万博2025を軸にしてインバウンドの地方への誘客を図るには? 万博公式の旅行予約サイトから、観光商品づくりの支援まで、最新動向を聞いてきた

2025年に大阪で開催される2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の想定入場者数は約2820万人。そのうち約350万人のインバウンド客が見込まれている。万博の開催を機に日本各地にインバウンドを呼び込み、持続可能な観光振興につなげていくためにはどうすればよいのか。2023年10月に開かれた「ツーリズムEXPOジャパン2023」の「万博・観光シンポジウム」では、事例発表などを通してその方策を探った。

関西観光本部専務理事の東井芳隆氏が基調講演をおこない、その後、沖縄観光コンベンションビューロー会長の下地芳郎氏、JTB代表取締役社長執行役員の山北栄二郎氏、2025年日本国際博覧会協会担当局長(中小企業・地域連携)の堺井啓公氏、日本政府観光局理事の若松務氏がそれぞれ事例発表。モデレーターは東武トップツアーズ代表取締役社長執行役員の百木田康二氏が務めた。

官民連携、ワンストップで旅行者をサポート -関西観光本部・東井氏

広域連携DMOである関西観光本部は、関西2府4県と福井、三重、鳥取、徳島を合わせた2府8県を対象エリアとしている。東井氏は「スプリングボードとしての大阪・関西万博」と題し、万博の開催に向けて、エリア内を巡るインバウンド向けの旅行商品の開発や、ワンストップで旅行者をサポートする受け入れ態勢づくりを進めていることなどを説明した。

東井氏は取り組みのポイントとして、(1)関西がインバウンド受け入れに貢献する、(2)インバウンドの訪問率が高い大阪、京都、奈良、兵庫が近接している地の利を生かす、(3)発着地としての関西国際空港の利用促進を挙げた。先に挙げた4市を拠点に広域に伸びていくルートを設定し、半日、日帰り、1泊2日など万博の前後に回れる旅行商品を開発している。

「『いのち輝く未来社会のデザイン』という万博のテーマと連動した商品を作り、関西全体をパビリオン化することが収益につながる」と東井氏。快適な旅行をサポートするため、2023年3月に設立された2府8県、4政令市の企業や政府・行政機関、関係団体などでつくるEXPO2025関西観光推進協議会が外部の機関と連携しながら、ワンストップで旅行商品の開発や整理、プロモーション、旅行者への情報提供をおこなっていくとした。

アジア太平洋研究所の試算では、万博会場だけでなく関西全体をパビリオンとして展開した場合、4000~5000億円程度の経済効果がプラスして見込めるとされている。東井氏はこれを目指すとしながらも「万博は通過点。広域観光の基盤、商品ラインアップやゲートウェイをレガシーとして残し、関西がグローバルなポジションを確立したい」と意気込んだ。

関西観光本部専務理事の東井芳隆氏

地域特性を生かした誘客、付加価値のあるツーリズムの展開を

続いての事例発表では、沖縄観光コンベンションビューローの下地氏が沖縄観光の展望について話した。

下地氏は、県内旅行消費額が沖縄のGDPに占める割合が他地域と比べて突出して高く、観光が地域経済において重要であることを説明。「世界から選ばれる持続可能な観光地」を目指し、経済効果だけを重視するのではなく、自然や県民の生活にも配慮した環境整備、次世代を担う人材育成などに取り組むとした。

大阪・関西万博については、大学や沖縄美ら海水族館といった沖縄の科学技術の拠点を万博のサテライトパビリオンとする構想を披露。「新しいものを作るだけではなくて、既存のそれぞれの地域の特性を生かして大阪万博につなげていきたい」と話した。

一方で、関西以外の地域では万博への当事者意識が生まれにくいという課題もある。JTBの山北氏は「発と着の視点、両方から(万博を)盛り上げていかなければいけない。万博に来る方々が日本全国を訪れ、その地域が潤っていくというムーブメントにつなげるためには、着の目線を持っていかなければならない」と強調した。

山北氏は物価が上昇する中、「ホテルの単価も非常に上がり、今までとは違う単価のイメージでインバウンドが復活しつつある」と指摘。付加価値のあるツーリズムを展開していくために、DX化や個々の観光客のニーズに合わせたCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上、コンテンツの高付加価値化を強化していく必要があると説いた。また、デジタル基盤と人間にしかできないことを生かして旅行者と地域、企業をつなぐ考えを示した。

来日前に旅行予約ができるサイト構築、海外向けの広報を強化

それでは、実際にどのようにして外国人観光客に地域を回ってもらうのか。2025年日本国際博覧会協会の堺井氏はそのための仕掛けとして構築している万博の公式観光ポータルサイト「Expo2025 Official Experiential Travel Guides」の概要を説明した。

同サイトは2024年4月に開設される予定で、2023年10月にティザーサイトが先行オープン。日本語や英語、中国語、韓国語に対応する。全国各地の旅行商品を販売する仕様で、万博来場者は入場予約日の前後で興味がある商品を購入することができる。「日本に来る前から商品を購入し、その地域に行ってもらう仕組みを作る。万博のテーマと親和性があり、旅行者にとって満足度が高い高付加価値商品を載せたい」(堺井氏)

日本政府観光局の若松氏は、旅行会社向けのセミナーや海外メディアなどを対象にした招請事業などを通じてこうした旅行商品作りを支援していく考えを示した。万博では、中国や台湾を中心にアジア、アメリカ、イタリア、ドイツ、中東地域などをターゲット市場に設定。万博を絡めた訪日旅行のプロモーションに力を入れていくとした。

日本に拠点がある海外メディアに対しては、体験ツアーに参加してもらうなどして、万博と観光を結び付けた記事の発信につなげる取り組みをおこなっている。若松氏は「万博のテーマと連動させた日本各地のサステナブル・ツーリズムを交流拡大の観点から発信し、地方誘客を促進していく。万博をフックにして、各地方にも行っていただきたい」と意気込んだ。

全国的に経済の裨益ができるような仕組みを

クロストークでは、東武トップツアーズの百木田氏が、事例発表をした4人に各地域で前向きに取り組むための方策や、持続可能な観光振興策をどのようにして進めていけばよいかなどを問いかけた。事例発表者からは「各地で産学官の地域協議会を開催し、万博を自分事にしていく必要がある」(下地氏)、「その地域を訪れる必然性が生まれるストーリーを地域と共に作り、旅行者の分散を図る」(山北氏)などの意見が出た。

百木田氏は、万博に向けた取り組みが人手不足や人材育成、生産性の向上といった観光業界が抱える問題の改善にもつながると期待。「万博は大阪、関西だけではなく、日本としてのイベント。全国的に経済の裨益ができるような仕組みを作ることが大事」などとまとめた。

東武トップツアーズ代表取締役社長執行役員の百木田康二氏

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