旅行テックの国際会議「WiT Japan2023」、国内外の観光リーダーが語った現況と未来、「AIはWi-Fiと同じように、社会インフラ化する」

4年ぶりの完全リアルで開催されたテクノロジー×旅行の国際会議「WiT Japan & North Asia 2023」。最新テクノロジーからダイバーシティ、サステナブルまで、2023年7月5~6日の期間中に開催された様々なセッションで飛び交ったキーワードを中心に、国内外のプレイヤーが注目するポイント、注目すべきコメントをまとめた。

生成型AI、最新テクノロジーへの見解

今回のWiTで、最も多く話題になったテクノロジーは、やはり「生成型AI」だ。

全体のセッションを進行するWiT創始者のイェオ・スーフン氏は、「AIはWi-Fiと同じように、社会インフラ化するといわれている」という識者の見解を紹介した。韓国拠点のホスピタリティ系ソリューションプロバイダー「Yanolja Cloud」のManaging Director/Co-CEOのJongyoon Kim氏は、「旅行業では検索エンジンが大きな要素だが、AIは検索にとって代わる」と言及。そこで収益を上げるためには、「インターフェースを変えなくてはならない。新しいランディングページを、作り直す必要がある」と話した。

中国OTAフリギーの最高戦略責任者兼企業開発責任者のSimeon Shi氏も「今後、業界を大きく変えるもの」とした。同社では、投資先の選定にも「チャットGPTは、アナリストが行う最初の作業で使っている」ことを明かした。同社が投資先として注目している分野は「サプライチェーンを効率化する事業」「新しいチャネル」。特にチャネルは「(テクノロジーによって)今後、サービスのチャネルはどんどん変わり、若年層のユーザーはそこに流れる。多様なチャネルで、ユーザーの多様なニーズを満たすことが大切」という考えだ。

JTB代表取締役 社長執行役員の山北栄二郎氏は、生成型AIについて「旅行販売の時間の5割をバックエンドのプロセスに費やしている。AIでトランザクションを自動化できる」と、生産性を向上させることに活用する方針を示した。同時に山北氏は、旅行者が旅行をする動機が「特に若年層は目的のために旅行をするようになった。他にはないユニークな体験を求めている」とし、「(AIの活用で)業務の自動化を図りつつ、人がする仕事はよりクリエイティブに、旅行の目的を作り出すことを重視する」との考えだ。

なお、テクノロジーではこのほか、「コンタクトレステクノロジー」や「メタバース VR/AR」「ブロックチェーン」に関する発言も多かった。メタバースに関しては、ANA NEO取締役COOの渡邉勝氏が、旅行やショッピングのバーチャルプラットフォーム「ANA GranWhale」を、アジア5カ国地域で先行ローンチしたことを説明。多様化する旅行チャネルや旅行形態を実感する機会となった。

2日目最初のトークセッションに登場した、JTB代表取締役 社長執行役員の山北栄二郎氏(右)と、WIT 創設者のイェオ・スーフン氏

日本のOTA勢、成長と次の一手

WiT Japanで恒例となっている楽天やリクルート(じゃらん)、一休、JTBがそろって登壇する国内OTAのセッションでも、テクノロジーに関する話題がのぼった。

進行役のベンチャーリパブリック代表取締役社長の柴田啓氏の「この1年の間に、生成型AIを使ったサービスをローンチする計画があるか?」の質問に対し、JTBが「1年」の縛りの中では「No」と答えた以外は、3社は「Yes」と明言。「フィンテックを絡めたサービスのローンチ計画」については、一休以外の3社が「Yes」と答え、最新テクノロジーの活用に向けた準備を進めていることを示唆した。

楽天は、フィンテックに関して「すでに楽天トラベルは、楽天の金融部門と連携したサービスを展開している」(上級執行役員トラベル&モビリティ事業長の髙野芳行氏)と強調。楽天のモバイル事業への投資に関しても「ポジティブにとらえている。成功すれば行動データが取得でき、顧客の興味をより把握してサービスをより良くできる」と話し、テクノロジーの活用でもグループシナジーが発揮されることを強調した。

なお、コロナ禍で国内宿泊市場でのシェアをさらに広げた印象がある国内OTAだが、旅行が通常に戻りつつある現在も、引き続き順調のようだ。2023年4月~6月の予約件数について、JTB、じゃらん、一休は2019年比で2ケタ増の推移。楽天は「(数字は)話せない」としながらも、2022年の国内宿泊の流通総額が2019年比で2ケタ増の推移となったことを前提に「好調に推移しており、息切れしていない」(髙野氏)と話した。

