欧州では、バルセロナ、プラハ、アムステルダムなど、経済が観光に大きく依存している都市でさえ、観光が生活の質を損なっていることに抗議して、地元の人々がデモに繰り出すケースが増えている。
2024年8月にはバルセロナでは水鉄砲を振り回す反観光客デモが発生し、アテネなどでは観光に敵対的な落書きが散見された。欧州のサントリーニ島、プラハ、ブルージュ、ドゥブロヴニク、フィレンツェなどでは、人気の観光地であるがゆえにマイナスの側面がますます強まっている。
そうした都市や地域には、今後、数年間でさらに大量の観光客の流入が見込まれている。
一方で、今夏、パリで開催された五輪では、逆説的な傾向が見られた。五輪目的の旅行者が増加した一方で、価格の高騰や混雑を避けるために、パリから脱出する人も多く見られた。
旅行中にどのように行動するか考える義務がある
地元住民の主な不満の原因は、観光客の行儀の悪さだ。また、マナーの悪い観光客だけでなく、あまりにも人数が多すぎるため、行儀のいい観光客まで重荷になっている現状がある。
オランダ観光局のマーケティングディレクター、シャレル・ファン・ダム氏は「私たち全員が旅行を権利と考え、『まあ、どこに行ってもいい』と考えるという風潮がある。しかし、同時に私たちには、どのように旅行するか、旅行中にどのように行動するか考える義務がある」と話す。
例えば、オランダは2030年末までに年間約6000万人の訪問者を見込んでおり、これは約1800万人の同国の人口をはるかに上回る。このような不均衡は欧州全体で見られる。
オーバーツーリズムに対する地元住民の不満自体は目新しいものではない。しかし、ここ数ヶ月、地元の反発がニュースの見出しになることが多くなった。
バルセロナのデモ参加者は、バケーションレンタル物件(民泊)が増加することによる家賃高騰に憤慨し、有名なランブラス通りの屋外レストランに水をかけた。マヨルカ島でも街頭デモが繰り返し発生した。
各都市で対策も効果は限定的
各地域も対策に乗り出しているが、効果的な結果は出ていない。イタリア・ベネチアでは4月から日帰り旅行者に5ユーロを課金する仕組みを導入したが、3か月間で市が得た240万ドル(約3.5億円)の収入は、過密問題の大きさを浮き彫りにしただけと批判する声も多い。この仕組みに反対した市議会議員のジョバンニ・アンドレア・マルティーニ氏は、「観光客の流れを管理するシステムであるはずだったが、何も管理できなかった。昨年の同じ日よりも多くの観光客が市に入ったのだ」と嘆く。
一部の都市では、アメとムチのアプローチに乗り出した。デンマーク・コペンハーゲンで始まった実証プログラムでは、ゴミ拾いや公共交通機関の利用など環境に優しい行動をする訪問者に、無料のアイスクリームなどちょっとした特典を提供している。
一方、アムステルダムでは、何重も規制をかけている。路上飲酒を取り締まり、「飾り窓」の見物客を排除し、民泊用のアパートの賃貸を抑制しようとしている。主にイギリスの独身男性向けパーティー客を対象とした「Stay Away(近寄らないで)」キャンペーンは有名になった。
SNSの影響で観光地以外でも問題
観光にはトレードオフの側面がある。多くの場合は経済的利益となるが、時に社会的災難となる。
アムステルダム中心部のクッキーショップ「クークマケリ」の長い行列に地元客もスタッフも戸惑った。そこにはクッキーが1種類しかないにも関わらずだ。原因はすぐにわかった。その店は、インスタグラムに投稿されていたのだ。結局、そのクッキーショップは500メートルほど離れたもっと広い場所に移転した。
観光客による迷惑行為は、特定の都市の狭い地域に限定されることが多いが、徐々に外に広がっているのも事実だ。アムステルダムのヨルダーン地区は、運河の中央環状線内にあるが、伝統的に静かな住宅街。しかし、今では自撮り写真を撮ろうとする観光客が頻繁に訪れる。愛らしい家庭的な雰囲気をソーシャルメディアで知ったからだ。
パンデミックは多くの観光地に衝撃を与えた。突然、大勢の観光客が訪れていたランドマークから人が消えた。一方で、混雑する観光地を訪れることを避けていた地元の人々は、皮肉にもパンデミックによってその素晴らしさを十分に認識する機会になったのだ。
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