世界2大ホテル「マリオット vs ヒルトン」、その違いを決算報告書から読み解いてみた【外電】 

マリオットとヒルトンの年間決算報告書からは、様々なことが分かる。各社のロイヤルティ・プログラムから市場シェア動向まで、気になるポイントを取り上げた。

マリオット・インターナショナルといえば世界最大手のホテルチェーンであり、その好敵手がヒルトン・ワールドワイドだ。両社がこのほど米国証券取引委員会に提出した年間の業績報告書、通称「10-K」から、注目すべき内容について、以下に紹介しよう。

1. ロイヤルティ・プログラム会員の獲得競争

2023年末時点におけるそれぞれのロイヤルティ・プログラム会員数は、

  • ヒルトンが1億8000万人、前年比で19%増加。
  • マリオットが1億9600万人、同10.7%増。

両社を比較すると、ヒルトンの方が会員拡大のペースは速いが、人数規模ではマリオットが上回っている。今後も同じ増加ペースが続くと仮定した場合、2025年初めから半ばの決算レポートでは、ヒルトンの会員数がマリオットを超えることになる。

2. 会員向け特典総額はマリオットが圧倒的に高い

2023年末で比較すると、マリオットの会員プログラムの方が、会員向けに提供したリワードの総額はずっと高かった。理由は、ヒルトンよりも会員プログラムの規模が大きく、会員による利用も多いからだ。

ホテルのロイヤルティ・プログラムの仕組みは複雑だ。ホテル経営者は、宿泊客から受けとった料金の一部を別途、積み立てておき、会員がポイントを使って何かを購入した時は、その代金を積立金から引き出す。マリオットもヒルトンも、会員顧客が安心して累積ポイントを使い、サービスを購入できるように、リワード提供に充分な資金を確保しておくようホテル経営者に求めている。この額は、10-K報告書の中では、負債として記載される。

マリオットの顧客ロイヤルティ・プログラム関連の短期負債は33億3000万ドル(約4995億円)、さらに長期負債は36億7000万ドル(約5505億円)。この金額は、会員がロイヤルティ・プログラムを通じて獲得したサービスの総額にかなり近いと言えるだろう。

一方、ヒルトンの顧客ロイヤルティ・プログラム関連の短期負債はわずか12億ドル(約1800億円)、長期負債は15億3000万ドル(約2295億円)だった。

3. どちらも収益力は6年前より格段に改善

企業の収益力をチェックする指標は複数あるが、ここでは税金や利息、減価償却を差し引く前の利益(EBITDA)をもとに比較してみよう。

マリオットの場合、ホテル所有者との精算後、調整後EBITDA(一時的に発生した諸コストを除外したEBITDA)は、2017年実績で純利益の62%を占めていた。これが2023年実績では72.9%となり、11ポイントほど増加している。

ヒルトンの場合、同じく2017年の調整後EBITDAは、同56%となる19億6500万ドル(約2947億5000万円)。これに対し、2023年は同69%で30億8900万ドル(約4633億5000万円)となり、約13ポイント増加した。

4. マリオットのバケーションレンタル事業は未だ小さい

マリオットのホーム&ヴィラ事業は、まだ売上や利益が少なく、10-Kに詳しく数字を記載する義務はない。エアビーアンドビーにとって、まだ脅威ではない。

ただし、マリオットでは同分野について以下のように記している。

「短期宿泊マーケット(民泊)は非常に競争が激しい。米国内および海外の大手ホテルチェーンやフランチャイズ展開事業者、独立系ホテル、さらに自宅や集合住宅の一室を旅行者向けに短期レンタルしているエアビーアンドビーやバーボなどのオンライン・プラットフォームがしのぎを削っている」(マリオットの10-K)。

ヒルトンでは、いわゆる民泊について一切言及していない。

5. 多様性やインクルージョンの取り組みアピールに注力するヒルトン

ヒルトンでは、2023年末時点での従業員について、同社による直接雇用および第三者経由のマネジメントを合わせた全体の43%が女性であるとしている。さらに経営幹部に占める女性比率は42%、ホテルの経営トップでは24%になるという。

また、同社の米国法人については、幹部社員の「約20%は、人種的に多様性がある」、米国内ホテルの経営幹部では「同29%が人種的に多様性がある」としている。

マリオットの10-K報告書では、同様のデータは公開していない。

6. 負債額はマリオットよりヒルトンがやや多い

企業の負債についても、色々な評価手法があるが、資産総額に占める比率は一つの目安になる。

ヒルトンの年度末における長期負債は91億5000万ドル(約1兆3725億円)で、総資産額に占める比率は59%。一方、マリオットの長期負債は同46%だった。

信用調査会社では、マリオットの方が返済能力はやや高いという判断になる。S&Pグローバル格付けでは、ヒルトンの評価はBB+、マリオットはこれより一段高いBBBとなっており、他の信用格付け会社による評価もほぼ同じだ。