左から)リクルート(じゃらん)旅行Divisionオフィサーの宮田道生氏、一休 執行役員第二宿泊事業本部長の巻幡隆之介氏、WiT Japan実行委員責任者の柴田啓氏(ベンチャーリパブリック代表取締役社長兼CEO)、楽天上級執行役員トラベル&モビリティ事業長の髙野芳行氏、JTB執行役員Web販売事業部長の 池口篤志氏

多様性への対応、アジアと日本のチャンス

WiT Japanでは、今後のビジネスチャンスやマーケットのトレンドとしてダイバーシティ(多様性)やサステナビリティ(持続可能性)に関する発言も多く聞かれた。

グローバルOTAでのセッションでは、エクスペディアグループバイスプレジデントのマイケル・ダイクス氏が、アジアにおける旅行ビジネスにとって重要なポイントとして、「人口動態がカギになる」と言及。今後、世界の中流階級の3分の2を占めるようになるといわれるアジアは大きなチャンスが期待できると同時に、北アジアでは高齢化も進み、このままではマーケットの縮小が見込まれる地域もある。そこに対応するためにも「これまでサービスを受けられなれなかった人にサービスをする必要がある」とし、LGBTQやサステナビリティ、ハンディキャップを持つ人へ対応する重要性を強調。旅行者だけではなく「従業員側へのサポートも含まれる」と話した。

左から)アゴダ代表取締役アソシエイト・バイスプレジデント北アジア地区統括の大尾嘉宏人氏、エクスペディアグループ バイスプレジデントのマイケル・ダイクス氏、WITスーフン氏、ブッキング・ドットコム北アジア地区統括ディレクターの竹村章美氏、ホッパー ジェネラルマネジャー,APACのレノ・ワン氏

JTBの山北氏もセッションのなかで、ダイバーシティへの対応の重要性として「働く人の多様性がなければ、マーケットのニーズの多様化を理解できない。従業員のポートフォリオを変えることも大切」との考えを示した。

サステナビリティに関しては、北海道ニセコ町が観光を受け入れる地域側としての取り組みを話した。

ニセコ町長の片山健也氏は「これからの観光地は、『環境』がキーワード。おいしくて安全な水や食があり、長期滞在ができるところがリゾート地として生き残る」との信念のもと、景観や環境に関して厳しい条例を施行していることを紹介。「地域の経済とエネルギー、地域の資産を地域で循環していくのが、私たちの考え方。これに共感し、投資を希望する企業とコラボしながら観光振興をしている」という。ニセコでは、高級ホテルが続々と開業しており、ヒルトンやリッツカールトンなどの世界ブランドホテルが開業。今後、アマンも開業予定だ。

CO2排出に関しても、2050年までに86%の削減を目指す。町のCO2排出量の約7割が建物由来であることから、建物を高気密・高断熱化することで一定量の排出を抑制できる。すでに町庁舎に対策を施し、エネルギー効率を従来の5分の1まで抑えた。また、住民やホテルの生ごみは微生物による発酵で土に返し、雪を活用した食糧庫の設置や、地中熱・温泉熱、太陽光など、自然エネルギーも積極的に導入。「世界から観光客が来ても、環境、景観、長期滞在に耐えうるリゾートにする。SDGsを推進することで世界の信頼を勝ち得る」との考えで実践を進めている。

ニセコ町長の片山健也氏

このほか、WiT Japanには、日本発の新興企業も数多く登場。2019年創業の旅行のサブスクサービス「HafH(ハフ)」を提供するKabuK Style(カブクスタイル)CEO & founderの砂田憲治氏は、自身の専門が金融工学であるというバックグランドとともに、事業の発想の背景とブロックチェーンを活用したビジネスモデルを説明。コロナ禍で日本航空(JAL)と実施した「航空サブスクサービス」の実証実験では「目的地を決めない人を旅行に動かした」とし、新たな市場の創出と需要の多様化ができることに自信を示した。先ごろには韓国への進出も果たし「成長スピードは日本より早い」と手ごたえを強調した。

また、富裕層の訪日旅行客向けグルメプラットフォーム「byFood.com」を運営するテーブルクロス社も、タビナカのセッションに登場。日本の食という強力なコンテンツに特化し、JTBやベルトラなどの出資を受ける同社は、日本に本社を置きながら、代表取締役CEOの城宝薫氏以外の多くのスタッフが世界各地に点在している柔軟な組織。それこそが訪日客を呼び込む強力な武器にもなっているという。

なお、WiTは今後、マレーシアやソウルでの開催が予定されている。2023年10月には、シンガポールで新テーマ「THE HUMAN REVOLUTION」での開催を予定している。

テーブルクロス代表取締役CEOの城宝薫氏は、タビナカのセッションに登場。左から)城宝氏、アソビュー代表執行役員CEOの山野智久氏、ベンチャーリパブリックCOOの柴田健一氏(進行)、ベルトラ代表取締役社長兼CEOの二木渉氏

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