旅のサブスク「HafH(ハフ)」、フィンテックで旅の世界を変える、その事業戦略と見据える未来を創業者に聞いてきた

旅のサブスクリプションサービス「HafH(ハフ)」を運営するKabuK Style(カブクスタイル)が2023年2月、第1種旅行業とIATA公認代理店認可を取得した。5月11日からは、JAL航空券の即時購入が可能となる航空サブスクサービス(ベータ版)も開始する。2019年4月にサービスを開始して以降、コロナ禍も「想定内」と乗り切り、時価総額100億円にまで急成長。旅のスタイルに新たな風を吹き込んでいる。

「多様な価値観を多様なまま許容する社会インフラを創る」をミッションに、「世界を変えることにコミットしている」と話す創業者兼代表取締役の砂田憲治氏。社会の有り様が変容するとともに、求められる旅のカタチも変化するなか、KabuK Styleが新たなビジネスモデルで描く未来図とは? 砂田代表に聞いてきた。

HafHのサービスとは

サービス名称「HafH」の由来は、「Home away from Home」。そのサービスのキモは、サービス内で獲得できる「HafHコイン」だ。宿泊価格や航空券価格などの旅行に関する価格データ、そのタイミングの価格での需要推定を行うアルゴリズムを開発し、HafHコインという独自の仕組みを通じて価格を安定化させることで、定額制を可能にしている。

サブスクリプションとして月額2980円(ライトプラン)から8万2000円(プレミアムプラスプラン)を購入し、毎月取得するコインを活用して宿泊施設や航空券の予約を行う。付与されるコイン数はプランのグレードごとに異なる。また、新たに登場した「Newスタンダードプラン」では、コインを追加購入することも可能にした。

2023年3月現在、利用できる宿泊施設は国内外で1500軒を超える。最近では海外ホテルの開拓を積極的に進めており、2月にはハワイとニュージーランドで合わせて約60ホテルを新たに追加した。

旅行業に狙いを定めたワケとは

金融出身の砂田氏は「私がやりたいことは、社会を滑らかにするためにお金の流れをよくすること」と話す。その中で旅行業に目をつけた。「旅行は市場としてボリュームがある。インターネットが進んでおらず、成長する余地が大きい」と、その理由を説明した。

旅行市場の規模は、宿泊業、運送業、娯楽、飲食などを合わせて約30兆円。日本のGDPに占める割合は大きく、社会インフラとしての旅行業のインパクトも大きい。「その経済規模は、インターネットというスピードを加えることで、さらに大きくなる」との考えだ。

また、オンライン化が進み、LCCなどで移動も容易になり、簡単に海外に行ける環境が整っているなか、「人は住む場所をどうするか考える時が来るだろう。それを前提にビジネスを考えた」という。コロナによって、生活スタイルに変化が起こり、仕事でも住居でもより柔軟な選択が好まれるようになったが、砂田氏の構想はそのコロナ前のことだ。感染症、戦争、災害など外部要因に関わらず、「旅行は価値観の転換が必要なサービスだと思っている」と明快だ。

KabuK Styleは、第1種旅行業を取得したが、砂田氏は「旅行会社になりたいわけではない」と明かす。旅行業法は制定以来、改正を繰り返してきたが、基本的に規制の定義が企画旅行か手配旅行になっているため、現在の旅行のあり方と乖離が大きくなっていることが指摘されている。同社のビジネスモデルも現行の旅行業法と相容れない部分が多い。

例えば、HafHコインは仕入れ単価と連動していないなど、さまざまな面で法的に想定されていない。砂田氏は、「旅行の再定義が必要」と主張する一方で、「消費者に大きな影響を与える以上、しかるべき規制を受けるのは当たり前」と話し、旅行業取得の背景を説明する。

「世界一の旅行サービスを目指す」と砂田氏HafH事業の3本柱

同社は、コーポレートサイトでは新たにグローバル視点の「フィンテック企業」としての立ち位置を明確にした。人材採用も今後のビジネス展開も、この視点から行う。ブロックチェーンなども含めた金融ITを駆使した旅行ビジネスで「世界を変えようとしている」。

