団体での海外旅行が認可されたことが一因だ。とはいえ、ラグジュアリー旅行というセグメントでは、必ずしも特定の国のニーズに合わせたプロダクト開発が奏功するとは限らない――。
旅行者はハイエンドな体験を渇望しており、ラグジュアリー旅行のバブルがはじける気配はまだ見えない。さらに中国旅行マーケットが本格的に動き出すことで、ポスト・パンデミック期のリベンジ旅行消費は、さらに活況を呈するとの期待もある。
数日間に渡るラグジュアリーツアーを専門とする旅行各社は、ペントアップ需要が予想以上に継続している現状に驚き、その勢いに当惑することさえあるという。加えて、中国発の海外団体旅行が2月6日以降、一部のデスティネーションで解禁される。
パーソナライズした豪華サファリツアーで知られるアンドビヨンド社のCEO(最高経営責任者)、ジョス・ケント氏は「需要に追いつくのに必死だ」と話す。
2022年2月以降、「予約はパンデミック前の2019年を30~35%上回る勢いで推移中。今年1月の最初の一週間は、創業以来の最高値になった」とケント氏は話す。
「当社が取り扱うラグジュアリー需要の増加分に、中国マーケットは含まれていない。オーストラリア市場は半年前から、アジア市場はつい最近、戻ってきたところだが、その勢いはすさまじい」と同氏。ちなみに2019年の中国人旅行は、旅行件数が1億5000万件、消費額は2550億ドル(約33億1500万円)だった。
アンドビヨンド社の取扱に占める中国人旅行者のシェアはわずかだが、「かなりのスピードで増加する」(ケント氏)とも予測している。
ラグジュアリー志向はまだ衰えない
アバクロンビー&ケント(A&K)の商品開発・オペレーション担当ディレクター、ベス・シラー氏は、ラグジュアリー旅行への力強い需要は、いずれ落ち着くとの見方だ。
とはいえ、今はまだ、その段階ではない。
長い間、待ち続けた分を取り返して余りあるような素晴らしい旅行をとプランを練ってきた人が多く、複数世代や親せきも含めた家族旅行も珍しくないとシラー氏は指摘する。A&Kの取扱客を見ると、グループ当たりの人数は2019年より12%増、今後の予約分については、5人以上のグループが同26%増となっている。
「パンデミックをきっかけに、自分にとっての旅行の価値や、どんな旅がしたいか、といった考え方に大きな変化があったとゲストから聞いている。多くの人は、2年間を無駄にしたと感じており、年配の方は、あと何年、旅行を楽しめるだろうかとご自身の健康を気にしている」と同氏は話す。
A&Kでは、中国人旅行者に特化した取り組みは行っていないが、政府の対応や中国人旅行者への規制強化といった動きは注視しているという。トランジット客にも影響が及ぶ可能性があるからだ。
一方、中国人旅行者が戻ってくることで、特に東南アジアなどの航空便スケジュールが便利になるなどのプラス効果を期待している。
オーストラリアや南米などで、国内や地域内路線の供給数がもとに戻っていないことも懸念材料だ。A&Kでは、自社ネットワークを駆使して旅程やフライトの見直しを行っており、以前と同様、「スムーズな旅行体験」を提供できるよう工夫している。
同社にとって、2023年最大の課題は、座席などのスペース確保だ。エジプト、アフリカ東武や南部、ペルーといった人気デスティネーションでは特に大変になりそうだ。
「当社では現地のプロと緊密に連携しながら、同じ地域でも、従来とは違うルートを開拓するなど、新しい旅程作りに力を入れている」とシアー氏は話し、「プライベートジェットで回るアフリカ」といった例を挙げた。
綿密なプランニングは一朝一夕では難しい
中国の旅行会社は2020年、海外への団体旅行の販売を禁じられたが、2月6日から、販売が再開できるようになる。
対象となるデスティネーション選びでは、中国との相互関係が大きく影響し、中国人旅行者への入国規制を設けている国は除外された。ドラゴントレイル・インターナショナル発表によると、団体での渡航先として認可されたのは、タイ、インドネシア、カンボジア、モルディブ、スリランカ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、ラオス、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、ケニヤ、南アフリカ、ロシア、スイス、ハンガリー、ニュージーランド、フィジー、キューバ、アルゼンチン。
今後、中国の国境再開は、段階的に進められる見通しだ。そもそもコロナ禍の前から、同国政府は市民の出入りを厳しくモニタリングしており、団体での海外旅行は認可を受けた旅行会社のみが取り扱ってきた。
ロイヤル・アフリカン・ディスカバリー社で、中国の富裕層向け手配旅行を担当しているヨハン・グローエンワルド氏によると、規制緩和は中国の旅行マーケット全体にとって朗報だが、富裕層の個人旅行になると話は別だ。なぜなら、こうした顧客層が海外旅行をする場合、ビザ取得には、通常以上に多くの煩わしい手続きが必要になるからだ。
一週間の旅行に最大5万8000ドル(約754万円)を消費するハイエンドな顧客層が動き出すのは、もう少し先になるというのが同氏の見方だ。
「こうした旅行は、(プランニングも)数日でさっとできるものではなく、準備は大変だ。ハイエンド顧客層が長距離フライトを伴う海外旅行について考え始めるのは、旧正月が終わってからになる」(同氏)と話す。
旅行経験が豊富な中国のハイエンド顧客層も、その嗜好は以前とは変わっている。ただし、中国では、ゆっくり旅行できる時期が限られており、休暇がとりやすいのが秋の国慶節など一部に集中しているという状況は同じだ。
どうしても混雑する旅程に陥りがちだが、贅沢な過ごし方への欲求は強くなっている。加えて、若い世代の新しい富裕層は、旅行についての考え方もフレキシブルで、シニア世代が一緒でなければ、中国語を話すプロのガイドも必須ではない。
ケント氏は、商品内容や価格帯を中国マーケットに合わせ過ぎると、これから動き出す中国発の富裕層旅行者をかえって逃すことになるとの考えだ。
アンドビヨンド社では、あえて中国マーケットを意識しないようにしている。
「中国にも、洗練されたラグジュアリー旅行者層がいて、旅行経験も豊富。他の国の顧客層と同じく、当社のサービスや食事、おもてなしを喜んでくれる。我々がゲストに合わせていくのではない。ゲストの方が当社を‘見付け出し’、我々が提供するロッジや野外体験を楽しんでくれる。そこに旅行者が探していたものがあるから。当社が掲げるインパクト・ミッションやストーリーに興味があるからだ」とケント氏は語る。
アンドビヨンド社が南アフリカのピンダやパタゴニアで展開している「インパクト・ジャーニー」とは、人生を変える旅、サステナブルな体験を具現化したものであり、同社の名を旅行者の間で知らしめるきっかけにもなった。さらにアジアでも今年9月、初の直営ロッジとなる「アンドビヨンド・プナカ・リバー・ロッジ」をヒマラヤの麓、ブータンで開業する。
バブルが膨らみ、弾けるとしたら、それはハイエンド市場とは正反対にある、低予算の複数日程ツアー市場で起きると同氏は見ている。最も危ういのは、価格帯やサービスについて自社の方針がふらついている事業者だと指摘する。
※ドル円換算は1ドル130円でトラベルボイス編集部が算出
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Multi-Day Luxury Tours Bubble Set for China Boost
セレーン・ブロフィー氏