7. ヒルトンもマリオットも、実はそのイメージほどグローバルではない

ヒルトンの2023年度売上は、米国市場では79億8000万ドル(約1兆1970億円)、これが全体の78%を占めている。同様に、マリオットも売上全体の78%を米国市場で得ている。

両社からは、米国の客室価格が世界で最も高いレベルであること、ドルが他の通貨より強いことなどが理由であり、米国偏重ではないとの反論があるかもしれない。だが、客室数ベースでざっと見積もると、ヒルトンは全体の70%、マリオットは同67%が米国内にある。

8. 独立系ホテルからシェアを奪うマリオット

マリオットによると、2017年末の時点で、米国のホテル客室のうち約71%が米国系ブランドで、マリオットの米国ホテル市場におけるシェアは、客室数ベースで約15%だった。

これに対し、2023年末の米国ホテル客室数に占める米国系ブランドの比率は1ポイント増となり、マリオットの米国ホテル市場シェアも同じく1ポイント増の16%に拡大したとの推計を明らかにしている。

同様の数字は、ヒルトンの報告書には特に記載がない。

9. シェラトンにテコ入れするマリオット、結果は微妙

マリオットは2018年、傘下のブランドの一つ「シェラトン」の刷新に着手した。もともとスターウッドとの統合で獲得したブランドで、諸手続きは2016年に完了していた。マリオットはシェラトン系ホテルのオーナーらに対し、5億ドルを投じて改装工事を行えば、外観や雰囲気を一新することができると訴えていた。

しかし、一連の投資は果たして成果につながったのか?

改装工事を行う前の2017年、北米におけるシェラトン系ホテルの稼働客室当たり収益は116ドル(約1万7400円)だったが、2023年実績は118.69ドル(約1万7800円)。この間の米国インフレ率が22%なので、残念な数字だろう。

12月31日時点で、同社が世界で展開するシェラトンは436軒にのぼる。シェラトン・グランド・シカゴを所有する不動産会社、ティシュマン・リアルティとの間で争っていた裁判では、マリオット側に対し、5億ドルでの同ホテル買い取りが求められる結果になった。こうした展開は、不動産を所有することなく、身軽にホテルを運営するマリオットの事業モデルにとって好ましくない。

シェラトンは今も資産価値のあるブランドだ。2023年にマリオットが欧州向けに打ち出したセレクト・サービス型ホテルには、「フォーポインツ・エクスプレス・バイ・シェラトン」の名称を冠しており、同社が今もシェラトンのブランド力が集客に役立つと考えていることは明白だ。マリオットによるシェラトン獲得が成功だったのかどうか、はっきりするのはもう少し先になりそうだ。

10. マリオットによるシティホテルズ買収の詳細

メキシコのHoteles City Expressから「シティ・エクスプレス」のブランド権利を買い取った時の価格について、マリオットでは1億ドル(約150億円)と発表していた。

だが10―K報告書からは、もう少し詳しいことが明らかになった。メキシコの他、コスタリカ、コロンビア、そしてチリの沿岸部にある149軒の買収価格は8500万ドル(約127億5000万円)。そのほかのフランチャイズ・ホテルは契約期間が主に20年間で、こちらの資産価値は2100万ドル(約31億5000万円)。合計金額は1億100万ドル(約151億5000万円)だった。

11. マリオットによる料飲関連ロイヤルティ料は増加傾向

マリオットの2022年ホテル・フランチャイズ契約では、一部のフルサービス・ブランドについては、料飲部門の売上に対し、2~3%のロイヤリティ料を設定していた。この金額は2023年、「最大で4%まで」に引き上げられた。

同社のアンソニー・カプアーノ社長兼CEOによると、特にラグジュアリーホテルについては、レストランやバーでの売上を拡大することが、ホテルオーナー支援における重点目標の一つになっており、その理由は、旅行者も地元の利用客も、バーやレストランの評判をもとに宿泊先ホテルを選ぶ傾向が強くなっているからだという。そこでマリオットでは、本社にテストキッチンを設けた他、主要ブランドの担当者が商品やサービス改善策などをアドバイスしている。

12. ヒルトンは気候変動対策での目標を設定

ヒルトンの10-K報告書の中では、気候変動プランについて、800ワードを費やして説明している。同社では2022年、科学的根拠にもとづく目標として、排出係数(経済活動あたりの排出ガス量)を自社運営ホテルでは75%、フランチャイズ展開ホテルについては同56%削減することを決めた経緯について解説。ベースラインは2008年度実績とし、2030年までの目標値達成を目指す。

一方、マリオットの説明は短い。「当社の気候変動への取り組みは、まず短期的には、科学的根拠にもとづく排出ガス削減目標を設定すること、より長期的には2050年までに温室効果ガス排出が実質ゼロとなるバリューチェーンを構築できるように同様の目標を設定すること。2023年9月には、当社の排出ガス削減目標をSBTi(Science Based Targets initiative)に提出しており、現在、内容の確認を待っている。2024年中には完了する見込み」。

※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイス編集部が算出

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(Skift)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Marriott and Hilton: 12 Takeaways From Their Annual Reports 

著者:ショーン・オニール氏


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