KabuK Styleは、HafHでの事業計画として、3つの取り組みを進めている。

一つ目はグローバル展開。2023年3月には、韓国で現地法人「KabuK Style Korea」を設立。また、新たに海外展開のディレクター3人を招聘し、グローバル戦略チームを強化した。東南アジア、中国、インドなどでのユーザー獲得とホテル開拓を進め、訪日や日本発だけでなく、アウト・トゥ・アウト(海外から海外)の旅行事業も拡大していく。新たに、韓国ウォン建て、台湾ドル建てのプランもリリースする予定だ。

二つ目は定額制MaaSサービスの進化だ。宿泊だけでなく移動にもHafHの利用領域を広げる。まず、これまで2回にわたってJALとの「航空サブスクサービス」実証実験を実施してきたが、5月11日からは、JALとの直接的なシステム連携でJAL航空券の即時購入を可能とし、これを恒久サービスとして提供していく。砂田氏は「とりあえず国内148路線で展開するが、将来的に国際線にも目を向けたい」と意欲を示す。

航空のほかに、JR西日本とも提携。2022年からHafH会員を対象とした割引サービスの実証も進めているところだ。

JALとのサブスク連携も本格的に。三つ目が、宿泊施設のDXサポート。2022年11月に韓国のレベニューマネージメントシステムを開発・提供しているスタートアップ「HEROWORKS」を買収した。宿泊施設のDXにおいて、このレベニューマネージメントは重要なシステムのひとつ。砂田氏は、「HEROWORKSは、すごい量のデータを処理している。宿泊施設の価格が他のサイトと比べて高いのか安いのか、よりスピーディに把握できるようになった」と手応えを示す。また、同社買収の背景には、韓国市場での宿泊施設拡充の狙いもある。

このほか、事業拡大に向けてはパートナーシップも重視する。2022年4月に星野リゾートと資本業務提携を締結。HafHで、星野リゾートが展開する「OMO(おも)」と「BEB(ベブ)」 全13施設の取り扱いを始めた。星野リゾート側は、「旅のサブスクリプション」という新しいビジネスモデルに共感して、HafHへの参画を決めたという。

順調に事業を拡大してきた一方で、コロナ禍によって自社運営の宿泊施設の開発は大きく遅れることになった。2020年2月に、福岡にコリビング施設をオーブンしたが、そのほかのプロジェクトは完全に止めた。「創業1年目では、体力、実績、資金もなかった」という。しかし、コロナ禍の3年間を経て「今はプロジェクト再開に向けて準備を進めている段階」と明かす。

「10年後には旅行業界でもプレイヤーのチェンジは起こる」

砂田氏は「今考えているのは、今旅行に行こうと思っていない人たちや、行くのが面倒で行動に移さない人たちを、どのように旅行に行かせるようにするか」だと話す。

既存の仕組みでも旅行に行けることは行けるが、行かない人が多いのも現実だ。この人たちを動かせば、マーケットはさらに大きくなる。それをKabuK Styleはアルゴリズムに基づいたサブスクリプションサービスでやろうとしている。

「大切なのは、コスパ以外に、エモパとタイパだと思う」。エモーショナルパフォーマンスは、旅行の頻度を上げることで、人生が豊かになると思ってもらうこと。タイム・パフォーマンスは、いかに手軽に予約・購入できるかどうか。「HafH」では3クリックで予約ができるユーザビリティにこだわっているという。

コロナ禍は、旅行スタイル以前にライフスタイルに変化をもたらしている。ライフスタイルが変化すると、そこに市場が生まれ、新しいサービスが立ち上がり、資金も集まる。そして、それを使う人が出てくると、またライフスタイルが変わってくる。「そのスパイラルはすでに始まっていると思う。コロナがそれを加速させた。逆回転はしないだろう」。

そのスパイラルが進むなか、「10年後には旅行業界でもプレイヤーのチェンジは起こるだろう」と砂田氏。新しい旅行という社会インフラを創る。「投資家としても、経営者としても、それができなければやる意味がない。これからもカブいていきたい」と先を見据えた。

聞き手:トラベルボイス編集長 山岡薫

記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹

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