気候変動によって、米国のスキー場は2000年から2019年にかけておよそ50億ドル(約7500億円)の損失を受けたという研究が発表された。今後、二酸化炭素排出量の削減次第では、2050年代には年間の損失額は約10億ドル(約1500億円)になる可能性があるという。
共同研究者でウォータールー大学の科学者であるダニエル・スコット氏は「気候変動によって、地球の裏側で起こっている種の絶滅や、自分の地域以外で起こる洪水などを気にする人は少ないかもしれない。しかし、身近なスポーツへの影響への関心は高いだろう」と話す。
暖かい日が続いた今冬、北米と欧州ではさまざまなスポーツ関連イベントが影響を受けた。米メイン州では犬ぞりレースが中止。ミネソタ州では早々とゴルフ場がオープンし、オーストリアでは、スキー競技開催のために、前年に貯めておいた雪を使うことになった。
平均稼働日数も減少、スキーヤーの行動も変わる?
研究では、米国の4カ所の主要市場(北東部、中西部、ロッキー山脈、太平洋西部)における2000年から2019年の平均稼働日数は、人工造雪をしても、1960年から1979年のスキーシーズンと比較して5.5日から7.1日短かくなったことが判明した。
今後の楽観的なシナリオでも、2050年代には1シーズンで14日から33日短くなり、二酸化炭素排出量がハイレベルで続く場合、損失日数はその2倍になるという。
スコット氏は「スキー産業の未来は実際に私たちの手の中にある」と警鐘を鳴らす。
この研究は、気候変動がスキー業界にどれだけの損失を与えているかについてのデータがないことから行われた。このデータは、業界が今後、化石燃料企業に対して起こすかもしれない訴訟の根拠として使われるかもしれない。実際、現在コロラド州の地元コミュニティは石油会社エクソンモービルとサンコール・エナジーを相手取り、気候変動の影響によるコスト増加に対して訴訟を起こしている。
ある研究者は、「人工造雪で進行中の気候変動を完全に相殺することはもはや不可能。米国のほとんどのスキー場で最盛期の時代は過ぎ去った可能性が高い」とまで話している。
一方、国立雪氷データセンターの上級科学者ジュリアン・ストローブ氏は、今後降る雪の質の低下に着目。「雪の状態が悪くなることが多くなれば、スキーヤーの行動も変わるのではないか」と指摘した。
雪不足でスキーができない場合、あるいは雪の状態が悪い場合、スキーヤーは別のスキー場を探すだろうか。それともマウンテンバイクなど別のスポーツに乗り換えるだろうか。スコット氏は「それが最も知りたいことの一つ。それが分かれば、新たなビジネスモデルを考えることができる」と話した。
※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイス編集部が算出